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⑫普段よりずっと低い視線

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「にゃ、にゃにゃ」
(まさか本当に猫になれるなんて……)

 普段よりずっと低い視線。四つん這いで歩くことへの抵抗はあるが、構造上二本足でスタスタと歩けないし、そんな猫がいたら怖い。
 一匹の茶トラは時折通行人に頭を撫でられながら、喉を擽られながら、あるマンションに侵入していた。

 鶴見の発明品の一つは猫になる薬という不思議なものだった。普通なら信じられないが、あの鶴見だ。フレイムを変身させたのも、ブルーに力を与えたのも、鶴見だった。そんな鶴見の発明ならもしかしたらと思ってしまった。だが、こうして実際に自分の姿かたちが変わるまでは半信半疑ではあった。
 薬とは別に渡された発明品で鍵をあけ、見知らぬ部屋に入る。正義の味方がこんな犯罪に手を染めて大丈夫なのだろうか。それに正義側の博士がこんなものを作ってるってどうなんだろう。

「にゃう……」
(まあ、やるしかないか)

 青が猫になってまで不法侵入しているのは、分厚い小包に書かれていた住所だ。佐藤怜央の住処、と書かれていた。
 もちろんそれが真っ赤な嘘といことも有り得るのだけど、青には他に情報が無かった。あのおぞましい手紙以上に佐藤怜央のことはわからない。

 わざわざ敵地に乗り込んですることは、一つ。

 佐藤怜央の情報を掴むことだ。


 怜央のことで知っていることは見た目と名前と、青を好きだということくらい。その好きさえもどこまでが本心なのかはわからない。からかっているだけという線もまだ捨て切れない。
 追われる側だから余裕をなくし相手のペースに飲まれてしまう。だったらこちらからも相手を知る必要がある。そう言ったのは鶴見だったが、まあ、悪くない考えだと思った。

 広い玄関、物のない廊下。台所もあまり物がなく、生活感が無い。
 部屋は二部屋あるようで、最初に開けたドアの先には寝室らしきものがあった。フローリング端にベッドがあり、あとは何も無い。この部屋では寝るだけなのか。本当に人が生活しているのか心配になる。

 もう一部屋には何があるのだろう。

 フローリングをペタペタと肉球で踏みつけながら歩く。足跡が残っていたらまずいのではないかと今更ながら思った。

「にゃ……にゃにゃ?」
(なんだ、これ)

 その部屋は、空っぽな寝室とは何もかもが違っていた。
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