淡々忠勇

香月しを

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淡々攻防

斎藤・7

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「あんたが、生きていてくれて、良かった」

 再び、熱いものが身体を満たした。
 
 信じられない程の涙。さきほど、土方が生きている事を知った瞬間、後から後から流れてきた。今もまた、頬に暖かいものを感じる。土方はそんな俺を穏やかに笑って見詰め、血が滲んで紅色に色づいてきた包帯を巻いた指先にそっと触れた。
「こんなになるまで……結局、お前を傷つける事になっちまったな。悪かった」
「痛ッ!」
「お、悪ぃ」
 そっと触れた筈なのに、日頃から所作が乱暴なせいか、ぎゅっと掴まれた爪先が酷い痛みを訴える。そこでようやく、感覚が戻って来た。爪が剥がれた時は、痛みさえ感じなかったのだが。
 南蛮渡来の足枷は、あまりにも頑丈にできていた。刀が使えたところで壊す事など不可能だ。それでも、あの時は外そうとする手を止める事が出来なかった。

「……何故、ああまでして俺を部屋に閉じ込めておいたんですか?」
 少しして、土方は横向きに寝ていた体を仰向けにした。
「何故って……そうしなきゃ、お前が一人で行こうとしただろ?」
「……まぁ……そうですかね」
「この足では踏ん張れねぇ。確実にお前は死んでたな」
「だからって、一人で二十人の中に踏み込まなくても……」
「結果的には、三人だったぜ?」
「ですが、最初は一人でするつもりだったでしょう。今夜は逃がしてしまうという選択肢もあったのに」
「目の前で大事な相棒に死なれたくねぇ。だからといって、二十人もの不逞浪士を逃がしてしまうのは、新撰組副長としての名折れだ。まぁ……意地ってとこだな」
「意地……」
「つまんねぇ意地ぃ張ったから、山﨑があんなに怒ったのさ。あ~あ、熱が冷めたら大変だ。ねちねちと、近藤さんと一緒になってお小言の繰り返しだなぁ」
 そう言いながら、土方は嬉しそうに笑っていた。相変わらず読めないが、なんだかんだ言って土方は山﨑を慕っているようだ。

(…………うん?)

 絞った手ぬぐいを土方の額に乗せながら、首を捻った。
「目の前で死なれたくない大事な相棒というのは……俺の事ですか?」
「他に誰かいたか?」
「いえ……でも、ちょっと遠ざけられてたもんですから」
「お前が相棒だっつってんのに護衛みたいな事しようとするからだろ? どんな状況でも互いを信じて待つ事が出来る。それが俺の考える相棒の条件だ。どうだ? この美しい相棒に任せてみて、よかっただろ? 終わりよければ全てよし。てめぇのつまんねぇ矜持なんざ、とっとと捨てちまえ!」

「美しい相棒」

 くつりと笑うと、拳骨が飛んできた。熱があっても元気そのものだ。

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