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淡々忠勇
土方・2
しおりを挟む(相変わらず、気持ち悪い奴)
「やはり、新撰組の副長は貴方でしたか。いえね、役者のように綺麗な人がいるっていうから気になりまして。そんな綺麗な人のお力になりたいと思ったんです。そしたら、江戸でも仲良くして頂いていた貴方がそうだったんですねぇ」
「副長。この男とは、知り合いやったんですか?」
「…………」
何も答えない俺に、山﨑が眉を顰めてひそひそと話し掛けてくる。
「……副長、どうしました。真っ青ですよ。ほら、こんな男知らない、とかなんとか、いつもの貴方なら言うじゃないですか」
「……こんな奴に、声を聞かせたくない……早く帰りたい……」
「副長……」
「何をひそひそ話しているのかなぁ!」
男が不機嫌そうに大声を出した。こうして豹変する男なのだ。傍にいた山﨑の顔が、強張る。きつい眼差しで男を見ると、口を片方だけあげて笑った。
「今日は、正式に雇うかどうか、人となりを調べにきました。残念ながら貴方との取引は金輪際ありません。悪しからずご了承のほどを」
「……なん……」
「さあ、行きましょう、副長」
山﨑の手が、肩にそっとおかれた。少しだけ気分が楽になり、俺は男の顔を再び見る事なく戸を閉めた。家の中からは、何か叫び声が聞こえてきた。そうだ、ああいう男だったと、生々しく記憶が甦る。まだ手が震えている。斎藤には強いところだけを聞かせたが、試衛館の連中が気の毒に思う程、俺はあの男のせいでやつれてしまっていたのだ。
「大石さん、後は御願いします」
路地から物乞いの格好をした大石が顔を出す。コクリと頷くと、不審のないようにそこへ座り込んだ。頼む、と小さな声で話しかけると、大石はニコリと笑って俺を拝む真似をした。見事な演技だと、感心した。
「大石くんも来ていたのか」
「ええ、わからなかったでしょう。気配を殺す方法を、監察では一番最初に覚えるんですよ」
「ああ、あれは凄い、と斎藤も驚いていたぞ」
「それは光栄です。斎藤さんは鋭いから、あの人に気配を読まれずにいられれば一丁前です」
「そういうもんなのか」
あの男の家から遠く離れ、ようやく笑う事が出来た。山﨑も、それは気にかけていたのだろう、ホッとしたように息をついている。
「申し訳ありませんでした」
「なにが」
「会わせるべきではなかった。副長が真っ青になった時に、自分の愚かさにようやく気付きました。あの男は、危険です。強くは無いが、分別が無い。何をするかわからない恐怖というものがあります……斬ってしまいますか」
「…………夜を待て」
闇に紛れて暗殺しろ、それは、そういう命令だった。自分の為に隊士を動かすのは良い事ではない。しかし、監察の人間は、俺が危険に晒されるのを許してはくれない。どうせ俺の為に動いてしまうのだったら、俺に知られないように大勢で動かれるよりは、最初からそうするように決めてしまった方が動力は少なくてすむのだ。これは、下心のある好意の上の厚意ではないと、俺は信じている。
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