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第6話:追憶Ⅰ
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「お父さん、これはなぁに?」
キツネの人形を手に抱きかかえた少年が、椅子に深く腰掛け少年を暖かな眼差しで見つめる男性に何かを質問している。
少年と少年の父親らしき男性がいるのは書斎で、あたりには所狭しと様々な言語で書かれた難しそうな書物が本棚の中に並んでいた。
「あぁ、それはね……」
男性は椅子から立つと少年が指さしたテーブルの上に置かれている木製の箱を手に取り、少年のもとに向かう。
男性はメガネを掛け髪を七三分けにしており、柔和な雰囲気を醸し出していた。少年の顔と男性の顔はとても良く似ており、傍から見ても親子であることは一目瞭然だった。
男性は膝をつき、少年と目線の高さを合わせて木箱を開けた。少年が目を輝かせながら箱の中身を覗くと、中には所々破れた羊皮紙に包まれた小さめの鍵のようなものが入っていた。
破れた羊皮紙から見える鍵の色はきれいな銀色で、表面は奇妙な紋様のような意匠が施されていた。
「外国にいる僕の友達から譲って貰ったんだ。どうやら大昔に作られたものらしいけど、起源とかはまだはっきりしていないんだ。この鍵について調べたら、もしかすると、今この地球上で誰も知らなかった新しい事実が分かるかもしれない。だからね、父さんの仕事はこの鍵を調べることなんだ」
そう言って男性は少年の頭を撫でた。
「それを使ってどこかあけるの?」
「いや、この鍵は何に使われていたのか、全く分かっていないんだ。でも、もしかするとこの鍵は――」
男性が熱く語りだしたが、まだ幼い少年には言っている内容が難しく、理解することは出来なかった。少年は男の話を無視して鍵を見つめていたが、どうしてもそれが欲しくなってきた。
「ねぇ、お父さんがその鍵を調べ終わったらぼくにちょうだい!」
未だ熱く語り続ける男に対し、期待に染まった顔をして少年が言うと、男は困ったような笑みを浮かべた。
「うーん……困ったなぁ。ソラが大きくなるまでに終わるかなぁ」
男はしばらく、うーんと唸っていたが、覚悟を決めたのか「よしっ」と声を上げた。
「分かった。ソラが20歳になったらこの鍵を成人祝いとしてあげる。それまでに僕は頑張ってこの鍵のことを調べ上げるよ!」
「ほんとぉ!?」
「あぁ、本当さ。父さんが今までソラ達に嘘をついたことなんてないだろう? これは男と男の約束だ。母さんやイロハにはこの話は内緒だぞ?」
「うん!」
男は自身の小指を少年の目の前に差し出す。少年は嬉しそうに父の小指に自身の小さい小指を絡める。
「ゆびきりげんまんうそついたら――」
少年が歌っているのを微笑ましそうに見つめる。すると、少年の視界の男の顔が急にぼやけていき、やがて視界はすべて黒に暗転した。
「…………父さんっ!」
そう叫びながら蒼空が飛び起きると、そこはいつもの見慣れた自室の光景だった。寝る前にカーテンを締め切ってはいなかったが、部屋は真っ黒だった。しばらくぼーっとしていると、暗闇の中でも目が慣れていき、やがて部屋にあるものが全て見えるようになった。
「夢か……」
蒼空が時計を見ると時計は午後10時を指していた。あの後、何事もなく陽菜を家まで送り届けたものの、疲れからかそのまま自室で眠ってしまったらしい。
別れ際に陽菜は、
「今週の日曜日楽しみにしてるからね!そーちゃん!」
と満面の笑みを蒼空に見せた。その時に蒼空は、やっぱり彼女は笑顔が似合うななんてことを頭の片隅で考えていた。
「にしても、懐かしい夢だったな」
蒼空は首にかけていたシルバーのアクセサリーを外し、勉強机の上に置く。アクセサリーには銀色の小さな鍵がついていた。
「あれ?」
蒼空は机に置いた小さな銀の鍵を見て疑問を抱く。
――何故この鍵を自分が持っているのだろうか?
これは本来、父さんが所持していたはずのものだ。なのに、なんで自分が持っているのだろうか。それに、本来の所有者である父さんは今どこにいるのか。
一度疑問が湧くと、それが連鎖してどんどん思考がまとまらなくなってくる。何かがおかしい、けれど何がおかしいのか自分自身でも分からない。いや、きっと分かってはいるはずなのだ。だが、それを自分自身で――。
「……お腹空いたな」
ふと、蒼空は今思ったことを呟く。すると脳内で先程まで疑問に思っていたことが段々と薄れていき、最後には何を考えていたのか思い出せなくなってしまった。
「あれ? 何を考えていたんだっけ?」
思い出そうと頭をひねるが全く思い出せない。先程まで何を考えていたのだろうか。いや、思い出そうとしても思い出せないのだろう。
そう、これはいつものことだ。
寝起きはどうしても頭が回らない。それに加えて、空腹のせいでいつもより頭が回らなくなっているのだろう。蒼空はそんな風に自身で結論づけ、夕食を取るために自室を後にしようとする。
自室のドアノブに手をかけた時に、机の上に置かれた銀色の鍵が視界に入った。先程まで考えていたことはあの鍵のことだったかもしれない。そんなことを蒼空はぼんやりと思ったが、数秒後には完全に忘れきってしまっていた。
キツネの人形を手に抱きかかえた少年が、椅子に深く腰掛け少年を暖かな眼差しで見つめる男性に何かを質問している。
少年と少年の父親らしき男性がいるのは書斎で、あたりには所狭しと様々な言語で書かれた難しそうな書物が本棚の中に並んでいた。
「あぁ、それはね……」
男性は椅子から立つと少年が指さしたテーブルの上に置かれている木製の箱を手に取り、少年のもとに向かう。
男性はメガネを掛け髪を七三分けにしており、柔和な雰囲気を醸し出していた。少年の顔と男性の顔はとても良く似ており、傍から見ても親子であることは一目瞭然だった。
男性は膝をつき、少年と目線の高さを合わせて木箱を開けた。少年が目を輝かせながら箱の中身を覗くと、中には所々破れた羊皮紙に包まれた小さめの鍵のようなものが入っていた。
破れた羊皮紙から見える鍵の色はきれいな銀色で、表面は奇妙な紋様のような意匠が施されていた。
「外国にいる僕の友達から譲って貰ったんだ。どうやら大昔に作られたものらしいけど、起源とかはまだはっきりしていないんだ。この鍵について調べたら、もしかすると、今この地球上で誰も知らなかった新しい事実が分かるかもしれない。だからね、父さんの仕事はこの鍵を調べることなんだ」
そう言って男性は少年の頭を撫でた。
「それを使ってどこかあけるの?」
「いや、この鍵は何に使われていたのか、全く分かっていないんだ。でも、もしかするとこの鍵は――」
男性が熱く語りだしたが、まだ幼い少年には言っている内容が難しく、理解することは出来なかった。少年は男の話を無視して鍵を見つめていたが、どうしてもそれが欲しくなってきた。
「ねぇ、お父さんがその鍵を調べ終わったらぼくにちょうだい!」
未だ熱く語り続ける男に対し、期待に染まった顔をして少年が言うと、男は困ったような笑みを浮かべた。
「うーん……困ったなぁ。ソラが大きくなるまでに終わるかなぁ」
男はしばらく、うーんと唸っていたが、覚悟を決めたのか「よしっ」と声を上げた。
「分かった。ソラが20歳になったらこの鍵を成人祝いとしてあげる。それまでに僕は頑張ってこの鍵のことを調べ上げるよ!」
「ほんとぉ!?」
「あぁ、本当さ。父さんが今までソラ達に嘘をついたことなんてないだろう? これは男と男の約束だ。母さんやイロハにはこの話は内緒だぞ?」
「うん!」
男は自身の小指を少年の目の前に差し出す。少年は嬉しそうに父の小指に自身の小さい小指を絡める。
「ゆびきりげんまんうそついたら――」
少年が歌っているのを微笑ましそうに見つめる。すると、少年の視界の男の顔が急にぼやけていき、やがて視界はすべて黒に暗転した。
「…………父さんっ!」
そう叫びながら蒼空が飛び起きると、そこはいつもの見慣れた自室の光景だった。寝る前にカーテンを締め切ってはいなかったが、部屋は真っ黒だった。しばらくぼーっとしていると、暗闇の中でも目が慣れていき、やがて部屋にあるものが全て見えるようになった。
「夢か……」
蒼空が時計を見ると時計は午後10時を指していた。あの後、何事もなく陽菜を家まで送り届けたものの、疲れからかそのまま自室で眠ってしまったらしい。
別れ際に陽菜は、
「今週の日曜日楽しみにしてるからね!そーちゃん!」
と満面の笑みを蒼空に見せた。その時に蒼空は、やっぱり彼女は笑顔が似合うななんてことを頭の片隅で考えていた。
「にしても、懐かしい夢だったな」
蒼空は首にかけていたシルバーのアクセサリーを外し、勉強机の上に置く。アクセサリーには銀色の小さな鍵がついていた。
「あれ?」
蒼空は机に置いた小さな銀の鍵を見て疑問を抱く。
――何故この鍵を自分が持っているのだろうか?
これは本来、父さんが所持していたはずのものだ。なのに、なんで自分が持っているのだろうか。それに、本来の所有者である父さんは今どこにいるのか。
一度疑問が湧くと、それが連鎖してどんどん思考がまとまらなくなってくる。何かがおかしい、けれど何がおかしいのか自分自身でも分からない。いや、きっと分かってはいるはずなのだ。だが、それを自分自身で――。
「……お腹空いたな」
ふと、蒼空は今思ったことを呟く。すると脳内で先程まで疑問に思っていたことが段々と薄れていき、最後には何を考えていたのか思い出せなくなってしまった。
「あれ? 何を考えていたんだっけ?」
思い出そうと頭をひねるが全く思い出せない。先程まで何を考えていたのだろうか。いや、思い出そうとしても思い出せないのだろう。
そう、これはいつものことだ。
寝起きはどうしても頭が回らない。それに加えて、空腹のせいでいつもより頭が回らなくなっているのだろう。蒼空はそんな風に自身で結論づけ、夕食を取るために自室を後にしようとする。
自室のドアノブに手をかけた時に、机の上に置かれた銀色の鍵が視界に入った。先程まで考えていたことはあの鍵のことだったかもしれない。そんなことを蒼空はぼんやりと思ったが、数秒後には完全に忘れきってしまっていた。
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