上 下
45 / 57
ブラックナイトの不在(黒川甲斐記憶喪失編)

②フレイムってそんな話だっただろうか※

しおりを挟む
 
 焔に案内された先は見覚えのある部屋だった。
 そもそもカギを焔が取り出した時点でおかしいと思うべきだった。だが甲斐の鞄から見つけていたのかとかそんな風に考えてしまった。だけど、ドアを開けたその先にあったのは、正岡焔の部屋だった。

「甲斐はね、俺の恋人だったんだよ」

 聞いてもいないのに焔は勝手に話し始める。
 さっさと逃げ出して家に帰ればよかったのだが、そもそも黒川甲斐の本当の家がわからない。仕方なく焔の話を聞いていたのだが、そうしている間に気が付けば両手を背に回され、手錠をかけられていた。
 ……もしかして、ヤバい状況ではないだろうか。
 そう思ったときには手遅れで、焔の顔がうんと近くにあった。

 あ、と思った時には、今度こそ唇が触れた後だった。柔らかな唇が自身のそれに触れて、初めてなのに慣れ親しんだ感覚。

「ん、……っ」

 唇同士が触れるとそれが自然のように思えて、ひどく安心している自分がいる。いくら推しだからって、男同士でキスなんてしても気持ち悪いだけなはずなのに。
 かけられた手錠のせいで抵抗できないから?
 唇をこじ開けて、焔の舌が入り込んでくる。

「んんっ……ふ、」

 舌と舌とが触れ合って、触れたところが熱を持つようだった。熱く痺れて、じわじわと体中が熱くなる。
 今すぐ突き飛ばして逃げないと。逃げないと……どうなるんだろう。
 自分はこの先に起こることを知らないのに、黒川甲斐の体は知っている気がした。焔の舌がひどく甘く感じて、夢中で舌を絡ませる。
 互いの唾液で口内が満たされて、溺れそうだった。

「甲斐、可愛い」

 ようやく舌が離れたかと思うと、囁かれる。その声だけでペニスが熱を持つのがわかる。キスで十分に高められた体に、とどめを刺すように。

「忘れちゃったならまた覚えればいいよ」
「お、覚える……?」
「甲斐は俺の恋人で、俺のことが大好きなんだよ」

 ぼんやりとした意識に焔の声が入り込んでくる。好き、そうだ、正岡焔のことは好きだ。だって推しだし。でもキスしたりとかそういう好きではなくて。
 力の抜けた体をソファーに押し倒されて、上に焔がのしかかってくる。焔の顔は下から見上げても整っていて、胸がドキドキする。

「あっ……」
「ほら、甲斐の体はちゃんと覚えてるよ」

 服の上から勃起したペニスを掴まれ、また唇が触れ合う。口内に甘い唾液が流れ込んでくる。
 服越しとはいえペニスを扱かれ、キスがどんどん深まっていく。どうやって息をすればいいのかわからず、息苦しい。同時に一度も触れたことのない部分がむずがゆく思えた。

「これだけじゃ足りないでしょ?」
「……ちが、ぁっ」

 違うと否定したかった。ペニスの先端をぐりぐりと刺激され、射精しそうなのにできない。
 何で。焔の手が尻を撫でて、狭間に指を押し付けてくる。

「――っ!」

 体に電気が走って、目がチカチカする。そこが勝手に焔の指を受け入れようとヒクヒクするのがわかった。
 ……そんなはず、ない。


 ――甲斐はね、俺の恋人だったんだよ


 そもそも、フレイムってそんな話だっただろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

憧れていたヒーローになったけど熱烈なファンに猛アタックされる俺の話

多崎リクト
BL
ずっと憧れていた正義の味方になった水の戦士ブルーこと室田青(むろた あお)だったが、憧れの先輩ヒーローが最近仕事してくれない。不満に思っていた青にある日熱烈なファンが現れて―― 「ブルーさん、好きです!」 ブルーに会うためにトラブルの中心に飛び込む男・佐藤怜央(さとう れお)に、だんだんと惹かれていってしまって……。 怜央×青。 ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿中。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)

ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子 天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。 可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている 天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。 水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。 イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする 好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた 自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語

悪役令嬢の兄に転生した俺、なぜか現実世界の義弟にプロポーズされてます。

ちんすこう
BL
現代日本で男子高校生だった羽白ゆう(はじろゆう)は、日本で絶賛放送中のアニメ『婚約破棄されたけど悪役令嬢の恋人にプロポーズされましたっ!?』に登場する悪役令嬢の兄・ユーリに転生してしまう。 悪役令息として処罰されそうになったとき、物語のヒーローであるカイに助けられるが―― 『助けてくれた王子様は現実世界の義弟でした!? しかもヒロインにプロポーズするはずなのに悪役令息の俺が求婚されちゃって!?』 な、高校生義兄弟の大プロポーズ劇から始まる異世界転生悪役令息ハッピーゴールイン短編小説(予定)。 現実では幼いころに新しい家族になった兄・ゆう(平凡一般人)、弟・奏(美形で強火オタクでお兄ちゃん過激派)のドタバタコメディ※たまにちょっとエロ※なお話をどうぞお楽しみに!!

処理中です...