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しおりを挟む「孫を引き取りにきたのよ。早く返してちょうだい」
キャシーを迎えに来たと言い出すニックの母親に、マリッサは開いた口が塞がらなかった。
「何を言うんですか。キャシーは渡しません。帰ってください」
「あんたがキャシーを連れて家を出てしまってからずっと心配していたのよ。でもこうしてまた会えたんだから、今後は仲良くしましょう」
ニックの母親は店の中にずかずか入ってきて、勝手に喋り出した。
「キャシーはブルーノと結婚させよう。従兄弟同士だし気が合うだろう。親戚になるんだから商売でも協力しなくちゃね。こことうちの商会が一緒になれば国一番の商会になれるよ」
あまりにも勝手な言い分にマリッサは呆れ果てた。
「キャシーは婚約しています! ブルーノと結婚なんかするはずないでしょう」
ブルーノとは兄夫婦の子供だ。赤ん坊の頃しか知らないし、十五年間一度も会っていないのに、何故二人を結婚させようなどという話になるのだ。
「心配いらないよ。その婚約者はニックの娘のヘルガと結婚させればいい。キャシーの異母妹なんだからきっと気が合うよ。そうすれば商会の結びつきも強くなるし、それが一番いいよ」
言い返そうとしたマリッサを抑えて、サムがニックと母親の前に立った。
「出て行け。二度とここに足を踏み入れるな。そして、キャシーの前に姿を見せたらただじゃおかない。あの子は俺の大事な娘だ。お前達みたいな勝手な連中には渡さない」
静かに激怒するサムに追い払われて、彼らは帰っていった。最後までごねてはいたが。
マリッサは頭を抱えて溜め息を吐いた。
「もう、なんだって今頃……」
「キャシーが「幸運を呼ぶ子」だと噂を聞いて知ったんだろう。あそこの商会はマリッサとキャシーがいなくなってから落ち目になっているからな」
そんな理由でキャシーを取り込もうとする身勝手さにマリッサは腹を立てた。さんざんキャシーを不吉だとか呪われているとか罵っていた癖に、今さら手のひらを返して奪おうとするだなんて。
「キャシーが心配だわ……」
「ヴァンに守るように言っておけば大丈夫だよ。あいつは絶対にキャシーを誰かに渡したりしないから」
娘を案じるマリッサの肩を抱いて、サムはそう言って慰めた。
その数日後、今度はキャシーとヴァンが店番をしている時に招かれざる客がやってきた。
「お前がキャシーか?」
いきなり店に入ってきた少年がキャシーをじろじろ眺めて「ふん」と鼻を鳴らした。
「まあまあだな」
「へえ、結構大きい店じゃない」
少年の後ろから入ってきた少女が店を見回して言う。
「なんだお前ら」
「俺はキャシーの従兄弟のブルーノだ。婆ちゃんにキャシーを迎えにいけって言われて連れに来たんだよ」
「あたしはヘルガよ。あーあ。疲れちゃった。喉渇いたー」
ヘルガが勝手に店の奥に上がり込もうとするので、ヴァンはキャシーを背中に庇いながら引き止めた。
「勝手に入るんじゃねえよ!」
「いいじゃない。この店はあたしのものになるんだから」
「はあ?」
「あたしがアンタと結婚してこの商会を継いであげるのよ」
我が物顔で振る舞う二人に、ヴァンがキレて乱暴に店から追い出した。
「二度と来るんじゃねえ!!」
「ちょっと何よ!」
追い出された二人は店先でぎゃあぎゃあ喚き立てた。
その様子を見ていた町の人が噂を広げ、ニックの実家の商会はあっという間に評判を下げたのだった。
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