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王子・四
しおりを挟む「…………ん、あれ?」
眠る時に抱き締めているめぐタンの抱き枕が、今朝は随分と硬いような気がする。温度も高いし、少し抱き締める力を強くすると、いい感じにフィットするのも、初めての事だ。
姫野の撮影をした夜、めぐタンに悪いとは思いつつも、抱き枕の顔の部分に、姫野の写真の顔の部分を拡大して貼り付けて、姫野として抱き締めて眠った。罪悪感など、微塵も感じない。本人に手を出さなければ、オールオッケーだ。ふがふがと、枕と自分の顔の間に、脱がれた服を挟み、甘い香りを堪能しながら、自慰に耽るまま寝た。翌朝は、快調だった。
不思議に思いながら、枕の胸の部分に手を伸ばす。抱き枕には、人口の乳首のような突起がついていて、俺は、それを嬲りながら寝るのも好きだった。指で乳首を探し当て、くにゅりと捏ね潰す。
「……あッ」
「…………うん?」
潰した途端に誰かの声が聞こえてきたが、まだ寝ぼけたままの頭はよく回っていなかったので、そのまま行為を続けた。くにゅりくにゅりと捏ね回すと、実にリアルな手触りだった。乳首の周りの肌部分が、まるで鳥肌でもたてているようにざらりとした感触を与えてくる。柔らかかった突起は、捏ねている内にピンと硬く尖ってきた。今までにない反応なので、面白くなって夢中で弄った。
「んッ、んんッ、はッ、にゃッ、離ッ……あッ!」
「はッ……しずかタン……可愛い……」
蕩けたような声で喘ぐ抱き枕が可愛くて、顔を挿げ替えてからずっと呼んでいる名で、囁き、乳首を弄る。抱き枕のくせに俺から逃げようとするので、腹の辺りに腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。すっかり勃ちあがった性器を、いつものように擦り付ける。弾力のある肉だ。リアルな夢に感動し、本来なら枕にはあり得ない筈の尻たぶを勃起したペニスでぐにぐにと押しまくった。
「んはあ! や! やだ! ちょ……起きッ……ああん!」
「しずかタン! しずかタン!」
甘い香りに酔いそうだ。姫野のシャンプーの香りなのか、ボディーソープの香りなのか。顔をあげた。目の前に真っ白な肌があった。ぺろりと舐める。びくりと枕が跳ねる。ちゅう、と吸い付いた。何か所も、同じように吸い付いてキスマークをつけてから、白い肩にかぶりついた。
「痛ッ!!」
「ん?」
妙にリアルな感覚だ。違和感に動きを止めると、止めた瞬間に、鳩尾に衝撃がきた。
「起きろって言ってんだろうがあ!!」
「うぐ!」
はっとする。鳩尾を撫でながら、体を起こすと、すぐ下には、顔を真っ赤にした姫野が転がっていた。俺に背を向け、般若のような顔で見上げている。Tシャツの襟は伸びまくり、肩が出てしまっていた。その白い肩に、歯形がついている。首筋には、虫刺されのような跡が、いくつもあった。「それ……もしかして、俺が……?」
「寝ぼけるのもたいがいにしろ! お前じゃなかったら、今頃死んでるぞ!」
「…………俺じゃなかったら?」
「あ! いや、その、あれだ! 俺はさ、お前には触られても平気っつうか、寧ろ、正気の時なら大歓迎……いや! なんでもねえ! 忘れろ!」
「え? なんて言ったかよく聞こえなかったんだけど」
「なんで聞こえねえんだよ! そこは聞いとけよ! そんで、意識しろやゴラァ!」
「…………キレてる……」
何故自分が、姫野の部屋で姫野と一緒に寝ていたのか。昨夜の事を思い出し、頭を掻いた。抱き枕どころか、本人を抱き締めて眠っていたとは、勿体ない事をした。姫野が寝ている内に、もっといろいろな事をばれない範囲でしておけばよかった。早朝から酷い後悔だ。
「あと、しずかタンてのやめろ! めぐタンの代わりみたいで、不愉快だ!」
「お前は、めぐタンの代わりじゃないぞ?」
「知ってるよ!!」
一瞬、泣きそうな顔をした姫野は、次の瞬間にはゴリラをも瞬殺できそうな凶悪な顔で俺を怒鳴った。
「折角可愛いのに、そんな凶悪な顔をして……」
「可愛いんじゃないの! 俺は綺麗なの!」
「わかったわかった」
「わかってねぇだろ! 口さえ開けば可愛い可愛いって!」
口を尖らせながら拗ねたように言うのだから、これが可愛いじゃなくて、何が可愛いのだろう。しかし、これ以上拗ねさせてもいい事はないので、頭を一撫でして、ベッドを下りた。すっかり勃ちあがってしまった息子を宥めなければ。それに、朝食の用意もしたい。
「姫野、朝飯、お前も食べるだろ?」
「タンを外してくれればいいのに……」
「姫野?」
「……食うよ! いちいち聞くんじゃねえ!」
真っ赤になって怒っている姫野に笑いかけて、部屋を出た。理不尽だ。だが、これも惚れた弱味というものだ。
姫野と生徒会長の顔がボロボロだったので、校内は騒然としていた。一日経過して、顔の痣が、余計酷くなったのだ。二人が喧嘩をしたのは一目瞭然で、それでも、そんな野蛮な行為を二人がするわけがないと信じている生徒達は、もしや二人が誰かに襲われたのではないのかと噂した。
「金子と筆本がオロオロしちゃってさ」
「まあ、そうだろうね」
「花野は、俺を心配していると見せかけて、目の奥がざまぁみろと言ってた。あいつは、駄目だな。性格悪すぎ」
「そう簡単に性格は直らないと思う」
部屋で夕食を食べながら、二人で今日一日の話をする。同じ部屋ということで、俺も色々な方面から質問責めにあったし、再び理事長室に呼ばれて、添い寝の経緯なども報告させられた。大喧嘩をやらかした生徒会長と姫野は、普段通りに会話をしていたし、心配性の会計と書記は、それをハラハラしながら眺めていたという。少し意外だったのが、狩場が生徒会に顔を出して、会長の無事を確かめていた事だ。姫野は、姉田×狩場を推しているので、それはもう、自分の願望を含んだ話を俺に報告してきた。
「そういえば、三日後にまた転入生が来るんだってさ」
「転入生? また?」
「そう。また一年らしい。今年の一年生は、転入生が多いな」
「お前が迎えに行くのか?」
「…………そうなるのかな? めんどくせぇなぁ!」
「花野の時みたいになったら大変だから、一緒に行ってやろうか?」
冗談のつもりだった。俺は子供じゃねえとか言って、断られる事を想定しながらの提案だった。が、姫野はほんのりと頬を染め、俺を上目使いで見てきた。
「いいのか?」
なんだこれ。こいつ、ツンをどこに落してきたんだ。頭の中がぐるぐるとまわり、冷たい汗が噴き出てくる。
「勿論。俺は、お前の騎士だからね」
「騎士」
へらりと笑った姫野が、顔を赤くする。どうした、お前、キャラ変わってるぞ。可愛さが千倍くらいになって、俺の胸を攻撃してくる。ぎゅっと詰まった胸に手をあて、テーブルに撃沈する俺を、姫野は不思議そうに見ていた。
「貴志君、久しぶり。すごい偶然だね」
三日後、学園入り口。横入貢(よこいりみつぐ)は、満面の笑みで現れた。自分の眉間に皺が寄って行くのがわかった。隣にいた姫野は、近付いて声をかけてきた横入を見て、目を瞬かせている。
「貴志君……?」
姫野の声が低くなった。凶悪な顔になり、俺を横目で睨みつけてくる。
「…………めぐタン仲間だった。過去形だ」
「あッ、酷い! 今度こそ写真を撮ってもらおうと思って追いかけてきたのにい!」
横入は、めぐタンのレイヤーだ。何度かイベントで見かけた事がある。最近、どこからか情報が洩れて俺の身がバレてしまい、それから執拗に追いかけられていた。めぐタンの格好をした自分の写真を撮って欲しいというのだ。俺は、めぐタンだから撮りたいのであって、そうでないならば興味はない。何度も断っているのだが、彼は諦める事を知らなかった。何故そこまで自分の容姿に自信があるのかわからないが、今も、めぐタンの格好と化粧をしている。男子校なのに、だ。呆れていると、姫野がスマホを取り出して誰かに電話をかけた。
「花野、お前の仲間が来てるぞ。回収しに来い」
「あれ? 姫野、花野を呼んだのか?」
「うん。花野と気が合いそうだと思ってな。この他人の話を聞かない感じとか」
「ちょっとそこのブス! 何言ってんのさ! なぁに? 僕と貴志君の仲を裂こうとしてるの? そんな事させないからね!」
「ブス…………」
「いや、お前はブスなんかじゃな……」
胸ぐらを掴まれた。姫野の眉が下がっている。まるで泣きそうだと思った。手が震えている。目が赤くなっている。
「てめぇも俺の事をブスって思ってんのか!?」
「…………姫野は、世界一可愛いよ」
眉間にキスを落としてやる。この数日で、唇以外にする口付けは、もう、普通の事になった。甘えたがりな姫野と、甘やかしたがりな俺の、当然の結果だ。少し異常な関係だとはわかっている。
「俺は世界一美しいの!」
「はいはい、世界一美しくて可愛いよ」
「可愛くねぇっつってんだろ」
「はは!」
すぐ笑って誤魔化すんだからと口を尖らせる姫野に、ますます笑う。呆然とそれを見詰める横入を無視しながら数分待つと、遠くから、不機嫌そうな花野が走ってきた。
「また馬鹿ップルが一般人に迷惑をかけてるんですかー?」
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「一件落着……かな?」
大人しく隣を歩く姫野に顔を向ける。そして、驚いた。
「あいつ……何者?」
いまだに泣きそうな顔をして、姫野が俺を見ていた。
(つづく)
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