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三部 賭け

1-②かくれんぼ

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 ……賭けになんて乗るんじゃなかった。

 慌てて近くの教室に逃げ込んで隠れていたら、三分経って追いかけてきた海斗にあっさり見つかった。それでもう涼太の負けかと思ったが鬼ごっこはまだ続いていた。
 必死で逃げるこちらとは違い、海斗の方は明らかに楽しんでいる。もう捕まると思っても、絶妙なところでスピードを落としてくるのだ。

 そうやってじわじわと追い詰めてくるのが何よりも恐ろしい。
 どう考えたって海斗の方が足も早いし、持久力もあるのに。一気に捕まえてしまえばいいのに、それをしてこない。
 だったら逃げ切ってやろうとも思うのだが、いいかげん涼太の体力も限界だった。


 ……こんな調子で、海斗から逃げ切ることなんてできるんだろうか。



 心臓がバクバクと音を立てて、酸素が足りなくて、とにかく苦しい。

 どんなに走っても走っても、適度な距離をとって追いかけてくる。
 酸欠で回らない頭で必死で考える。最後の力を振り絞ってスピードを上げて、空き教室に逃げ込み、もう一つのドアも開けておいた。
 そして自分は掃除用具の入ったロッカーの中に隠れる。

 ……これで、涼太が教室から出ていったと思って追いかけてもらえれば、逃げられるかもしれない。

 ドクドクとうるさい心臓に手を当てて、少しでも早くおさまるように、外には気づかれないように、祈る。

「……涼太?いないのかなー」

 やがて教室に入ってきたらしい海斗の緊張感のない声が聞こえてくる。
 ロッカーの中は暗く狭く、埃っぽい。そんな中で呼吸を整えるのはなかなか難しい。埃を吸って咳き込まないように慎重に酸素を取り込む。

「もう出ていっちゃったのかな?」

 そうだ、いいぞ。俺はここにはもう居ない。だから早く追いかけるべきだ。
 恐怖に耐えきれずロッカーから飛び出しそうになる自分を抑えて、海斗へ念を送る。

 パタパタと教室を出ていく足音が聞こえてきて、ああ良かった、しばらくしたら逃げようと安堵する。


 ――ギイッ


 扉を開けるとやはり外は眩しくて、目を細める。外の光に目が慣れるまではまだここにいた方がいいかもしれない。
 少しして、目が慣れてきて、自分の前にある大きな影に気づく。あれ、なんだろうこれ。こんなもの教室に入った時はなかったのに。


「みーつけた」


 影が喋る。

 反射的にロッカーから飛び出そうとした涼太は、けれど再びロッカーの中に押し込められた。

 ――今度は海斗と一緒に。



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