白銀のラストリゾート

不労つぴ

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第11話 : 芹沢琥珀②

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「へぇ……ここがタカナシ君の生まれ育った場所か」

「大げさですよ部長。それにこの前の廃墟探検のときに僕を拾いに来たじゃないですか」

 蒼空と琥珀は蒼空の家から大学への最寄り駅のベンチに座っていた。隣では琥珀が先程自販機で購入したおしるこを美味しそうに飲んでいる。

「にしてもこの駅、ICカードすら使えず現金のみなの不便すぎないかい?」

「いやまぁ、昔からこんな感じなんでもう慣れましたね」

 琥珀はおしるこを飲み終わると、飲み終わった缶をゴミ箱に捨てた。ベンチからはラーメン店「カテナチオ」の様子が見え、相変わらず人気なようで行列ができていた。
 何故こんな事になっているか、それは1時間ほど前に遡る――。





「えっ、持ってきてないの!?」

 琥珀がややオーバーリアクションといった感じで驚く。蒼空はずっと持ってきたバッグの中を漁っているが、目的の本は見つからない。

「普通に忘れてきたんじゃないのか?」

 オビトが蒼空に尋ねる。

「いや、確かに持ってきたはず……家を出るときも、ちゃんとバッグの中に入れたのを確認したよ」

「じゃあ落としたとか?」

「結構分厚い大きめの本だったから、落としたのだとしたら流石に僕でも気づくよ」

 おそらく、落としたのではないと蒼空は思っている。しかし、家を出る前にしっかり確認したのも確かだ。だが、その本は今蒼空の手にないのは事実だった。

「すみません部長。せっかく時間作ってもらったのに」

 蒼空は琥珀に申し訳なくなり謝る。オカルトに精通している琥珀にあの本を見てもらえば何か分かるのではないかと思い、琥珀に時間を作ってもらったが、肝心の本を忘れてしまったら意味がない。

「謝る必要はないさタカナシ君。私は基本暇だからね。私が四六時中この部屋にいるのは君も知ってるだろう? それにその本に俄然興味が湧いてきた。まるで、その本が自ら意思を持っているみたいじゃないか」

 琥珀は新しい玩具を見つけた子供のように口角を上げた。

「よし、その本を見に行こうか!」

 琥珀はおもむろに立ち上がり高々とそう宣言した。

「見に行くったってソラは本を持ってきていませんけど、一体どうするんですか?」

「そんなの決まってるじゃないか。タカナシ君の家にその本を見に行くんだよ」

 琥珀は何を当然のことを聞くんだというようにオビトを見る。

「それにタカナシ君は今怪我人だ。怪我人を一人で帰らせるような薄情な心を私は持ち合わせていないよ」

「確かに……」

 オビトは琥珀に言いくるめられ、琥珀の提案に対し納得し始めているようだった。

「別に怪我っていうほどじゃ……」

 蒼空は弁明しようとするが、琥珀はそれを見越したように言葉を遮る。

「それにタカナシ君は家に帰っても、その怪我のことをご家族に隠し通すような気がするんだよねぇ。だからご家族にちゃんと話をつけておこうと思ってね」

「確かに……ソラならやりかねませんね」

 オビトは琥珀の言葉にうんうんと頷いている。蒼空は琥珀の言うように、母や妹には怪我のことをごまかすつもりだったので、気まずくて二人から目を逸らした。

「というわけで、タカナシ君。君の家にこれから行っていいかい?」

 琥珀は蒼空に有無を言わせぬ雰囲気を身にまといながら蒼空に尋ねる。

 もちろん、蒼空は「はい……」と素直に従うしかなかった。






「にしても、こういう時に限って私の車を修理中なんだよねぇ」

 琥珀ははぁ……とため息をつく。琥珀は普段車で大学まで来ているのだが、車に不調が出たらしく。今週は車を修理に出していた。なので、彼女は移動手段として電車を使わざる負えなかった。

「この前の廃墟探検のせいじゃないですか? 帰りの山道であれだけ飛ばしてればああもなりますよ……」

「やっぱあれが原因かなぁ……」

 廃墟探検のあとに彼女は唐突に「せっかくだしこれからドライブしよう!」と言い、山道をものすごいスピードで駆け抜けた。助手席に座っていた蒼空はまるで絶叫マシンにでも乗っているように感じ、気が気でなかった。

「にしても、なんであの廃墟へ探索しに行ったんですか?」

 蒼空達が訪れた廃墟は今どき珍しい純日本風の屋敷で、壁にヒビが入り部屋の中も蜘蛛の巣もはっていた。どうやら持ち主がいなくなってからそれなりに年月が経過したようだった。しかし、そこは心霊スポットとして有名というわけでもなく、ネットで調べても何もヒットしなかった。

「うーんとねぇ。あの家には十年くらい前まで、いかにもって感じの剣客っぽい見た目のおじいちゃんが住んでたらしいの」

「この時代に剣客ですか……? にわかに信じがたいですけど」

「まぁ、噂だからね。ほんとのとこはどうか分からないよ。ただ、おじいちゃんがその家に住んでいたのは確かみたいだ。んで、そのおじいちゃんどうやら年代物の日本刀を隠し持ってたらしいんだ」

「それ、法律とか大丈夫なんですか……? でも、それ流石におじいさんの死後に回収されたんじゃないですか?」

「んー、それが探しても見つかなかったらしいんだよね。そもそも、そのおじいちゃんも死んだかどうかも分からないんだよね」

「じゃあ、部長はそのおじいさんの幽霊でも探しに行ったんですか?」

 蒼空が尋ねると、琥珀は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、人差し指を立て、チッチッチッと指を左右に振った。

「おじいさんにはそこまで興味はないんだ。私が興味あったのはおじいさんが持ってた刀の方だよ」

 続けて琥珀は言う。

「その刀どうも妖刀って言われる類のいわくつきの刀らしくてさ。おじいちゃん以前に持っていた所有者は、皆ことごとく不審な死を遂げた……って噂だよ」

「つまり、先輩は僕達を連れてその妖刀を探しに行った……と」

「そういうこと。まぁ、結果は見ての通り。流石にそれなりに年月も経ってるし、誰かに持っていかれてるよね」

 あー残念と琥珀はいつの間に買ったのか2本目のおしるこを飲み始めていた。

「僕達が呪われたらどうするんですかそれ……」

 蒼空は呆れながら琥珀に抗議の目線を送るが、琥珀には全然響いていないようだった。

し大丈夫大丈夫。それより、もう結構時間が経ったけどマグレ君はまだ戻ってこないのかなぁ」

 琥珀は退屈そうに携帯をいじる。オビトは少し前に電話がかかってきたということで席を離れていた。
 あの後、部室で琥珀が

「マグレ君はどうするんだい?」

 と尋ねところオビトは、
「僕も行きます。先輩の言う通り、怪我をしている友人を放っておけませんから。ソラの家族には俺からもちゃんと怪我の説明するからな!」
 と熱い目線を蒼空に送った。
 オビトは時折漫画やアニメの熱血系主人公のようになるときがある。今回も何かが彼の心の火を滾らせたのだろう。

 あの本を見てもらうのは別に問題ない。元々そのつもりで来たのであって、このような事態になったのは自分の不手際が原因だ。しかし、御堂による右手の怪我について二人から家族に説明されるのはとてもマズイ。

 家に帰るのが憂鬱だななんて、そんな事を蒼空が考えていると――。

「あれ? そーちゃん?」

 聞き覚えのある、いや先日聞いた声がした。気のせいだと思ったが、念のため声の聞こえた方を向く。

「やっぱりそーちゃんだー」

 そこには明るめの茶髪の女の子が、こちらに向かって手を振っていた。そう、間違えようない。

 声をかけてきたのは蒼空の幼馴染である七草陽菜だった。
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