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京・1
しおりを挟む「特技は?」
新しく隊士になった男の顔に、見覚えがあった。口元に、黒子。端整な顔立ちは、すっかり大人になってしまっても変わる事がなかった。
「はい。あまり目立たない事でしょうか。他人の顔を覚えたりするのも割りと得意です。棒術は、免許皆伝。剣も少しはできると思いますが……」
「……おい、歳。大丈夫か?」
あまりの衝撃に、おかしな茶の飲み方をしてしまい、俺は噎せまくっていた。隣に座っていた近藤が、慌てて背中を擦ってくれている。あまり目立たず、他人の顔を覚えるのが得意。
(正反対じゃねぇか!)
「あんたは、どう見ても目立つと思うんだが。そんなに端整な顔をしている奴は、なかなかいない……」
「は……私がですか?」
「確かに、なかなかの色男だな。だけどよ、歳、俺ぁお前に言われるまでそんな事気付かなかったぜ? 色男だけど、目立たねぇって事もあるんじゃねぇのかい?」
「ああ? そうなのか? 目立ちまくると思うんだけどな」
「あまり、目立つと言われた事はありません……」
山﨑と名乗った男は、困惑気味に俺を見つめた。じろじろと顔を観察していたら、頭をかいて下を向いてしまった。
「人の顔を覚えるのが得意ってぇのは……」
「ええ、一度見た顔は忘れません」
ゲホッ
相変わらず、心配している近藤が俺の背中を擦ってくれている。あまりに噎せたので、吐きそうになった。この様子だと俺の顔には気付いてないらしい。確かに、ずっと女として出会ってきたのだから、目の前にいる新撰組の副長が同一人物だと思えるわけがないのだが、一度見た顔を忘れない割には、ほとんど変わらない顔を不審に思わないにもほどがあるだろうと思う。
(そんなに自信があるのなら、監察でもやらせてみるか。ものにならなければ、嘘をついた罰を与えればいい)
どうしてそこまで意地悪な事を思ったのだか、自分でもわからなかった。とにかく、山﨑が憎かったのだ。
「山﨑君、では、きみには監察の仕事をしてもらおう。色々と副長である私に報告してもらう事もあるので、後々、仕事の説明はしていくということで」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼みます」
山﨑の仕事ぶりは、期待以上のものだった。確かに、人の顔を覚えるのは、苦手ではなさそうだった。では何故俺の事は覚えてないのだ、と、不思議に思う。
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