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 翌朝、モニカがいつもように教会へ向かうために家を出ると、そこにフォクシーが立っていた。

「おはようございます」

 にへらっと笑って手を振るフォクシーに、モニカは驚いて駆け寄った。

「ど、どうしたの?」
「俺も出勤なんです。途中まで一緒に行きましょう」

 言うなり、フォクシーはモニカの手を取って歩き出した。

「ちょっ……」

 断る間もなく手を繋がれて、モニカは真っ赤になった。
 フォクシーは上機嫌に歩いているが、異性と手を繋ぐなんて初めてのモニカは周りの目が気になって仕方がない。

「あの、手を放して!」
「えー? 嫌っすか?」
「嫌っていうか……」

 恥ずかしいのだ。井戸端会議中のおかみさん達にばっちり見られてしまったし、昼前には村中にモニカが男と手を繋いで歩いていたことが知れ渡ってしまう。

「フォクシーさん、手を……」
「呼び捨てでいいっすよ。俺は年下だし、ハンスさんに「モニカさんを大事にする」って約束したんで、「モニカさん」って呼びますね。「モニカ」なんて呼んだらハンスさんに「調子に乗るな」って叱られちまう」

 けたけた笑うフォクシーは、モニカの手を離さないまま川まで歩いてきて、橋の前でようやく手を離した。教会は橋の向こうだ。

「じゃあ、また明日」

 ひらひらと手を振って川沿いの道を歩いていくフォクシーを真っ赤な顔で見送って、モニカは繋がれていた手を胸の前で握った。



「モニカ! どういうことよ」

 教会へ入るや、女の子達がどっと押し寄せてきた。

「フォクシーが恋人だったなんて!」
「いつの間に付き合ってたの?」
「信じられない! 彼、人気あるのよ? モニカってば、騎士団の男の子の話題の時も知らん顔していた癖に!」

 好奇心やらやっかみやらではちきれそうな彼女達に押し負けて、モニカは縮こまった。質問責めにされてアウアウ喘いでいると、少し離れたところから「ふん! 馬っ鹿みたい」と冷たい声が投げかけられた。

「フォクシーがモニカなんかと付き合う訳ないじゃない!」

 刺々しい口調にそちらに目をやると、華々しく着飾ったダイアナがモニカを睨んでいた。

「何よ、ダイアナ」

 友人達がモニカを守るように壁になる。

「フォクシーがはっきり言ったのよ。「モニカの恋人だ」って。あたし達、昨日ちゃんと聞いたんだから」
「そんなの嘘よ! モニカが無理矢理言わせたんだわ! モニカのお父さんが騎士だもの。見習いのフォクシーは逆らえなかったんだわ!」

 ダイアナのとんでもない決めつけに、モニカはあんぐりと口を開けた。


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