あらしの野球教室!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
6 / 36

第2話 未知との遭遇⑴

しおりを挟む



「よぉーっし! 天木田高校野球部! 甲子園目指して頑張るぞーっ!」

 よく陽の当たる中庭で、野分は元気いっぱいに叫んだ。

「野球「部」じゃねえだろ。二人しかいねぇんだ」

 冷めた口調で晴が突っ込む。
 野分は一瞬ぐっと口を噤んだが、すぐに気を取り直して言い返した。

「二人だけじゃないよ! 霧原くんがいる!」
「来ないじゃねえかよ」

 晴の容赦ない突っ込みに、今度こそ野分は口を噤む。
 昨日、鞄と間違えて持ってきたという三角定規を教室に戻しに行こうとする日和に、「明日の放課後、中庭に来てくれ」と頼んだのだが、ホームルームが終わって一時間以上経つというのに日和が現れない。
 昨日ちゃんとどのクラスなのか聞いておけばよかったと、野分はいじいじと膝を抱えた。
 急に落ち込みだした野分に、昨日からテンションが上がったり下がったり忙しい奴だと、晴は野分の横で呆れて肩をすくめる。とにかく、このままこうしていても埒が明かない。

「おい、野分……」

 晴が適当に慰めて野分を立たせようと口を開いた。ちょうどその時、

「ごめん、遅れた」

 校舎の陰からひょこひょこと日和が現れた。

「霧原くん! 来てくれたんだね!」

 途端に、野分が元気になって跳ね起きる。晴は複雑な気分で舌打ちをした。
 日和は頭を掻きながら照れくさそうに微笑んだ。

「すぐに来ようとしたんだけど、教室からここに来るまでに迷っちゃって……気づいたら三丁目のパン屋の前にいて、そこから戻ってきたから時間がかかっちゃった」
「三丁目のパン屋!? 教室から中庭に来るのになんで校門から出ちゃったの!?」

 思わず突っ込む野分に、日和はてへへと笑ってから真顔に戻って言った。

「え~と、それで、何をすればいいんだっけ? 「お灸と一緒に口内炎を燻す」んだっけ?」
「違うよっ! 「野球で一緒に甲子園を目指す」って言ったんだよ!!」

 かなり無理のある聞き違いを披露する日和は、さらに野分に向かって、

「悪い。名前なんだっけ? 確か……あ、あからさまな脇?」
嵐山あらしやま 野分のわき!!」

 あからさまな脇ってなんだ。そんな人間の名前があってたまるか。
 日和は申し訳なさそうに視線を逸らす。

「悪い。オレ、昔から他人の名前は二文字以上覚えられなくて……」
「二文字!? どんだけ記憶力低いの!?」

 とんだカミングアウトに、野分は「ていうことは「あからさまな脇」は結構頑張った方じゃないか?」とうっかり感心しかけて、そんな自分に首を横に振った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

処理中です...