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〜アメリアと花子さん〜
怪83
しおりを挟む都市伝説とは、人間の言葉から生まれた怪異である。
故に、人間に『恐怖の存在』として認識されている程、力が強くなる。
この世界には、『トイレの花子さん』も『口裂け女』も知られていない。
だが、『口裂け女』はこれまでに何人もの人間を手に掛けてきた。『紅きチャンジャール公』に属する者達の間では、『大鎌を振るう口が耳まで裂けた女』の存在は既に恐れを持って語られているだろう。
それに対して、花子はアメリア以外の人間からは『得体の知れない子供』と思われているにすぎない。『トイレに巣くう恐ろしい怪異』を知る者はいない。
その上、アメリアからは「友達」として遇されている。「恐怖の存在」とは思われていない。
人に怖がられなくなった怪異は、存在意義をなくし弱体化する。
この世界において、両者には既に大きな力の差が生まれていた。
「十数年間、この国は帝国へ「労働力」を貢ぐことで平和を維持してきた」
国が行った「取引」の説明を終えたショーンが歯噛みする。
「誘拐事件を調べるうちに北の帝国の関与が疑われて、国に調査を依頼しても何もしちゃくれなかった! だから、おかしいと思って……っ!」
市民連合の一人が叫んだ。
ここに集まっているのは、誘拐された子供を捜すうちに真相にたどり着いた者達だ。中には誘拐された子供の親も含まれている。
決定的な証拠を掴んで、国王と取引に関わった貴族達を罰したい。
その思いで今日まで共に歩んできた。
「俺達の望みは、「取引」に関わった者を罰すること。だから、帝国との関係を断ち切るため、今の国王を退位させクラウス殿下を王位に就けることになる」
ショーンは父の命令で学園では最初クラウスを見張っていた。クラウスが取引について知っているか否かを見極めるためだ。ーーすぐに何も知らないだろうと結論づけたが。
幸い、クラウスはあまり賢くない。飾りの王にしても問題はないと思われた。
だが、アメリアは駄目だ。飾りの王妃にするには賢すぎる。「取引」について知っているのか否かも、見張るだけでは窺い知れなかった。
都合よくメルティがクラウスに近づいて、クラウスもメルティを気に入ったので、それに便乗して婚約破棄まで持ち込んだ。
上手く運んでいたはずだし、ここで躓くわけにはいかない。そのためには、目の前にいる得体の知れない存在が敵か味方かを見極めなくてはならない。
「でも、約束を破ったら帝国が攻めてくるんじゃない?」
『口裂け女』が笑みを浮かべて言う。ショーンは目を眇めて『口裂け女』を睨んだ。
「だから、私達が帝国をめちゃくちゃにしてあげる。子供を捕まえる連中は全員殺すわ。戦争が起きると子供達からは怪異を楽しむ余裕が奪われてしまう。だから、戦争を起こす奴らは私達が全部殺してやるのよ」
『口裂け女』のその言葉に、花子は声を上げた。
「人の営みに、必要以上に関わってはいけないわ。あたし達は陰の存在。怪異が人の世の歴史を動かすような真似はしてはいけないのよ」
「そう。でも、そうしていたら、日本に私達の居場所はなくなった……だから、今度は大いに関わってやるのよ。人の歴史に私達の存在を刻むのよ。もう二度と、忘れられないように」
『口裂け女』は裂けた口で高く笑った。
「さあ! 人間達よ! 私達と契約を結びなさい! 人間同士の「取引」を壊し、人と怪異の間に約束を結ぶのよ!」
次の瞬間、『口裂け女』の前に大きな鏡が出現した。
その鏡面からまばゆい光が発されて、人間達は目をつぶった。鏡面から光る腕が伸びてきて、ショーンを鏡の中に引きずり込んだ。次いで、『口裂け女』が鏡面にするりと入り込む。
花子は「くっ……」と呻くと、光が消える前に鏡の中に飛び込んだ。
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