あらしの野球教室!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
9 / 36

第3話 大海原高校の憂鬱⑵

しおりを挟む





 パァン パァン と鋭い音が響き渡る。
 野球部専用グラウンドの一角に設けられたブルペンで、新入部員のピッチング練習が行われている。
 一人ずつ名前を呼ばれ、ネットに向かって十球を投げる。
 それを横で計測し記録をとる二年生部員が、次の新入部員の名を呼び出す。

「よし、次」

 二年のリーダーである大西おおにし 洋がひろし声を上げる。

「雁部。出ろ」

 出番がまだの者も、十球投げ終えた者も、先輩が呼んだ名前に反応して、簡易ベンチに座る彼に注目が集まる。

「はい」

 その視線を一身に浴びて、大海原おおうなばら高校一年 雁部かりぶ かいはベンチから立ち上がった。
 ブルペンに入り、ネットに向かって構えを取る。
 その姿は昨日入部したばかりの一年生とは思えないほど、どこにも余分な力が入っていない。特別に身長が高いという訳ではないが、程よく均整のとれた体格はマウンドによく映える。
 一球、振りかぶって雁部が投げた。

 タアァァンッ

 ネットに綺麗に吸い込まれたボールは、ほかのものよりも一際強い余韻を残して風を切った。
 ほう、とギャラリーが息を飲んだ。

「さすが、うちが三年ぶりにスカウトしただけのことはあるな」

 続く雁部の投球を見守りながら、記録をとる大西は満足げに頷く。

「生意気そうでいけ好かないけどな」

 隣で同じく二年の船澤ふなさわ みなとがそうぼやく。
 大海原高校は選手のスカウトにはあまり力を入れておらず、スポーツ推薦で入学する生徒は年に一人か二人、野球部では三年前に一人取ったのが最後だ。
 それだけに、大海原高校がスポーツ推薦を行使するか否かは毎年ちょっとした話題になる。
 そして、今年の話題の中心は雁部 戒だ。

「うちの最有力エース候補だな」

 二年生の正捕手としては、大いに期待とプレッシャーをかけていきたい。この中の誰かがいずれ自分とバッテリーを組むことになるからだ。
 大西はボールがネットを叩く小気味のいい音を聞きながら笑みを浮かべた。

「あの、先輩」

 十球を投げ終えた雁部がブルペンを降りて大西の元にやってくる。

「ん。なんだ」

 何やら深刻そうな様子の雁部に、大西は先輩としての顔を向ける。
 雁部は少し言いにくそうに言った。

「少し休憩させてもらえますか」
「どうした?体調が悪いのか」

 たった今まで一年とは思えぬ好投をしていたというのにと首を捻る二年生二人に、雁部は深刻そうな表情を崩さぬまま言った。

「いえ。幼なじみに電話して無事を確かめなきゃいけない時間なんで」
「お前の幼なじみはサバイバルでもしてんの!?」

 予想外の返答に思わず妙な突っ込みをしてしまった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

処理中です...