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その気にしたいナンバーツー
しおりを挟む「やあ、海原クン。提案があるんだが、俺達も、ナンバーツー同士、くっつかないかい?」
「は?」
寮の入り口で、三年の先輩に捕まった。たしか、生徒会に入っていた先輩だと思う。今までまるで接点が無かったのに、いきなり話しかけられて、内容もわけのわからないものだったので、眉間に皺が寄ってしまったのがわかった。
「きみは、抱かれたい男、抱きたい男のランキングは知っているかな?」
「…………知りませんけど」
嘘だ。知っている。そこらの生徒には負けないぐらい、詳しい。
「ふッ……そうか、実はね、この俺が、抱かれたいランキングのナンバーツーになっているんだよ。そして、きみは、抱きたい方のナンバーツーだ」
「はあ……」
得意気になっている先輩に、一応相槌を打つ。たかが学園内のランキングで、しかも、一位じゃなくて二位だというのに、何をそんなに誇る事があるのだろう。先輩は、甘いマスクというのだろうか、二重のたれ目を俺に向けると、口角をぐっと引き上げて笑った。きっと彼の中のキメ顔なのだろう。俺には何も感じられないけれど。
「実は、最近になって、其々のナンバーワン同士が恋人関係になったらしい」
「……へぇ」
「やはり、同じランキング同士は、惹かれあうものなんだねぇ」
「……ほぉ」
「そこでだ! きみ、俺を見て、何か感じないかい?」
「は?」
「なんかこう……ムラムラっというか、体を投げ出したくなるというか」
期待に満ちた目で見つめてくる。正直キモい。ランキングなんて考え出したのは一体どこのどいつだろう。勘違い野郎製造機だ。自分がモテていると思い込んでしまう輩が出てくるのだから、あとで生徒会に訴えて粛清してもらわねば。
「…………先輩を見ていると、ムカムカっとしたり、その体を投げ飛ばしたくはなりますね」
「えッ」
「あ、ちょうど帰ってきた。ほら、見て下さい。抱かれたいランキング一位の男ですよ」
寮の入り口を塞ぐように立っていた俺達を迷惑そうに見ている山野がいた。深海以外には愛想のない男だ。付き合いだしてからは、それが顕著に表れるようになった。
そんな険しい顔をしているのに、山野はイケメンなのだ。独占欲丸出しの顔をしながらも、爽やか青年。嫉妬にまみれて周りを牽制しまくっていても、セクシーな声で人気を独り占めしている。隣にいる深海の腰を抱き締め、じろりとこちらを睨みながら、山野は立っていた。深海は、とろんとした目で、心ここにあらず、色気を振り撒いている。山野が何かエロい事をしたに違いない。
「なに、海原。俺達をくだらない事に巻き込もうとするな」
「ああ、大丈夫大丈夫。抱かれたい男ダントツ一位の山野がどれだけイケメンなのかを確認させたかっただけだから。どうぞどうぞお通り下さいな」
山野は鼻を鳴らすと、俺達の横をスっと通っていった。挨拶もなしだ。あいつ、本当に深海以外には感じの悪い奴だな。後ろ姿を眺めた後で先輩の方に目をうつし、ちゃんと見たかどうか問う。
「見たよ。それが、何?」
「アレが一位ですよ。ダントツなんです。もうね、他の男なんて、あとはどんぐりの背比べ。先輩は二位になったと喜んでますが、三位の人とはたった一票の差ですし、傷つけてしまうようで申し訳ありませんが、二位以下、票が入っているのは全て一桁です」
「ひとけ……た」
「ですので、ご提案にはのれません。悪しからず」
へたり込むナンバーツーをそのままに、俺は自室へ急いだ。追いかけられたりしたら大変だ。
「ただいまー」
「おう、おかえり」
Tシャツと短パンで、ソファの上で寛いでいた軽薄そうな男が手をあげた。風呂上りなのだろう、髪が濡れている。
「もう参ったよー。寮の入り口で抱かれたい男二位とかいう先輩が絡んできてさぁ」
「……へぇ、モテモテじゃん。さすが抱きたい男二位」
「あんなのにモテてもな……」
男同士の恋愛に嫌悪感は無い。寧ろ俺は男に抱かれたいので大歓迎だ。ただし、好きな男が相手に限る。
狙っているのは、同室の男。目の前でスマホゲームに夢中になっている高原空だ。高原は、サラっとした茶髪に、切れ長の目。男らしく筋肉質な身体。だが、運動部に入っているわけでもなく、筋肉隆々というわけでもない、バランスのとれた身体だ。部活に入っていないので、だいたい部屋にいる。俺も帰宅部だから、俺達が一緒にいる時間は長い。その時間を使って、何気に誘惑したりしているのだが、一向に靡く気配がないのだ。寝る時間になるまで、自室に籠らずに共有スペースにいるぐらいなので、嫌われてはいないと思うのだが、好かれているわけでもなさそうなのが辛い。スマホから目を離さない高原を尻目に、シャワーを浴びに行く。
シャワーを浴びながら、鏡に映る自分を見詰めた。少し長めの髪。サラサラした髪に憧れているので、黒髪でストレートだ。妙に色白。運動してないもんな。筋肉はつきにくい。筋トレをした時期もあったが、いつもどこか痛めてしまうので、ソファの上で呆れたように眺めていた高原に、やめれば、と言われてしまい、今はやっていない。可愛い系ではない。自分で言うのもなんなのだが、どちらかというと綺麗系だ。昔、高原が、可愛い男なら抱けると言っていたので、俺は可愛くなりたい。深海を見て研究しているが、俺にはあの謙虚さは出せない。出す気もない。
溜息をつきながらシャワー室を出ると、ソファの上で、高原が居眠りをしていた。珍しい。あまり隙を見せない男だ。そっと近付いて隣に腰掛けた。いつもなら、一人分離れて座る。ただ、今日は高原が起きるまでは、ぴったり寄り添いたい。同じように短パンをはいた俺の足は、脱毛処理をしているので、綺麗なものだ。高原の足に摺り寄せた。白くてすべすべ。自慢の足だ。こてりと高原の肩に頭を乗せる。そして盛大に溜息をついた。
「あいつ、気持ち悪かったなぁ……」
「なんかされたのか?」
返ってきた反応に、ぎくりとして飛び上がる。慌てていつもと同じ距離をあけようとすると、手首を掴まれた。
「ちょ……居眠りしてたんじゃ……」
「何をされた?」
「え、待って、手ぇ離し……」
真顔だった。真顔の高原など、初めてだ。軽薄そうな顔でヘラヘラしていたり、俺の誘惑を飄々とかわしたりする顔しか見た事がない。笑みも浮かべず、俺を真っ直ぐ見詰めてくる高原が、初めて怖いと思った。
「絡まれたって……どんな風に絡まれたんだよ?」
「…………それは……ナンバーツー同士付き合おうとか。俺を見るとムラムラしないかとか聞いてきたり……」
「ムラムラすんの?」
「ムカムカするって言ってやったよ!」
「……好きな奴、あの先輩じゃないって事だな?」
「はぁ?」
高原が言っている事がさっぱりわからない。好きな奴の話なんて、した事があっただろうか。俺の手を掴んだまま、高原はもう片方の手で自分の顎を撫でている。
「海原は…………好きな奴がいるんだよな?」
「…………」
「俺の好きな奴は鈍感で本当に腹立つ、って、いつも怒ってるもんな」
「鈍感で……」
「もうさ、告っちゃえば? こう、回りくどい事せずに、そのまんま、好きだっつってさ」
なるほど。俺が誘惑していたのは、まったく通じていなかったと。鈍感で腹立つっていうのは、鈍感なふりをしやがってと同意語くらいで使っていたが、本人にはそのまま伝わっていたという事だ。
「…………相手、鈍感だから」
「だから、そのまま素直に伝えればいいだろ? 抱いて下さいって」
「……断られるだろうから」
「は? お前が? お前が抱いてくれって言ってんのに断る奴なんているのか?」
「ぶっ殺されてぇのかこの野郎!」
目の前の朴念仁に、殺意しかわかない。散々好意を匂わせてきた俺だ。好きな相手に抱かれたい、と。近くにいるのに気付いてくれない、と。高原って、抱かれたい男にランキングされてるらしいね、俺お前に抱かれたらどんな風になっちゃうのかな、なんて。誘ってるとしか思えないだろう。なのに、こいつは全てスル―した。へらりと笑って、そうか頑張れよ、だの、お前の相手は鈍感なんだな、だの、お前の事だからエロくなるんだろうな、だの!
「えッ、な、なんだよ。いきなり何怒ってんのお前」
「好きな相手って、お前だっつうんだよ!!」
高原が、目を丸くした。ああ、言ってしまった。もう後戻りは出来ない。力の抜けた手から、自分の手を取り返す。これで終わりとばかりに一睨みして、腰をあげようとした。
だが、出来なかった。今度は、高原の長い腕が伸びて来て、俺の腰にまきつき、強く抱き締められたからだ。
「なんだよー。それなら早く言ってくれたらよかったのに」
「…………は?」
「好きな奴がいるっていうから、我慢してたんだ。もう、お前がエロくてエロくて、何回襲いそうになったか」
「…………」
「じゃ、なに? 今まで、そういう話をしてる時って、俺にムラムラしたりしてたって事か?」
「…………」
軽薄すぎるだろ。ヘラヘラしながら、俺を覗き込んで来る。その瞳には、今までにない色を含ませていた。これは、どう見るべきか。エロい俺が自分に好意を持っているから、ヤレると思っているだけなのか。俺はべつに、こいつのセフレになりたいわけではない。体だけの関係ならば、そんな不毛な事には付き合えない。頭でぐるぐる考えている間、無言になってしまう。
「海原?」
「セフレは嫌だ」
「はい?」
目をきょと、とさせるのも可愛らしい。いつもの精悍な顔つきが、急に幼く見える。そんなところも好きだと思った。もう重症だ。
「俺は、ちゃんと高原の事が好きだから、体だけの関係なんて望んでない。抱かれたいけど、抱かれたいだけではないんだ。生半可な気持ちなら、俺には手を出さないでくれ。俺は、案外重い男なんだ」
言いながら、ぽろりと涙がこぼれるのがわかった。本当に重い。重くて、我儘だ。そんな俺を見て、高原が噴き出す。今、絶対笑うタイミングではないだろう。このデリカシーの無さが、この男の最も悪いところだ。
「あのな。俺だって、抱きたいだけなら、今の今まで我慢なんてしてないっつうんだよ。とっとと襲ってたわ」
「うん?」
「好きな奴がいるっつうから、見るだけで我慢してたんだろ。一目惚れだったっつうの。どれだけお前に触れたかったか。お前の体の全てを舐め尽くしたいし、穴という穴に舌を突っ込みたいし。指でいろんなとこを穿りた……」
「待った待った! もうやめろ! 言うな!」
「お前がセフレとか言うから」
「いやいや、今の話からは、俺とヤリたいって気持ちしかうかがえなかったからな?」
「今のは、俺がどれだけお前を欲しいかって話だから、性的な事言ってもいいタイミングだろ。けどさ、お前が特別だって、わかんねえかな。普段、海原と、海原以外への態度、全然違うだろ? こんなに喋るのは、お前の前だけだよ、俺」
「…………あ」
そういえば、そうだった。ヘラヘラして軽薄そうだから、話しかけやすいと思いきや、高原は他人とはほとんど関わらないのだ。あきらかに高原狙いの可愛い系男子などが話しかけてきても、高原の答は、いつもほとんど一緒。『さぁね』と『どうだろう?』だけ。今では、はぐらかし王子と陰で呼ばれているらしい。さっきの二位の先輩よりもずっと男前なのに三位に甘んじているのは、サービス精神に欠ける態度によるものなのだと俺は思っている。サービス精神の欠片もない山野が一位って事に納得がいかないが。
「わかった?」
「うん…………うん?」
いつのまにか、高原の手が、俺の胸の辺りを撫でている。布越しではなく、素肌を。服の中に手を入れられている事に、まったく気付いていなかった。慌てて上から押えると、ぐんと顔を近付けてきた高原が、不敵に笑った。
「じゃあ、いただきます」
「え、ま、ちょッ……?」
「もう遠慮しない」
「んッ……むんッ、ふ……あ」
舌が。俺の口の中で暴れている。ざりざりと上顎をくすぐられ、そうかと思うと、絡めとられた舌をぎゅうと引かれ、吸い付かれ。ずっと恋い焦がれてきた相手にキスをされていると実感した頃には、俺はとろっとろに蕩かされて、高原の部屋のベッドの上だった。
あれ。全裸だ。おかしいな。何時の間に。互いに熱くなった体を擦り付けあいながら、口付けを繰り返し、身体中を撫でられていた。
「海原、四つん這いになって」
「え、は……はぅんッ、や、やめ……」
「あー、力が入らないか。よし、じゃあ、尻だけでいいから、うつ伏せからちょっと尻をあげて……」
「ん、ううッ……無理ぃ……あッ、あッ、ふあッ!」
腰を持ち上げられて、尻だけを突き出す格好になってしまう。なんという恥ずかしい格好だ。羞恥に震える俺の尻に、さらなる試練が待っていた。
ねろり
くちゅり
「可愛い……」
「ふッ……ふああああああ!! やああああ!! やだ、そんなとこ、舐めないで! 指を挿れるなああああ!」
「何言ってんだ。解さないと俺のが挿入できないだろ。ああ、可愛いな。お前の窄まり。なんか綺麗だし。エッロ……」
抱かれるのを想定して、いつも綺麗にしている尻穴だ。綺麗なのは当然なのだ。だが、初めてのエッチから舐められる事は想定外だ。羞恥も羞恥。恥ずかしくて俺はこのまま死んでしまうかもしれない。
日頃の、飄々とした態度はなんだったのか。俺の尻に顔を突っ込んでいる高原は、今までみたことも無いように夢中な様子だし、息も荒い。あれだけ誘惑しても、絶対靡いてこなかったくせに。
「手が早すぎんだろおおおおおお!!」
俺の涙混じりの叫び声が、防音効果抜群の部屋にこだました。
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