あらしの野球教室!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
16 / 36

第4話 四人目のメンバー⑷

しおりを挟む

 家族以外に獣体を見せることは、獣人族にとって裸を見られる以上に恥ずかしくてたまらないんだって。

 なので、普通は番関係になったあとに見せるらしい。

 だからかな、いくら頼んでも、カイナル様は見せてくれないんだよね。でもそれって、少し卑怯だって思うのは、私だけかな。考えればすぐにわかることだけど、完全に逃げ道を塞いだ上でのことだよね。正式な番になる前に、最悪逃げられることもあるから見せないって……なんか、やだな。

 そもそも、がっちりと、外堀をこれでもかって埋めたのに、まだ心配するなんて……私を信用してないのか、それが獣人族の性質なのか……後者だって思いたいな。

「……いきなりで、疲れたか? 怒っているのか? ことを速やかに執り行いたかったんだ。すまない」

 この日は、王城で泊まることとなったのだけど、知らず知らずのうちに溜め息を何度も吐いていたみたい。部屋に案内された途端に、なんにも話さなくなったんだから、機嫌が悪いと勘ぐられても仕方ないよね。まぁ実際は、あまり怒ってないけど。素直に、それを言うのは嫌。

「…………事情と経緯はわかりました。それが必要なことも。コーマン王国第一王女様の件もありますし」

 張り合うには強力な手札が必要。私が王女になったことで、手に入れることができた。

「どうして? そんな窮屈な喋り方なんだ……やっぱり、怒ってるのか……俺は、少しでもシアを守りたかっただけなのだ」

 ふさふさの耳がペタンとなってる。尻尾も垂れたまま。表情があまり変わらないカイナル様が、唯一素直なところ。

 耳と尻尾がなければ、ここまで私が心を預けることはなかったと思う。日頃の発言が発言だからね……表情も乏しいし。

「……わかってますよ。散々、私が愚痴ってましたし。平民であることを一番気にしていたのも、私だから、それをどうにかしようと考えたのでしょう」

「シア……」

「ただし、これからは私にも決定権を与えてください。なにも知らないところで決まるのは嫌です」

「そうだな……そうしよう」

 眩しい!!

 普段、あまり表情が変わらない美形のホッとした笑みは、かなりの攻撃力があるんだよね。七年一緒にいるのに、まだ慣れないよ。直視できないわ。

「それで、カイナル様、私のお願いをきいてはくれませんか?」

 少し目線を下げ顔を近付けてからそうお願いすると、カイナル様は考えていた以上に動揺して狼狽える。

 えっ……!?

「なに、壁に張り付いているのですか?」

 それも、鼻を押さえて。

「なっ、なんでもない!! 気にするな!!」

 そう叫ぶと、風のように部屋を出ていったよ。もしかして、疲れてたのかな? それとも、私臭かった? 慌てて袖口を嗅いでみたけど、特に臭くはなかった。なんで?

 たまに……カイナル様って、想像できない行動とるんだよね。理由を訊いても教えてくれないし、深く訊こうとすると誤魔化して逃げる。

 まぁ、嫌われてはいないし、不快に感じてないみたいだし、いいかな。結局、獣体の件切り出せなかったよ……残念。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

処理中です...