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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜
怪13
しおりを挟む『それで、わたくしは明日からどうすればいいの?』
(聞くんじゃない! 耳が汚れる!)
『とりあえず、妙な体験を……ましょう!』
(アメリアに何を体験させるつもりだ!?)
『あいつらもそろそろ動き出す頃……妙な声を……何か目撃……のよ』
不穏な会話はユリアンを置き去りにして続いていく。
『では、改めて明日からお願いいたしますわ』
『おう! 今日からあたし達は運命共同体よ! 一緒に……ために頑張りましょう!』
「させるかあぁぁぁっ!!」
アメリアの決意の言葉に、我慢の限界を迎えたユリアンは部屋に飛び込んでいった。
アメリアは、突然怒鳴り込んできたユリアンの姿を見て目を丸くした。
両親のどちらにも似ていない赤毛を振り乱したユリアンは、アメリアの傍にいる花子をみつけてぎらりと目を光らせた。
「なんだ貴様は! 誰の許可を得てここに入った!?」
ぱちりと目を瞬いた花子は、激昂するユリアンを見てふっと小馬鹿にした表情になった。
「いやだわ。女の子同士の会話に首を突っ込んでくるだなんて。公爵家の跡取りとは思えないわ。ねぇ」
怯えるどころか不敵に睨み返されて、ユリアンは戸惑った。見たところ、目の前にいるのは十歳前後の幼い少女でしかない。だが、彼女の纏う雰囲気はただの子供のものではなかった。
「ユリアン……花子さんはわたくしのお友達ですわ。わたくし達のことは放っておいてちょうだい」
アメリアはきゅっと目を眇めた。ユリアンが自らこの離れを訪れるだなんて、きっと自分を罵倒しにきたのだ。パーティーの時はクラウスが一方的に喋っていたので、ユリアンの出る幕はなかった。
だが、自分はともかく花子にまで無礼な口を利くのは許さない。
アメリアはきっと顔を上げてユリアンの前に立った。
「貴方がわたくしを貶めるためにどれほど力を貸したかは知らないけれど、もうわたくしに用はないでしょう? 貴方がたの望み通りになったのだから」
「姉上……っ」
「出て行ってちょうだい」
あんな目に遭ったというのに打ちひしがれることもなく凛としたアメリアの姿に、ユリアンの胸は掻き乱された。
(おかしい……っ、憔悴したアメリアを慰めて僕のものにするつもりだったのに……)
「そ、そうは行きません! そこの女はなんです? 姉上がこの家に妙な者を引き入れているのを、黙っている訳には……」
「アメリアの弟さん。あたしを追い出したければ、公爵様を連れてきてくださるかしら?」
花子が妖艶に笑ってアメリアの体に絡みついた。
「なっ……」
「こうお伝えして? 「トイレを掃除して待っておりますわ」ってね」
花子は見せつけるようにアメリアの腰に腕を回し、挑発的な目でユリアンを見る。
(この女……っ、魔性だ! 僕のアメリアを虜にするつもりなんだっ!)
愛しい少女が魔のものに魅入られてしまったことを知り、ユリアンは愕然とした。
(そうはいくかっ! アメリアは渡さないっ!)
「ユリアン。もう出て行って……」
「僕もここに住みますっ!!」
「え?」
突如叫んだユリアンに、アメリアは困惑気味に眉根を寄せた。
「貴方は本邸に部屋があるでしょう?」
「だ、黙ってください! 妙な真似をしないように、僕が見張らなければ!」
ユリアンは花子を睨みつけた。
(この得体の知れない女がアメリアに何かしないように見張らなければ!)
一方、アメリアはユリアンの言葉に傷ついた。
(まだ、わたくしがあの娘に何かすると思っているのね……家でまでわたくしを見張るだなんて……)
アメリアは溜め息を吐いた。もはや、説得するのも億劫だ。どうせ自分の言うことは何も信じまい。
「そう。好きにするといいわ……」
ユリアンは本当にその夜のうちに離れの空き部屋に移ってきてしまったのだが、アメリアはそれにいっさい関わらなかった。
だから、その夜中に花子が眠っているユリアンをトイレまで引きずっていって、便器に座らせて朝まで放置していたことにも気付かなかった。
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