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 男性の名前はサムといい、彼の息子はヴァンといった。
 ヴァンは常に仏頂面でマリッサにもあまり懐こうとしなかったが、キャシーは彼が傍に来るといつも喜んで手を伸ばすので、だんだんヴァンも自分からキャシーに近寄ってくるようになった。

 サムは子守をしながら他にいい仕事を探せばいいと言ってくれたが、マリッサは子供達が大きくなると雑用など他の仕事も請け負うようになった。元々商会で経営に携わっていたこともあり、マリッサが手伝うようになるとサムの商会はそれまでより上手く回るようになった。

 そして、キャシーが五歳になった頃、マリッサはサムに求婚された。

「サム……嬉しいわ。貴方のおかげで今の私とキャシーがあるのだもの」
「いいや、俺の方こそ。君とキャシーが来てから、俺には何故かいいことばかり舞い込んできたよ。きっと、二人は俺の幸運の女神なんだ」

 サムのその言葉に、七歳のヴァンはむっと口を尖らせた。

「マリッサおばさんは親父の幸運の女神かも知れないけど、キャシーは違うよ。二人ともなんて贅沢だ、独り占めすんなよ。な、キャシー?」
「う?」
「キャシーは親父のじゃなくて俺のだもんな?」
「うん!」

 マリッサはサムと結婚して、ヴァンとキャシーは義兄妹になった。
 ヴァンが「義理の兄妹なら結婚できるんだぞ」とキャシーに言い聞かせているのを見かけて、マリッサは微笑ましくて笑ってしまった。

 キャシーはすくすく大きくなり、あっという間に十五歳になった。その頃にはサムの商会は町一番の大きな店になっており、キャシーにもそれなりの家から縁談が持ち込まれるようになった。
 それに怒ったヴァンがキャシーに求婚し、キャシーも「ヴァンとずっと一緒にいたい」と望んだので、サムは喜んで二人を婚約させてくれた。

 そんな風に幸せに暮らしていたある日のこと、マリッサは仕入れに出かけた先で思いがけず元夫のニックと再会した。

「マリッサ……」
「ニック!」

 十五年ぶりに会ったニックは随分疲れた様子だった。

「久しぶりね」
「ああ……君は今までどうしてたんだ?」

 互いに軽く近況を報告しあい、ニックも再婚して娘が一人いることを知った。

「キャシーはどうしている?」
「元気よ。最近、婚約したの」
「そうか……会わせてもらえないかな」

 マリッサは眉をしかめた。

「それは無理よ。キャシーは赤ん坊だったから貴方のことは覚えていないし」
「でも、僕は父親なんだし……」
「あの子には関わらないと約束したでしょ?」

 なんと言われようと、キャシーを会わせるつもりはなかった。ニックももう別の女性との間に娘がいるのなら、キャシーのことは忘れた方がいい。
 そう説得したが、ニックは別れ際まで未練がありそうな顔をしていた。


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