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22、「これで僕とブルーさんは『恋人』ですね」

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 目を開けると見知らぬ天井が目に入った。部屋の中心に一つしかないベッドに寝かされており、周囲には何も無い。
 ここは、怜央の部屋だ。

 理解すると同時に、意識を手放す前にあったことを思い出す。鶴見の薬を飲んで、熱くなって……それで、何だかとんでもないことをしてしまったような。

 ドロドロになった服やシーツは替えられており、青はパジャマを着せられていた。サイズがピッタリではあるが、これはいつ用意したものなのだろうか。
 腹をそっとさすってみたが、たぶん体内も綺麗にされている。奥まで注ぎ込まれたあれだとかも。

「あ、起きちゃいました?」

 声と共に部屋の主が入ってくる。

「お腹空いてませんか。トーストくらいしか用意できませんけど」

 どのくらい寝ていたのかわからなかったが、言われてみれば空腹だった。頷くと少ししてホットミルクとトーストが運ばれてくる。一応食料は存在したらしい。

 眠る前の行為の気恥しさから怜央の方を見れない。サクサクに焼けたトーストに齧りつき、明後日の方角に目を向ける。怜央はそれを気にした様子もなく、にこにこと青を眺めていた。

「これで僕とブルーさんは『恋人』ですね」
「むぐっ」

 口いっぱいに入っていたパンが詰まりそうになり、慌ててホットミルクを口に含む。
 何かおかしな単語が聞こえたような気がする。

「気持ちを確かめて、体を繋げて、立派な恋人ですよね。正義のヒーローが体だけなんて爛れた関係をするはずもないですし」
「……あ、ああ」
「これからよろしくお願いしますね、ブルーさん」

 にこにこと上機嫌な怜央に、とても薬のせいでうっかり体を繋げたなんて言えるはずもない。




 付き合っている余裕なのか、体を繋げたことに満足したのか、怜央は特に青のことを聞いてこなかった。連絡先も聞かれなかったし、本名にも触れられない。本当に青のことが好きなのか疑問に思うが、まあこれ幸いと怜央のマンションを後にした。
 まだ腰が重いがいつまでもあそこにいたらどんな展開になるかわからない。それに、一刻も早く鶴見に文句を言いたかった。

「あ、僕の作戦上手くいった?」
「いや! 逆効果だから! 何なんですかあの薬!」
「媚薬」
「……は?」
「だから、媚薬。それも中出しされるまで効果が続くやつ」

 当然のように言われ固まる。あ、だからあの時急に熱が消えたのか……じゃなくて。

「本当に嫌がってる感じじゃなかったからお膳立てしてあげたんだよね。僕って恋のキューピッドかも。いいことしたな~」
「全然良くないです!」
「でもその感じだとファンの子とえっちしたんでしょ? 僕の媚薬だから慣らさなくても気持ちよかっただろうし、何が不満?」
「え、……いや、だって…………」
「本心から好きって言われて気持ちよくして貰えて満更でも無かったんじゃないかな。ってことで問題は解決! 一週間くらいはオフにしといてあげるからいっぱいイチャイチャしていいけど、来週からはまた働いてね。じゃあこれからお客さんが来るから」

 そうして鶴見の部屋からつまみ出される。
 ……満更でもない?
 そんなことがあるだろうか。たしかに、怜央から向けられる好意が心地よかったけど。

 だいたい、相手は青の本名を知らなくても満足しているような男だ。いくら鶴見の薬があったからといってあの発言がどこまで本気なのか怪しいものだ。

 このまま、オフの間に会うこともないのだろう。そう思うとどこか腹立たしい。

 そういえば鶴見の言っていたお客さんとは何だろう。お世辞にも友人のいなさそうな男だ。友人でないなら、もしかしたら、フレイムではないだろうか。
 ちょうどエレベーターが開き、中から黒髪の男が降りてくる。メガネにスーツで、眉間には深い皺が刻まれている。

 ……あれは、ヒーローでは無い気がする。

 思わずじっと見ていると男は迷わず鶴見の部屋のドアへ向かい、チャイムを鳴らした。

 ヒーローでは無い、鶴見のお客さん……。
 友人だろうか。鶴見とはあまり合いそうにない。腐れ縁とか被害者とか。そういった関係だろうか。

 鶴見が部屋から出てくる前に、青はエレベーターに乗り込んだので気づかなかった。青が今まで見た事ないような表情で鶴見が飛び出してくることを。
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