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⑮戦略的撤退

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 射精したような感覚があったが、実際には床を汚すこともなく、ただただ体に力が入らずぐったりとしていた。まさか茶トラの正体が青で、そんなことになっていたなんて夢にも思ってないだろう怜央は、「よし、首輪とか買ってくるよ」と外に行ってしまった。

 ……一刻も早く逃げよう。

 幸いまだ猫の姿のままだ。少しスッキリしたことだし、またムラムラしてくる前にここから出ないと。逃げそこなって監禁されて、怜央の目の前で人間に戻るなんてことが起きたら大事故だ。

「……にゃう」

 気合を入れて立ち上がる。と言っても猫なので四本足で。腰が抜けてしまっていた先ほどまでとは違い、ちゃんと歩けそうだ。
 結局怜央の住処以上の情報は得られなかったけど、まあ、今日のところはこの辺で。
 鶴見博士の作戦はまだ残っている。怪しげな薬もあと二種類。
 なので、今回は、戦略的撤退ってやつだ。




 ※※※


 マンションの敷地から外に出て、公園の茂みで隠していた解毒剤を飲み込む。すぐに元通り、人間の姿へ戻る。

「……良かった」

 失敗して猫耳が戻らなかったらどうしようとか、このままずっと猫だったらどうしようと思わなかった訳では無いのでそっと胸を撫で下ろす。下着が汚れてなかったことも確認して一安心。
 そういえば服を着たままで猫になっていた気がするが、服は猫の毛に化けていたということだろうか。謎だ。そもそも鶴見は何のためにこんな薬を作ったのだろうか。ヒーロー活動にきっと必要な物なのだろうけど。

「ブルー? おかしいな、どこ行っちゃったんだろう」

 怜央の声がして、慌てて茂みに身を隠す。ブルーと呼びかけ探しているのはおそらく青が化けていた茶トラのことだろう。もう首輪を買ってきたらしい。解毒剤が間に合ってよかった。

「ブルー? マタタビもあるよー」

 必死で呼びかける様子に少し可哀想な気もしてきたが、だからといって怜央に飼われてやるつもりもない。もし飼われて正体がバレたらどうなるかわからない。あの部屋のブロマイドやフィギュアのようにコレクションに加えられてしまうかもしれない。

「あ、ブルーさん! 」
「…………ああ」

 隠れていたはずがあっさり見つかってしまう。今お前が探していたのは茶トラのはずだが。

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