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淡々忠勇
土方・1
しおりを挟む山﨑と一緒に町を歩くと、方方から声がかかった。
情報屋だ。彼等は、銭を受け取って、情報を流してくれる。
「副長。最近、新しい情報屋を雇ったそうですね」
「……ああ」
「私も会いたいのですが……」
「そうだな、会っておいてくれ。向こうもその方が動き易いだろう」
「……さぁ……どうですか……」
「なんだ?」
「いえ」
情報を持つ者がいるという噂は、監察方が調べてくる。新しい情報屋も、監察から得た情報を元に見つけた。いつもは目星をつけたところへ山﨑に調べに行って貰い、信用できる相手かどうか見極めてから雇うのだが、生憎山﨑は大坂で仕事をしていて、しかもその時にどうしても必要な情報をその男が持っていた。
「俺もまだ会った事がねぇんだ。挨拶くらいはしとくか」
「そうですか。なら、丁度いいですね。今日、これからその男のところへ寄ってもいいですか?」
「ああ。そうしよう」
監察から聞いていた場所を言おうとすると、山﨑は、こちらの気分を害さない程度にそっと手で制して歩き出した。報告は受けてます、と笑う。
「元々は、江戸の人らしいですね」
「情報屋か? そうみたいだな」
並んで歩いた。山﨑は、歩幅もこちらに合わせて歩く。自然にこちらを気遣っているのだ。誰かさんとは大違いだな、と斎藤の顔が頭に浮かんだ。
「副長の事を、色々と聞いてきたらしいです」
「…………誰に」
「監察の者にです。心当たりはありませんか。こめかみに、傷がある……」
「……あいつだ」
言われるままに頼っていたら、実は下心があったという、あの男に違いない。試衛館の連中にあれだけひどくやっつけられて、まだ懲りなかったか。まさか、京まで追ってくるとは思わなかった。今でも思い出す。俺の肩に手をかけて鼻息を荒くした顔を。
ぶるり
震えた。山﨑は、心配そうに俺を見ていた。
「心当たりがあるんですね。こちらも真相をつきとめなければなりませんので、お気持ちはわかりますがどうかお付き合い下さい」
「……わかってる……」
気が重くなると、足も重くなった。山﨑は、途中何度も振り返りながら俺の少し前を歩くようになった。あの男の顔は、今でもよく覚えている。一目見れば、すぐにわかる筈だ。
山﨑の足が止まった。俺を見ている。頷いた。戸に手をかけてガラリと開けると、薄暗い中に男が座っていた。
「…………山﨑」
「……副長?」
思わず声が震えた。若い頃に怖いと感じたものは、年月が流れて怖いものがなくなっても、怖く感じるものだ。新しい情報屋は、やはりあの時の男だった。山﨑の後ろに隠れる俺の顔を見つけて、ニヤリと下卑た笑いを浮かべている。
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