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〜トイレの花子さんと婚約破棄された悪役令嬢〜
怪1
しおりを挟む昭和は遠くなりにけり。
「あの頃はよかった……」
このところ、集まる度に誰かしらの口から同じ言葉が出る。
すっかり懐古主義者になってしまった彼らは、深い深い溜め息を吐いた。
「最近の子供は本当に質が悪い……」
口裂け女が呟く。
「そうだそうだ。昔の子供は良かった。単純に俺達を見てびっくりして怖がってくれた」
人面犬が言う。
「今時の子供は怖がってくれないばかりか、スマホで撮影してくる始末……っ」
メリーさんが歯噛みする。
彼らは日本に住まう都市伝説の主達である。
しかし、彼らは今、人生の岐路に立たされていた。
昭和の時代に生まれた彼らは、常に子供達を震え上がらせてきたはずだった。
だが、時代は刻々と移り変わり、令和の若者達によってスマホで姿を盗撮され、出没場所を特定され、SNSに「今時、人面犬とかww」「口裂けてますよ。胃が悪いんじゃないすか」「メリーさんって暇なん?」などと誹謗中傷を書き込まれた彼らは、すっかり自信を失っていた。
「もう、日本に……いや、この世界に俺達の居場所はない……」
誰かが言った。
「そうだ。引っ越そう」
***
「アメリア・アーバンフォークロア公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」
学園で行われたサマーパーティーの会場で言い渡されたその言葉によって、アメリアの未来は閉ざされた。
「どうして、こんなことに……」
テイステッド王国の王太子クラウスとアメリアが婚約したのは二人が十歳の時だった。そこから七年、公爵令嬢として、己を殺し、すべてを王妃となるための努力に捧げてきた。
にも関わらず、クラウスが選んだのは身分の低い軽薄な娘の方だった。
アメリアはクラウスにしなだれかかって勝ち誇った笑みを浮かべていた少女の顔を思い浮かべ、涙を拭った。
「わたくしがあの子を虐めたですって? よくもそんな嘘が吐けるものだわ……」
冗談ではない。アメリアには男爵家の娘を虐めている暇などないのだ。学園では常にトップの成績を維持し続けねばならず、学園からまっすぐに王宮へ通い教育を受ける日々の中で、いちいち他人の持ち物を盗んだり壊したりしている余裕などない。授業が終わるや王宮へ飛んでいっていたのだから、放課後に人を階段から突き落とす時間もなかった。
反論しようと思えばいくらでも出来た。捏造された罪など、いくらでも覆せる。アメリアが毎日王宮へ通っていたことはきちんと記録されているのだから。
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「はあ……もう、別の世界に行ってしまいたい」
思わず、そう呟いた。
その時だった。
「じゃあ、連れて行ってあげる!」
響いた声に、アメリアは驚いて顔を上げた。
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アメリアは、悲鳴を飲み込んだ。
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