リセットしてもヤンデレに犯される俺の話

一部 同じ日のループ

2-①呼び出しを無視しました

　池田涼太は靴箱を開けているところだった。上履きの上に手紙が乗っている。
　この光景は前にも見たことがある。中身を開けなくても、差出人不明の手紙が誰から送られたものなのかわかる。
　リセットに成功したのだ。

　鞄の中に入っているリセットボタンを確かめる。特に変わった様子はない。

「…………よかった」

　自分に言い聞かせるように呟いた。良かった。あの恐ろしい出来事が、無かったことになった。
　無かったことになったはずなのに、思い出しただけで尻の穴が痛いように思えた。

　涼太は手紙を靴箱に残し、上履きだけを取り出した。

　手紙は読まない。
　校舎裏には行かない。
　三浦に会わない。

　放課後までそれを徹底して過ごそう。きっと、今日を無事に終えることができればあんなことにはならないはずだ。



　それなのに、



「なんで手紙読んでくれないの？」
「……て、手紙なんてあったっけ？」

　なんで避けていたはずの相手に男子トイレの個室で壁ドンされてるんでしょうか。

　しかも三浦の顔は今まで見たことないくらい怖い。般若のお面とかかぶってますか？ってくらい怖い。
　爽やかなイケメンだったはずなのに。いつも笑顔が素敵って女子にちやほやされていたはずなのに。

「涼太は今朝、手紙をよけて上履きを出したよね。中身も見なかった。何でかな」

　どうやら見られていたらしい。そして靴箱に残した手紙は今、三浦に回収されている。見覚えがある手紙をひらひらとされながら、淡々と質問される。

「――まあいいや、こうやって捕まえられたし」
「そ、そうですか……」

　トイレなんて二人で入ったら狭いに決まっているので、三浦の顔がすぐそこにある。三浦を前にするとリセット前にあった出来事を嫌でも思い出してしまって、震えが止まらない。

「それでね、手紙で呼び出した理由なんだけど。俺は涼太が好きで、付き合ってほしいんだ」
「……ど、どこへ？」

　なんとか誤魔化そうと頑張ると、三浦の表情が少し変わる。もう般若の顔ではなくて、くすっと微笑んでいるのに、どうしてかさっきよりもずっと怖い。

「涼太は冗談が上手だね……それとも誘ってるの？」
「ひいいっ」

　ただでさえ近くにあった三浦の顔が更にぐぐっと近づく。
　反射的に目を閉じると、唇に柔らか感触。今回の俺のファーストキスはトイレで失われたのだった。