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〜アメリアと花子さん〜
怪84
しおりを挟む「そろそろね」
そう呟くと、『メリーさん』はぱちんと指を鳴らした。
次の瞬間、アメリア達は広い空間に移動していた。
赤い絨毯と壁に施された精緻な装飾には見覚えがあった。
「ここは……謁見の間?」
クラウスが茫然と呟いた。メルティの部屋から、王宮の謁見の間まで一瞬で移動したのだ。
そして、そこに現れたのはメルティの部屋から移動してきた面々だけではなかった。
「花子さん!」
「アメリア……!」
互いの姿を見つけ、アメリアと花子は駆け寄り合った。
「な、なんだ……?」
ショーンが頭を抑えて辺りを見回す。
彼の背後には、腰を抜かして座り込むアーバンフォークロア公爵とセレナ、そして、コークリー伯爵の姿もある。
「役者を集めてあげたわよ。さぁ、契約を結びなさい。私達が帝国を滅ぼしてあげる見返りに、私達の存在を認め、国中の人間に私達の恐ろしさを知らしめなさい!」
『口裂け女』がそう要求する。『メリーさん』と『人面犬』も『口裂け女』の傍に佇んでいる。
人間達の側に立つ花子は、複雑な表情で黙り込んだ。
「なんだ!? どうなっている、なんだ貴様らは!」
コークリー伯爵が立ち上がって手にしていた剣を『口裂け女』達に向けた。
その時、ふう、と静かな息の根が聞こえて、一同は謁見の間の奥、玉座へと目を向けた。
「急に部屋の鏡が光ったと思ったら、これはいったいどういうことだ?」
簡素な部屋着で玉座に座り頬杖をついてこちらを眺めているのは、国王ヴィレム三世だった。
国王はいつもと変わらず無気力に椅子に身を預けている。
「父上……」
「アーバンフォークロア公爵」
呼びかけたクラウスを遮って、国王が公爵を呼んだ。
「どうやら、我々の罪が裁かれる時のようだな」
「陛下……」
静かな目で、顔の前で手を組み、国王は穏やかな声で告げた。
決して大きくないその声が、謁見の間に満ちる。
「何を言うのです、陛下! この者達は何です!? すぐに近衛をお呼びください! 誰かいないか! 陛下の御前に怪しき者どもが!」
コークリー伯爵が大声で呼ばわるが、誰かが駆けつけてくる気配はなく、謁見の間の扉は開かなかった。
「コークリー伯爵……いや、帝国貴族ドノヴァン・ベイジ卿。ここにいる若者達は我々の後を継ぐ次代の国王と貴族達。彼らに選ばせてみるがいい。我等に帝国が突きつけた選択を」
その「選択」が何か、アメリア達は既に知っていた。
クラウスが、拳を振るわせて玉座へ歩み寄った。
「父上……本当なのですか!? 父上が……帝国へさらった子供達を引き渡していたなどと……っ」
「違うっ!!」
応えたのは、公爵だった。
「違いますぞ殿下……「取引」をしたのは私です。私こそが『紅きチャンジャール公』なのです! 陛下は何もご存知ない!」
アメリアは父の姿をみつめた。
必死に国王を庇う彼は、その忠誠心故に犠牲を払ってでも国を守ることを選んだのだ。
それはどれだけ苦しい選択だっただろう。
「オットーよ。もう良い。私は逃げるだけで何もしなかった。お前が私の代わりにすべてやってくれた……長い間、私の分までお前の手を汚させてすまなかった」
「陛下……」
公爵がガクリと崩れ落ち、床に膝をついた。
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