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〜紫鏡と王太子の言い分〜
怪53
しおりを挟む急に箱が揺らされて、メルティは乱暴に外に引き出された。
「むぐぅ!」
そのまま床に押さえつけられて、メルティはじたばたもがいた。
「大人しくしろ!」
頬にヒヤリとした感触が押しつけられる。それが刃物だと気付いて、メルティは悲鳴を飲み込んだ。
窓から差し込む月明かりで、ここが食堂だとわかった。メルティが入れられていたのは、野菜などを入れる木箱らしかった。
「ここでやるか」
「ああ。さっさと終わらせようぜ」
男達がメルティの頭の上で会話する。何をしようと言うのか。
(殺される! なんで!? 私が何をしたっていうの!?)
メルティはがくがく震えて涙を流した。
「悪く思うなよ。恨むなら、国を裏切った父親を恨め」
男がそう言って、メルティの首に刃を押し当てた。
(お……お父様? お父様が、何?)
メルティは混乱した。そして、男が刃を握る手に力を込めようとした。その時、
「おい! なんだ? こんな時間に、馬車が停まったぞ!」
もう一人の男が、窓の外を指さして叫んだ。
「誰が来るんだ!? こんな時間に!」
「ちっ! ここに入ってろ! 騒ぐんじゃねぇぞ!」
メルティは乱暴に引きずられて、厨房の台の下に押し込められた。
男達は様子を見に行ったのか、食堂から少し離れた。
(い、今のうちに……)
縛られたまま、なんとか逃げだそうと身を捩ったメルティは、這うようにして厨房の床を進んだ。
だが、厨房の壁に掛けられている鏡が突然紫に染まったことに、メルティは気付かなかった。
そして、その鏡の中から、白い手がぬっと出てきて、メルティの肩を掴んだ。
「!?」
驚いたメルティが振り向くより先に、手はメルティの体を鏡の中に引きずり込んだ。
「おい。校舎に入ってきたの、王太子だぞ」
「なんでだ? こんな夜中に……」
「王太子と女が二人と子供……? 何しに来たんだ?」
「ちっ。面倒くせぇ」
男達は食堂の外の廊下の窓から様子を窺い、対応を話し合った。
「王太子はまだ利用価値があるんだろう? 命令も出ていないし、殺すわけにはいかねぇ」
「とっとと男爵令嬢を始末して、ずらかろうぜ」
男達はメルティを始末するために、食堂へ戻った。
そして、メルティを押し込んだ台の下を見たが、そこはもぬけの殻だった。
「おい! いないぞ!」
「どこに逃げやがった!?」
男達は慌てて食堂の中を探したが、メルティの姿はどこにもない。
男達は舌打ちをした。王太子達がメルティを見つけたら面倒なことになる。王太子達より先に、メルティを見つけて口を封じなければ。
「ちっ、行くぞ!」
「おう!」
男達は足音を立ていないように、しかし素早く動き出した。
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