3 / 3
3
しおりを挟む異世界の聖女サクラは、様々な文物をこの国にもたらして、「もうすぐ期末テストだから勉強しないと! バイバーイ!」と言って帰って行ってしまった。
いろんな道具も持って帰ってほしかった。置いていかないで。
「聖女の力を注入すれば電力不要? バッテリー切れもなし? やばーい、便利ー」とか言っていたが、あれは異世界の呪文か何かだろうか。
「ふぅ……」
あまり人目に付かない学園の裏庭で、シャーロットは同じ悩みを持つ令嬢達と共に浮かない顔でお茶を飲んでいた。
「わたくし達……どうすれば良いのかしら……?」
シャーロットの漏らす呟きに、フェリシアもテオードレアもメリッサも顔を俯かせる。
花もほころぶ少女達のお茶会だというのに、雰囲気は地に着くほど沈み込んでいる。
「陛下もお父様も、一時の熱が冷めれば元に戻るとおっしゃって「我慢しろ」と……でも、いったいいつまで耐えればいいの……?」
「わたしも、この苦しみに耐えきれるか自信がなくて……」
「私がいくら語りかけても無駄だ……どうしてあんな風になってしまったのか……っ」
「私……私……ううっ」
彼女達の精神はすでにぎりぎりだ。
しかし、あまりきつく言えないのは、彼らの行動があくまで「婚約者への愛ゆえに」成されているためである。
しかし、その愛に、耐えられる気がしない。
令嬢達が同時に深い溜め息を吐いた時、悩みの種である婚約者達がやってきた。
「シャーロット! 宮廷魔導師の元に聖女サクラから「声」が届いたそうだ!」
「なんでも「夏休みに入るので遊びにくる」そうだよ」
「皆で海に行きたいという希望だ。聖女の望みは叶えねばならない」
「楽しみだね!」
海。海か。
そうだ。雄大な海を眺めれば、この重い悩みも少しはちっぽけに思えるかもしれない。
シャーロットはそう思った。
そう思ったと同時に、脳裏に聖女サクラと交わした会話が蘇った。
『これが、「すまほ」というものですの?』
『そ! あっちの世界の写真見したげるー! これが友達ー! んで、こっちがねー、こないだ遊びに行った時のー』
『こ、この方達は……何故このようなあられもない格好を……!?』
『あははー。水着だよー。あたしのはツーピースだからそこまでの露出じゃないよー。あたしの友達はボンキュッボーンだから超セクシービキニでさー』
『ひっ……こ、このような布しか与えられないなんて……この方はいったいどんな罪を……っ』
『こっちのビキニとかシャーロット似合いそー。テオードレアはこっちのちょっと変わった形の大胆ビキニがいいよ、絶対着こなせる!フェリシアは可愛い系だよね絶対。メリッサもふりふりのワンピースタイプかな? 今度みんなで海とか行こうよー。あたし、可愛い水着選んであげるー』
ガタ、ガタ、ガタ、ガタ、
令嬢達は音を立てて立ち上がった。
そして、後も見ずに走り出した。
「殿下! わたくしはこのまま修道院へ参ります! 国のためにお役に立てず申し訳ありません! わたくしのことはお忘れになって! 殿下のお幸せを遠くよりお祈りしております!」
「何を言う!? シャーロット!」
「フィンセント様! わたし、隣国の「歌姫」と呼ばれる令嬢と知り合いですの! フィンセント様にご紹介出来ますわ! どうぞ、わたしとの婚約は解消なさって、その方のお声で癒されてください!」
「フェリシア!? 君以外の声など僕はっ」
「リュゼ! 貴方には私のような男まさりな女より、知性と教養のある令嬢の方が似合いだろう! 私は辺境防衛に出ている兄の元に行き、国の防衛に命を捧げようと思う! 私のことは忘れてくれ!」
「笑えない冗談ですよ。まったく、テオードレア、貴女ともあろう方が」
「オーギュスト様! 私、遠い国に嫁いだ叔母の元に身を寄せ、叔母の営む孤児院の手伝いをして過ごしたいと思います! もうお会いすることはないと思いますが、どうぞお元気で!」
「どうしてだいメリッサ!? 僕を捨てるのかい!?」
逃げる令嬢を、令息達が追いかける。
令嬢は本気で走る。
捕まったら、死ぬ。
正確には、死ぬと変わらぬほど恥ずかしい格好をさせられる。
ああ。どうしてこんなことに。
異世界からやってきた聖女サクラによって変えられてしまった彼らが、目を覚ましてくれる日は果たしてやってくるのだろうか。
「絶対に捕まってはなりませんわよ!」
「頑張って!」
「すまない……私がもっと強ければ……っ」
「わ、私のことはお気になさらずっ、先にっ……逃げてっ……」
聖女サクラによって変えられてしまった婚約者に追いかけられて必死に逃げる令嬢達。
だがしかし、聖女サクラはきっとこう答えるだろう。
「えー? あたしのせい? 男どもの愛が重すぎるせいなんでねぇのー?」
全部、聖女のせい。とは言い切れないことは、まあ、確かである。
でもやっぱり、どう考えても、だいたい全部、聖女のせい。である。
完
131
お気に入りに追加
148
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
お姉様に押し付けられて代わりに聖女の仕事をする事になりました
花見 有
恋愛
聖女である姉へレーナは毎日祈りを捧げる聖女の仕事に飽きて失踪してしまった。置き手紙には妹のアメリアが代わりに祈るように書いてある。アメリアは仕方なく聖女の仕事をする事になった。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
魔法を使える私はかつて婚約者に嫌われ婚約破棄されてしまいましたが、このたびめでたく国を護る聖女に認定されました。
四季
恋愛
「穢れた魔女を妻とする気はない! 婚約は破棄だ!!」
今日、私は、婚約者ケインから大きな声でそう宣言されてしまった。
【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!
聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~
アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
何でも欲しがる妹を持つ姉が3人寄れば文殊の知恵~姉を辞めます。侯爵令嬢3大美女が国を捨て聖女になり、幸せを掴む
青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿39話、40話、71話スピンオフ
王宮でのパーティがあった時のこと、今宵もあちらこちらで婚約破棄宣言が行われているが、同じ日に同じような状況で、何でも欲しがる妹が原因で婚約破棄にあった令嬢が3人いたのである。その3人は国内三大美女と呼ばわれる令嬢だったことから、物語は始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
やらかし聖女(´^ω^`)ブフォwww
逃げ切った←ここ重要(笑)
逃げ切って幸せ掴んだ
令嬢達の話も
読みたいかも(笑)
はいはい、またやらかし聖女ね(๑•́⌓•̀)=3ハァ
…とタイトルだけで思ってたおいらに言いたい(; ̄д ̄)
やらかし度合いと方向性が斜め上でちょっとしたヲタク製造機になっちゃってたꉂꉂ(੭ु* ˃᷄ꇴ˂᷅)੭ु⁾⁾༡л̵ʱªʱª✧˖°"
王子の頭にあるはずのないバンダナが見えたのはおいらだけ?(; ̄∀ ̄)
マジ面白くて笑えましたꉂꉂ(੭ु* ˃᷄ꇴ˂᷅)੭ु⁾⁾༡л̵ʱªʱª✧˖°"
面白すぎです(。-∀-)