7 / 57
⑦フレイムにそんな展開はあっただろうか?
しおりを挟む
「……どういうことだ?」
思わず呟く。どういうことだ。たしかに、正岡焔が黒川甲斐の正体に気づくこと自体はシナリオ通りだ。だが、あまりに早すぎる。
たちの悪い冗談なのだろうか。だとしたら真面目に返してはいけない。なんとか誤魔化さなければ。
焔は無言のままスマホを取り出す。
『まだ序盤だから弱いけど、仕方ないよなー。俺幹部だもん。わりと終盤まで生き延びてたしね。でものびしろあったなー。あの技が……フレイムファイヤーが生まれたんだなー。俺がフレイムを導けたんだな……俺がフレイムを育てた男』
……焔のスマホからどこかで聞いたことのある声がする。
それも、つい最近聞いたような内容の台詞。
あれ、これ、俺の声だよな?
「好きなやつに弱いと言われた俺の気持ちがわかるか? その日は夜も眠れなかった。のびしろがあるというお前の言葉を信じて毎日死ぬ気で修行したよ」
「……えっと、悪かった……?」
焔の言っていることが全く頭に入ってこない。が、向けられる視線と責めるような声に流されるままに謝ってしまう。
そもそも何故、甲斐の声が焔のスマホから聞こえてくるのだろうか。妙に饒舌で興奮しているから外で話しているとは考えがたい。そうなると自室しか考えられないのだが。
気がつくと目の前に焔の顔があった。近い。睫毛長いなこのイケメン。吐息がかかりそうな距離で見るイケメンは迫力があった。
こんな距離はイケメンじゃなければ許されないだろう。女の子相手にしたらセクハラすぎる。顔面偏差値が高くなければ非難される。
いや、だからといって男同士でする距離でもないのだが。
「ずっと好きだった。付き合ってくれ」
「――は?」
思考が追い付かない。
この男は何を言い出した?
フレイムにそんな展開はあっただろうか?
少なくとも子供向けのドラマの中でそんな描写はなかった。たしかに、物語終盤で黒川甲斐の正体に気づいた正岡焔が正義の心と友情に挟まれて思い悩むシーンはある。だがそれはあくまで友情である。同性愛などではなかったはずだ。それとも行間にそんなものが隠されていたのか? いや、ヒロインは隣のクラスの星野光だったはずだ。
「一目惚れだったんだ。一年前からずっと好きだった」
両肩に手を置かれて、更に距離が近くなる。
「俺と付き合ってくれ」
……冷静になろう。
何でこんな展開になっているのか、焔がどうしてこうなってしまったのか、さっぱりわからない。わからないが、少なくとも、黒川甲斐と正岡焔が付き合う話は「炎の戦士フレイム」の中には存在しない。歴史をなんとかして元のルートに戻さなければならない。
そのためには、まず、断らなければならない。
「無理だ」
「そうか……」
辛そうに歪む焔の表情を見ると、可哀想だったかなと思ってしまう。だがこれがお前の幸せのためなの。許せ、親友。
そう思ったのだが。
焔が何かを甲斐の前に出す。
高校生には似つかわしくない、赤いライターに似たそれには見覚えがあった。
「初期変身アイテムのフレイムライターじゃないかっ! 子供が本物のライターで遊びかねなくて危険だって問題になって、途中から変わっちゃったんだよな……次のフレイムエクスティングイッシャーもたしかにかっこいいんだけど、消火器モチーフだから、持ち歩くためにはどうしてもサイズがミニチュアみたいになって可愛くなってしまうんだよな。あと名前が長いし。そもそもフレイムなのに火を消すっていうモチーフでどうなるんだって思ったけど、その後の展開が上手くて……あっ」
思わず語りすぎてしまう。ネタバレだっただろうか?
それでも焔は興味無さそうに続ける。
「お前が俺を捨てるなら、俺もフレイムを捨てる」
「――はあ!?」
「傷心の俺は二度とフレイムに変身できないだろう。うっかり変身アイテムもなくしてしまうし、たとえ新しいアイテムができても絶対に受け取らない」
「正気か!? 世界が滅ぶぞ!?」
「黒川が俺を拒む世界なんていらない」
でも、
「黒川が俺と付き合ってくれるなら、フレイムを続けてやってもいいんだがな」
そう、ライター片手に笑った焔の表情は、甲斐よりよほど極悪人のようだった。
思わず呟く。どういうことだ。たしかに、正岡焔が黒川甲斐の正体に気づくこと自体はシナリオ通りだ。だが、あまりに早すぎる。
たちの悪い冗談なのだろうか。だとしたら真面目に返してはいけない。なんとか誤魔化さなければ。
焔は無言のままスマホを取り出す。
『まだ序盤だから弱いけど、仕方ないよなー。俺幹部だもん。わりと終盤まで生き延びてたしね。でものびしろあったなー。あの技が……フレイムファイヤーが生まれたんだなー。俺がフレイムを導けたんだな……俺がフレイムを育てた男』
……焔のスマホからどこかで聞いたことのある声がする。
それも、つい最近聞いたような内容の台詞。
あれ、これ、俺の声だよな?
「好きなやつに弱いと言われた俺の気持ちがわかるか? その日は夜も眠れなかった。のびしろがあるというお前の言葉を信じて毎日死ぬ気で修行したよ」
「……えっと、悪かった……?」
焔の言っていることが全く頭に入ってこない。が、向けられる視線と責めるような声に流されるままに謝ってしまう。
そもそも何故、甲斐の声が焔のスマホから聞こえてくるのだろうか。妙に饒舌で興奮しているから外で話しているとは考えがたい。そうなると自室しか考えられないのだが。
気がつくと目の前に焔の顔があった。近い。睫毛長いなこのイケメン。吐息がかかりそうな距離で見るイケメンは迫力があった。
こんな距離はイケメンじゃなければ許されないだろう。女の子相手にしたらセクハラすぎる。顔面偏差値が高くなければ非難される。
いや、だからといって男同士でする距離でもないのだが。
「ずっと好きだった。付き合ってくれ」
「――は?」
思考が追い付かない。
この男は何を言い出した?
フレイムにそんな展開はあっただろうか?
少なくとも子供向けのドラマの中でそんな描写はなかった。たしかに、物語終盤で黒川甲斐の正体に気づいた正岡焔が正義の心と友情に挟まれて思い悩むシーンはある。だがそれはあくまで友情である。同性愛などではなかったはずだ。それとも行間にそんなものが隠されていたのか? いや、ヒロインは隣のクラスの星野光だったはずだ。
「一目惚れだったんだ。一年前からずっと好きだった」
両肩に手を置かれて、更に距離が近くなる。
「俺と付き合ってくれ」
……冷静になろう。
何でこんな展開になっているのか、焔がどうしてこうなってしまったのか、さっぱりわからない。わからないが、少なくとも、黒川甲斐と正岡焔が付き合う話は「炎の戦士フレイム」の中には存在しない。歴史をなんとかして元のルートに戻さなければならない。
そのためには、まず、断らなければならない。
「無理だ」
「そうか……」
辛そうに歪む焔の表情を見ると、可哀想だったかなと思ってしまう。だがこれがお前の幸せのためなの。許せ、親友。
そう思ったのだが。
焔が何かを甲斐の前に出す。
高校生には似つかわしくない、赤いライターに似たそれには見覚えがあった。
「初期変身アイテムのフレイムライターじゃないかっ! 子供が本物のライターで遊びかねなくて危険だって問題になって、途中から変わっちゃったんだよな……次のフレイムエクスティングイッシャーもたしかにかっこいいんだけど、消火器モチーフだから、持ち歩くためにはどうしてもサイズがミニチュアみたいになって可愛くなってしまうんだよな。あと名前が長いし。そもそもフレイムなのに火を消すっていうモチーフでどうなるんだって思ったけど、その後の展開が上手くて……あっ」
思わず語りすぎてしまう。ネタバレだっただろうか?
それでも焔は興味無さそうに続ける。
「お前が俺を捨てるなら、俺もフレイムを捨てる」
「――はあ!?」
「傷心の俺は二度とフレイムに変身できないだろう。うっかり変身アイテムもなくしてしまうし、たとえ新しいアイテムができても絶対に受け取らない」
「正気か!? 世界が滅ぶぞ!?」
「黒川が俺を拒む世界なんていらない」
でも、
「黒川が俺と付き合ってくれるなら、フレイムを続けてやってもいいんだがな」
そう、ライター片手に笑った焔の表情は、甲斐よりよほど極悪人のようだった。
24
お気に入りに追加
2,710
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
憧れていたヒーローになったけど熱烈なファンに猛アタックされる俺の話
多崎リクト
BL
ずっと憧れていた正義の味方になった水の戦士ブルーこと室田青(むろた あお)だったが、憧れの先輩ヒーローが最近仕事してくれない。不満に思っていた青にある日熱烈なファンが現れて――
「ブルーさん、好きです!」
ブルーに会うためにトラブルの中心に飛び込む男・佐藤怜央(さとう れお)に、だんだんと惹かれていってしまって……。
怜央×青。
ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿中。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる