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京・2
しおりを挟むいつの頃からか、最初に考えていた事など忘れ、俺は山﨑に頼りきっていた。我侭が通る。難しい事を言っても、かなりの確率で成功させる。幼い頃に会った子供や、吉原で会った男は、この山﨑とは別なのではないかと、段々思えてきた。
その内、いつも山﨑の視線を感じるようになった。稽古をつけている時も、食事をしている時も。視線が俺を追いかけてくる。目が合っても逸らそうとはせず、じっと俺を見つめてくる。
(監視されている? 何故だ? 特に、周囲に隊士がいる時が視線が強いな)
試しに、隣に立っていた永倉に抱きついた事があった。なんだよ、土方さん、と大慌てした永倉が、山﨑を振り返る。
「なにしてんだ」
「なにしてんだは、こっちの台詞だぜ。あんた知らねぇのか? 山﨑は、あんたが誰かに襲われやしねぇかって、いっつも心配してるらしいぜ?」
「……襲われる?」
「いや、なんか知んねぇけどさ、あんた若い隊士の間で妙な人気があるみてぇで……」
「妙な……とは……」
「ほら、江戸にいた時もさ、男から告白されたりしてただろ? あの流れよ。山﨑は、あんたの僕だからさ、なんつうか、心配なんじゃねぇの?」
「しッ……僕ってなんだよ!」
「だって、あんた達見てるとよ、お姫様とそれを守るお庭番みてぇだからよ……俺ぁまだ忍者に消されたくねぇのよ」
おお、くわばらくわばら、と、永倉はおどけた調子で俺から離れた。一人になった俺の元へ、山﨑が真面目な顔をして近づいてくる。
「副長。お話があります」
「……はい」
副長室で二人になると、山﨑は怒ったような顔をして、そこへ座りなさいと畳を叩いた。なんで俺が怒られなきゃならないんだと思いながら、何故か逆らう事もできずに言われたままに正座をした。
「軽はずみに、永倉先生に抱きつくような事をしないで下さい」
「なんで?」
「なんでって……貴方を狙っている隊士もいるのですよ。男でもいいんだと思われて、襲われでもしたらどうするんですか?」
「だってその場合、俺が永倉を好きって時点で、幾ら俺が男でもよくても手を出せないのは同じなんじゃねぇのか? 襲われるんだったら、今までだって襲われてただろ? まあ、簡単に襲われる俺じゃないけどな」
「永倉先生が好きなのですか?」
「別に?」
「……」
山﨑は、はぁ、と溜息をついて、肩を落とした。
「お前、俺の事がそんなに心配なのか?」
「心配です。新撰組の副長にこんな事を言うのもなんなのですが、危なっかしくて見ていられないんです」
「危なっかしいかねぇ?」
「かなり……」
そう言った山﨑の顔があまりにも憔悴していて、俺は声をあげて笑った。笑わないで下さいと、げっそりしている山﨑を見て、更に可笑しさが込み上げてくるのだった。
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