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 モニカと目が合うと、フォクシーはニヤリと笑った。
 それから、モニカに向かってこいこいと手招きをした。

「モニカさ~ん、ちょっといいですか」

 モニカは冷や汗をだらだら掻きながら、どうにか頷いた。

(どうしよう……絶対に怒ってる!)

 当たり前だ。初対面の女に勝手に恋人面されたら誰だって不快に思うだろう。

(あ、謝らなくちゃ……)

 モニカはぎこちなく動き出して、詰め所の中に戻った。
 フォクシーが戸をきっちり閉めて、モニカが逃げないように立ち塞がる。

「あ、あの……」
「恋人、なんですよね? 俺達」

 モニカは言葉に詰まった。フォクシーはにこにこ笑っているが内心は腸が煮えくり返っているのかもしれない。

「ご、ごめんなさいっ! つい、嘘を……」

 モニカは床に頭がつきそうな勢いで腰を折った。

「地味とか色気ないとかってからかわれて、それで、つい……本当にごめんなさいっ!」

 全面的にモニカが悪いのだ。平身低頭するしかない。

「友達にはすぐに嘘だったって言いますから! 許してください!」
「まあまあ。ちょっと落ち着いてくださいよ」

 必死に謝るモニカに、フォクシーは何かおもしろいものでも見つけたように言った。

「恋人がいないってからかわれて、そんな嘘吐いちゃったんですよね?」
「う……そうです。だから」
「嘘でしたー、なんて言ったら、余計にからかわれちゃいますよ?」

 それはそうだろう。嘘だったと告白したら、友人達は呆れながらも「やっぱりねー」とでも言って納得するに違いない。モニカは惨めな気分になるだろうが、悪いのは自分なので何も反論できない。

(変な嘘を吐いた罰だ。しばらくはあれこれ言われるだろうけれど、我慢しなきゃ)

 モニカが悲壮な決意を固めていると、フォクシーがあっけらかんと言った。

「じゃあ、「恋人のふり」してあげますよ」
「へ?」

 モニカは顔を上げた。フォクシーは茶色の瞳を細めて愉快そうにモニカを見ていた。

「だからー、俺がモニカさんの「恋人のふり」するんで、からかってきた友達を見返してやりましょう?」
「はあ? 何言って……」
「いいじゃないですかぁ。モニカさんは恋人がいなくてからかわれてるんでしょう? だったら、恋人を作って見返してやらなきゃ。俺、協力しますよ」

 思いもかけぬ申し出に、モニカは目を瞬いた。

「そ、そんなこと……」
「そんなに深刻に考えないで! モニカさんに本物の恋人が出来るまで、俺と付き合っているふりをしていればいいんですよ」
「いや、そんな! そんなことできませんよ!」

 軽い調子で「恋人のふり」を申し出るフォクシーに、モニカは首を横に振った。

「嘘を吐いた私が悪いんですから、皆にはちゃんと謝ります。それに、フォクシーさんに迷惑をかける訳には……」
「んー。実は、俺にとってもモニカさんが「恋人のふり」してくれたら有り難いんすけど」

 フォクシーはがりがりと頭を掻いて言った。

「俺、騎士見習いなんすけど、まだ入ったばかりなんでしばらくは訓練とかに集中したいんすよね。それなのに、知り合いのおばちゃんとかが頼んでもいない縁談を持ってきたり「うちの娘はどうだ」とか「孫と結婚しろ」とかうるさくて、だから、恋人がいるって言えば静かになるかなーって」

 心底参っているように言うフォクシーの言葉に、モニカはなるほどと頷いた。
 フォクシーは見目もいいし、将来は騎士という有望株だ。今のうちに捕まえておきたいという人々が縁談を持ってくるのだろう。

「だから、モニカさんに「恋人のふり」してもらえたら、俺も助かるんです。お願いします!」

 何故かフォクシーの方から頭を下げられて、モニカは慌てた。

「いや、そんな。嘘を吐いたのは私で、頼むなら私のほう……」
「じゃあ、お互いに利害が一致したってことで。今日から「恋人のふり」しましょう!」

 フォクシーにぎゅっと手を握られて顔を覗き込まれ、モニカは勢いに飲まれて思わず頷いていた。


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