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第2話 未知との遭遇⑴
しおりを挟む「よぉーっし! 天木田高校野球部! 甲子園目指して頑張るぞーっ!」
よく陽の当たる中庭で、野分は元気いっぱいに叫んだ。
「野球「部」じゃねえだろ。二人しかいねぇんだ」
冷めた口調で晴が突っ込む。
野分は一瞬ぐっと口を噤んだが、すぐに気を取り直して言い返した。
「二人だけじゃないよ! 霧原くんがいる!」
「来ないじゃねえかよ」
晴の容赦ない突っ込みに、今度こそ野分は口を噤む。
昨日、鞄と間違えて持ってきたという三角定規を教室に戻しに行こうとする日和に、「明日の放課後、中庭に来てくれ」と頼んだのだが、ホームルームが終わって一時間以上経つというのに日和が現れない。
昨日ちゃんとどのクラスなのか聞いておけばよかったと、野分はいじいじと膝を抱えた。
急に落ち込みだした野分に、昨日からテンションが上がったり下がったり忙しい奴だと、晴は野分の横で呆れて肩をすくめる。とにかく、このままこうしていても埒が明かない。
「おい、野分……」
晴が適当に慰めて野分を立たせようと口を開いた。ちょうどその時、
「ごめん、遅れた」
校舎の陰からひょこひょこと日和が現れた。
「霧原くん! 来てくれたんだね!」
途端に、野分が元気になって跳ね起きる。晴は複雑な気分で舌打ちをした。
日和は頭を掻きながら照れくさそうに微笑んだ。
「すぐに来ようとしたんだけど、教室からここに来るまでに迷っちゃって……気づいたら三丁目のパン屋の前にいて、そこから戻ってきたから時間がかかっちゃった」
「三丁目のパン屋!? 教室から中庭に来るのになんで校門から出ちゃったの!?」
思わず突っ込む野分に、日和はてへへと笑ってから真顔に戻って言った。
「え~と、それで、何をすればいいんだっけ? 「お灸と一緒に口内炎を燻す」んだっけ?」
「違うよっ! 「野球で一緒に甲子園を目指す」って言ったんだよ!!」
かなり無理のある聞き違いを披露する日和は、さらに野分に向かって、
「悪い。名前なんだっけ? 確か……あ、あからさまな脇?」
「嵐山 野分!!」
あからさまな脇ってなんだ。そんな人間の名前があってたまるか。
日和は申し訳なさそうに視線を逸らす。
「悪い。オレ、昔から他人の名前は二文字以上覚えられなくて……」
「二文字!? どんだけ記憶力低いの!?」
とんだカミングアウトに、野分は「ていうことは「あからさまな脇」は結構頑張った方じゃないか?」とうっかり感心しかけて、そんな自分に首を横に振った。
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