あらしの野球教室!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
4 / 36

第1話 あらしの入学式⑷

しおりを挟む





「ねえキミ! 野球部に入らない?」

 教室に残っていた新入生に片っ端から声をかけて歩く。
 その様は若干鬼気迫るものがあって、言われた方は引き気味なのだが、今の野分はそんなこと気にしていられない。一刻も早く自分と晴の他に七人のメンバーを集めなければ、甲子園の夢が遠のいてしまう。
 だが、焦る野分とはうらはらに、返ってくる答えはそっけないものばかりだ。

「野球? 悪いけど、興味ない」
「つーか、野球部なんか創ったって無駄だって」
「そうそう。甲子園常連の大海原高校がいるからな」



「ばっきゃろーっ! てめーらそれでもチ〇ポついてんのかーっ!!」
「おいこら野分」

 結局、成果ゼロで誰もいなくなった教室の窓から十五の乙女にあるまじき雄叫びを上げる野分を、晴は呆れながら窓枠から引き剥がした。

「もう帰るぞ」

 窓の外はすでに夕日で赤く染まっている。新入生はほとんど帰宅し、残っているのはそれこそ部活に励む生徒ばかりだ。

「うう~」

 晴に引きずられながら無念の唸りを上げる野分に呆れながらも、放って先に帰るということは出来ない。損な性分だと自嘲しながら、晴は野分が一番元気になる提案をしてやる。

「……キャッチボールの相手してやるから」

 その言葉に、野分はようやく引きずられるのを止めて立ち上がった。まだ表情は暗いが、エナメルからのろのろとグローブとボールを取り出すところを見ると、少しは元気が出たようだ。
 再びグラウンドに戻って、隅の方でキャッチボールをしながら、野分は力なく言った。

「明日から、まだ他の部に入っていない生徒に声かけてみるよ……」

 今日から早速部活を始めるつもりだっただけに落胆は大きいが、幸い自分は一人ではない。こうして球を受けてくれる存在がある。
 自分に付き合ってくれる晴のためにも、裏工作までしてくれた伯父と伯母のためにも、なんとしてでもあと七人集めてみせると野分は誓った。
 直に勧誘するだけではなくポスターを作ったり、とにかく出来ることをしようと思う。もしかしたら、二、三年生の中にも野球経験者がいるかもしれない。

「俺は手伝わねえぞ」

 野分の放ったボールをキャッチしながら晴が言う。
 晴は口と態度はドライだが、なんだかんだで最終的には野分の味方をしてくれることを良く知っている。
 しかし、こんな時ぐらい励ましてくれてもいいのに、と野分は口を尖らせた。

「それでも……諦めないもんっ!」

 今日一日の期待やら興奮やら鬱憤やらを込めて、野分はうっかり渾身の一球を放ってしまった。

「バカっ!」

 晴が慌てて手を伸ばすが、ボールは晴の真横をすり抜けて校庭の端を歩いていた少年に向かう。

「ああっ、危ないっ!」

 野分が叫んだ。
 声に反応したのか、少年が振り向いた。そして——

 カキィィィンッ

 小気味の良い音を立てて、ボールは野分と晴の頭上を越えて赤い空に吸い込まれていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クライエラの幽微なる日常 ~怪異現象対策課捜査file~

ゆるり
キャラ文芸
正義感の強い警察官と思念を読み取る霊能者によるミステリー風オカルトファンタジー。 警察官の神田智輝は『怪異現象対策課』という聞き馴染みのない部署に配属された。そこは、科学では解明できないような怪異現象が関わる相談ごとを捜査する部署らしい。 智輝は怪異現象に懐疑的な思いを抱きながらも、怪異現象対策課の協力者である榊本葵と共に捜査に取り組む。 果たしてこの世に本当に怪異現象は存在するのか? 存在するとして、警察が怪異現象に対してどう対処できるというのか? 智輝が怪異現象対策課、ひいては警察組織に抱いた疑問と不信感は、協力者の葵に対しても向いていく――。 生活安全部に寄せられた相談ごとを捜査していくミステリー風オカルトファンタジーです。事件としては小さなものから大きなものまで。 ・File→基本的には智輝視点の捜査、本編 ・Another File→葵視点のファンタジー要素強めな後日談・番外編(短編) を交互に展開していく予定です。

処理中です...