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 僕と彼女が結ばれる事は無い。と、物語る物語。遠くから眺めた事しかなかった御屋形様の僕を見下す目が、物語る物語。

 その中で再会した彼女は、御屋形様の監視下で身内からの愛情を与えられる事も無く、相も変わらずとっても淋しがり屋な娘だった。
時を経て成長した筈の彼女は、良い意味でも悪い意味でも身分の上下を意識する御屋形様の気質を違った意味で引き継ぎ、幼少期での経験から、彼女を簡単に拒絶できない格下のモノ・・・・・からの何かしら・・・・を求める傾向を有していた。

 それだから、相変わらず自分で世話もできやしないのに、彼女は抱き締める為だけに躊躇無く犬猫を拾う。昔、庭師から何度も駄目だと言われ続けていたのに、彼女は自分の両手で包む為に巣から落ちた雛を拾って連れ帰って来る。時に野生動物。時には人間をも拾おうとする。令嬢としては特大級に問題を抱えた御嬢様のまんまに育ってしまっていた。

 僕の方は…、僕の母親に寄って…最大級に美化され有能化された元夫の姿を求めて…僕を教育した母親の御蔭の恩恵もあって…の短期間……。僕は家令の爺さんに寄って、何処に出しても恥ずかしくない従僕に育て上げて貰えた。が、ある意味で凄く残念な御話と成っている。
その能力が必要なのは、年月を経て襤褸ボロになった御屋敷に住む御屋形様の前だけで、普段の生活には必要が存在していなかった。寧ろ、彼女が嫌がる為に邪魔にすら成るスキルと成っている。昔とは状況が変わった。と、言う事なのだろう。

 そんな勤務初日の御話。

 子供の頃と変わらない感じで駆け寄って来て、僕の名を呼び僕を抱き締める彼女の様子から、下町でも囁かれる噂程には、彼女が酷い性格に成長していた訳では無く、彼女が相変わらずの御様子である事を僕は体験して安心した。
今の彼女が昔と変わった事と言えば…、年齢通りに肉体が成長して…血筋通りの綺麗な御顔立ちを実装…見た目が御嬢様風に成っていた事と…、彼女にも、幾つか出来る事が増えた…と言った所だろう……。

 但し、周囲の者の御手伝いを少しは出来るように成っていても、自分の世話が不十分。更に言えば、上手に世話も出来ないのに生き物を頻繁に拾ってくる癖が、何故か昔のままで、周囲が困る程に、そのまんまだ。
昔からあった思い出深い古い温室の中身が、彼女に拾われた動物達の閉じ込められた空間と成り果て荒れ放題。手作り感漂う不格好な飼育小屋を内部に複数抱えた変な空間に成ってしまっている。

 もう、ココには、厳しい事を言う心優しい庭師は居ない。温室は、僕が使う権利を得る事は可能だろう。自分の母親の薬に必要な素材・・の栽培の序に見た目の手入れして行こうと思う。
そもそも、閉じ込められた動物達が可哀想でもある。ペットに出来そうな個体は躾けて里親に譲り、野生で生きて行けそうなヤツは野生に帰る訓練をしてから逃がしてやろうとも思った。

 ここで余談…、色々と、今現在の御屋敷を見て…、この御屋敷の財政状況が心配に成り、自分の母親の身柄を預けて大丈夫だったのかが少し心配に成る……。家令の爺さんの事は信じているが、将来が心配の種と成った。取り敢えず、余分に素材を育てて金銭を稼いでおこう。

 そう、彼女の御家おいえは、下町にも広がった噂の通りに没落し、僕の知らない内に彼女も使用人に交じって仕事を手伝う事を許される環境と成っていた。
昔と違って今では、彼女の方も備品を頻繁に壊したり、自身が怪我をしたりさせたりする事も少なくなっているらしい。と、言うか、家令の爺さんが、彼女が出来ない事には手を出させない方針を打ち出し、使用人達が一致団結している節が見え隠れ、必然的に僕は、従僕として仕事を始めた初日から、彼女と彼女が拾って来たモノ達の世話係に任命され、初日、数時間以内に困惑し、色々と悲しいかな実感させられる事と成った。


 これは、今まで他の使用人達が黙って世話して来たモノ達。彼女が拾って来た動物達の事は兎も角として、の、御話。

 そう、再会の挨拶(?)の後、彼女が僕に御茶を入れてくれると言い出した時、爺さんが生暖かい笑みを浮かべながら「これも一つの経験です」と意味の分からない事を言ったのだ。この時に、僕には思い出すべき出来事があったのだが、この時は完全に忘れてしまっていた。

 キャニスターからティーメジャーですくった茶葉をティーポットに入れる彼女の手が少し震えている。湯の温度を測り、ティーポットに御湯を注ぐ手も震えていた。真面目そうに時間を図る姿も真剣そのもの、ティーカップに紅茶を注ぐ手も震えていた事。その時のそこからの僕の推察・・

 彼女の御茶を入れる手付きや雰囲気から、僕は最初、爺さんからの「これも一つの経験です」と言う言葉の意味を「彼女が、どれ程に危なっかしいイキモノなのかを知っていた方が良い]と言う意味なのか?と勘違いしてしまっていたのだが、それ、少しばかりのニュアンス間違い。

 彼女から「昔より、少しは上達したと思うの!」と嬉しそうに手渡された紅茶の見た目が大丈夫そうだったから、僕は昔の事を忘れてしまっていた事も有り、完全に油断してしまっていた。
そう、まさかのまさか、彼女が注いだ御茶の味が、幼少期のとある出来事・・・・・・を走馬灯の様に思い出させる程にヤバ代物だったとは思いもしなかったのだ。

 僕が彼女に促されて口にしてしまったのは…、香りも風味もクソも無い、紅茶と偽装された謎の液体…、又は、紅茶から生成された謎の物質……。彼女には、俗に言う錬金術師の才能があるのかもしれない。

 何せ、彼女の入れた紅茶の味は、紅茶の渋味を最大限に引き出したかの様な渋味で舌が痺れるレベル。
僕的に爺さんに教わった最低限のマナーを放棄する訳には行かず。取り敢えずハンカチに吐き出した。のだが、後にも強く残る謎のエグ味が嘔吐感を引き続き引き出された。毒かな?いや、これって普通に毒だろ?

 この後、僕に発症した症状を例えるなら…、未成年な為に酒を呑んだ事は無く、成った事も無いので正しいかは不明だが…、泥酔状態?や、二日酔い?みたいな感じ?ではないかと思う……。暫くは、意識朦朧。呂律もうまく回らず。普通に話す事、歩く事も行動する事も出来なく成ってしまっていた。
(後日、茶葉に問題がある可能性も視野に入れ、同じ分量と温度で再現してみたが、僕には同じモノを生成する事は出来ませんでした。とても良い茶葉で、普通に美味しい紅茶が出来上がってしまいました。)

 そう言えば、僕の母親が、まだ彼女の乳母だった時代。
庭で一緒に摘んだ甘過ぎる葡萄を使って、それぞれでジュースを絞った時…、何故か彼女のだけ、失敗したんだったっけ……。完熟した実しか使っていない筈なのに、何度作り直しても、彼女の作った物だけ渋くて青臭くて、後味に苦味が出てて泥臭い謎の汁って感じに成るんだったよな。
当時、クッキーや他の御菓子とかも作ったりもしたが以下略。その当時から彼女は既に、作業に加わっただけで味を破壊する強者ツワモノだったのではないだろうか?(意味や味は御想像に御任せします。)

 彼女は紅茶の味に苦しむ僕の様子を見て「あれ?おっかしいなぁ~」と言いながら、自分用に入れた御茶を少し味見し、その不味さにゲホッとせ、紅茶を吹き出し、眉間に皺を寄せて「何でだろう?どうしてこんな味に成っちゃうんだろうね?」と苦笑いしながら可愛い仕草で首を傾げていた。良かった。彼女の味覚は普通っぽい。
僕は少し安心し[彼女を調理場には絶対に近付けない][飲食物の作成には係わらせない]と言う決意を固めた。家令の爺さんが僕の心を読んだのか?の様に、首を縦に二度振り「これで理解しましたね?」とでも言わんばかりに僕に微笑み掛けてくれた。何だか少し腹立たしいのは、気の所為だろうか?
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