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⑤大袈裟に怖がりすぎた気がした
しおりを挟む友人の灰田湊に相談した青だったが、それ以来誰にも謎の一般人の話をすることも無く、数日が過ぎた。そもそも出動する機会が無かったということもあるが、あの男には会っていない。きっとあの日だけの出来事で今後迫られることも無いはずだ。
時間が経てば経つほど、大袈裟に怖がりすぎた気がしてくる。だって、相手はただの一般人だ。普通に考えたら悪の組織より怖いなんてことあるはずが無い。
「……ふう」
久しぶりに出てきた敵を倒し、一呼吸。今回も雑魚と呼ばれる戦闘員だけではあったがいつ幹部やアッシュが出てくるかわからない中での戦闘は気を張る。
一応これでエタニティの戦闘員はいなくなったようだ。巻き込まれた人達は最初に避難させたし、変身を解く。
敵が現れた時にはあの男がいたらどうしようと正義の味方らしからぬ躊躇いを持ってしまった。だが現場に男はおらず、戦いの最中に顔を出すこともなかった。
からかわれただけだったのかもしれない。こういうことに慣れていないから反応しすぎてしまったけれど、本当はもっと落ち着いて流すべきだった。次にこういうことがあったら「俺は誰か一人のヒーローになるつもりはない」と断ろう。今のはカッコよかった気がする。
ひと暴れしたせいで腹の虫がうるさく鳴き始める。帰る前に近くで何か食べていこう。ラーメンとか。
そんなことを考えながら歩き出したところで、背後から呼び止められた。
「ブルーさん!」
聞き覚えのある声だ。だが、まさか。自分は今変身を解いた状態で、呼びかけられるはずが無いのだ。空耳だろう。
なるべく反応しないようにして歩き続けるが、背後の男は再び青に向かって「ブルーさん」と声をかける。
振り返りたくなかったがいつまでもその名で呼ばれても困る。ようやくゆっくりと立ち止まり、振り向くと、やはりそこにはあの男がいた。
「やっと会えた……! ずっとブルーさんの出動を待ってたんです! 近くでエタニティが暴れてるって聞いて慌てて駆けつけたんですけど、遅くなってしまって、戦闘シーンを見れませんでした」
「……そ、そうか」
ぐいぐいと距離を詰めてきて一気に話しかけられ、その熱量に流されそうになる。思わず「それは残念だったな」と言いかけて、やめた。
「どうして離れていってしまうんですか?」
「いや……お前が近すぎるんだよ」
それに近づいたらまたあんなことになりかねない。そんなことを言えば意識して貰えたと喜びそうなので口にはしないが。
「また会えて嬉しいです。これって運命だと思いませんか」
「お前が追いかけてきただけだろ」
「はい、好きなので追いかけてきました」
どうしよう、言葉が通じている気がしない。
気がつけばまた壁際まで追い詰められている。もう逃げられないかもしれないと思うと、やっぱり目の前の男が怖いと思ってしまう。
「は、離れろ」
「可愛い、キスしたいです」
「やめろっ」
迫ってくるのを頑張って押し返し続けると、しばらくして男は諦めたのか、顔を近づけるのをやめた。
「――佐藤怜央」
「へ?」
「僕の名前、レオって呼んでくれたら今日はキスは諦めます」
にっこりと微笑みながらそう言われるとわからなくなるが、これは脅しだ。名前で呼ばなければ無理やりキスする、という脅迫。そう思うと笑顔にも謎の迫力がある。
「…………れ、レオ」
「はい」
もごもごと呟いただけなのに怜央は嬉しそうにはいと言う。ちぎれんばかりに尻尾を振る大型犬のように見えた。
何だか可愛い生き物のように思えてきて、これだったらもっと呼んでやってもいいかもしれない。大型犬はたしかに怖いけれど、懐かれて悪い気はしない。青はどちらかといえば犬派だった。
「今日はこれだけで我慢しますね」
にっこりと目の眩む笑顔を向けられ、次の瞬間、頬にやたら柔らかいものが触れた。
――ちゅっ
可愛いらしい音を立てて、怜央の唇が青の頬に触れ、離れていく。何が起きたのかわからず立ちすくんでる間に、怜央は去っていった。
怜央がいなくなってから、また変身して逃げればよかったのだとようやく気がついた。
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