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酒の席にて・2
しおりを挟む「ひでぇな、歳」
「どっちが!」
「……怒ったか? もう今夜はやっぱり付き合っちゃくれねぇんだろうなぁ。寂しいなぁ……」
項垂れて背中を見せた近藤に、溜息をつく。このまま放っておいても俺自身は痛くも痒くもないが、明日からしばらく拗ねたままの状態を続けるだろう近藤に、他の隊士達がどんな感情を抱くかわからない。どうしたものかと山﨑を見ると、苦笑しながら頷いていた。
「副長、別に私は気にしておりませんので」
「しょうがねぇなあ、もう。仕方ねぇから付き合ってやるよ。ただし……」
「ただし?」
「山﨑も一緒だ。じゃなかったら、行かねぇ」
「は?」
「なに?」
二人は素っ頓狂な声を出して、俺を同時に見つめた。そんなにおかしな事を言ったのだろうかと自分の台詞を思い返したが、おかしなところは見つからない。更に考え込んでいると、近藤がいきなり額をはたいた。
「……痛ぇな」
「歳。お前、山﨑君は遠いところを帰ってきたばかりだぞ。しかも、仕事を終えたばかりだ。可哀想だと思わねぇのか? 飲みにつき合わすなんて」
「あ? 仕事が終わったんだから、いいじゃねぇか。なんで可哀想なんだよ」
「疲れてるだろって言ってんだ。ようやっとゆっくり出来るってぇのに、おめぇのお守りさせられたんじゃたまんねぇだろ」
その言い様にカチンときて、近藤を睨みつけて舌打ちをしてやった。正座をしていた山﨑の膝の上の手をぎゅっと握る。正面からじっと顔を見つめて、口を尖らせてみせた。驚いた山﨑が、珍しく慌てた顔をして、口をぱくぱくとさせる。
「疲れてんのか?」
「え……や、いや……その……」
「嫌なのか? 俺のお守り」
「あの……副長……?」
「歳!」
「うるせぇ! 山﨑が一緒じゃなきゃ行かねぇ!」
「またお前はそんなガキみてぇな事言って……」
握り締めていた手がするりと抜けて、逆に俺の手が握られた。ずい、と怖いほど真剣な目をした山﨑が顔を近づけてくる。
「山﨑……?」
「ご一緒させていただきます。嫌だなんてとんでもない。お誘い、ありがとうございます」
顔を近藤に向けて、ニタリと笑ってやる。
「だとよ。山﨑がいいなら、いいんだろ? 三人で飲みに行こうじゃねぇか」
チラ、と手に視線を送ると、山﨑は慌てたように俺の手を離し、すみませんと頭を下げた。その反応が可笑しくて、目の前にあった耳を引っ張ろうとすると、隣で近藤が唸り声をあげた。
「いいのか、山﨑君。歳の奴なんかの我侭をきかなくてもいいんだぞ」
「いえ、大丈夫です。局長さえよろしかったら、ご一緒させて下さい」
「そりゃ、俺ぁ大歓迎だがよ。ったく、いつもすまねぇな、この我侭が!」
頭を小突かれた。お返しに頬を引っ叩いてやると、今度は鼻を摘まれた。
「何すんだよ!」
「山﨑君に感謝しろ! お前の我侭に付き合ってくれんだ。ちゃんと礼を言うんだぞ!」
「なんだよ、元はといえば、あんたが……!」
「あの……支度をして参りますので、しばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
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