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No03 次期君主は山猫を飼い慣らしたい

011 ちゃんとした再会

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 子供の頃…、勝手に天葬の山へ向かおうとし、罰として倉に閉じ込められた後、健康診断の為に何度か連れて来られた事のある薬臭い医局のベットの上で意識を取り戻したジエンは…、口の中に広がる甘酸っぱさと…、生まれ育った後宮では、今まで嗅いだ事の無い…、しかし、懐かしい匂いに気付き…、目を開け驚いた……。
婕妤でも[シャンマオの兄シーツー]でもない同じ種類の顔をした存在が、ジエンの上半身を膝と腕で抱き抱える様にして、薬匙を右手に持って、ジエンの顔をジッと見詰めている。

 思いもしなかった出来事にジエンの心臓は一度大きく震えた。
「シャンマオ?」とジエンが声を掛けると…、相手は薬匙を後ろの可動式のサイドテーブルに置きながら、少し怪訝そうな顔で「ん?」と声を出し…、「口、拭きますね」と言いながらジエンの口の端を布巾で拭いて少し考え込んだ様子を見せ、[まぁ~、いっかw]と言わんばかりに…、「ジルイさ~ん、領主の御子息様、目を覚まされたよ~」と言って、体をずらし…「少し、失礼します」と、ジエンの上半身を抱えた腕を交換して、丁寧にジエンの上半身の下から膝を引き抜き、何処かへ行こうとしている雰囲気が感じ取れる……。
ジエンは、シャンマオが自分の名を呼ばなかった事に[何故、如何して]と言う種類の怒りを感じ、それよりも(このままだと、シャンマオがまた、行方知れずになってしまうかもしれない!)と思い。右手を強引に相手の腰の左側から巻き込む様に抱き込み…、左手は逆側から攻めて、完全に腰を捕まえてから、右手の方を放し…、その腕を着いた場所を軸に、相手をベットの中央に引っ張り込んだ…、そして次に、右手で相手の左肩を押さえ込み、抵抗を抑えてから…背中へ手を回して逃げられない様に抱き締めたのだった……。

 ジエンの体に下に引きずり込まれたシャンマオはの方は小さく悲鳴を上げ、一瞬の出来事に唖然とし、現状に硬直する。その一部始終を必然的に目の当たりにした後宮の医局長ジルイは苦笑いしながら見守っていた。そして、ジエンの安らかな寝息が微かに聞こえて来る頃、ジルイはニヤニヤ笑い「弱ってる男を元気にする時、強壮と催淫は近い位置に存在するから気を付けた方が良いぞw」と言った。
「は?!何それ?どう言う事?」
「最近の若者は知らないだろうけど、戦場での常識さw弱ってる奴に滋養強壮に良い薬を与えたら、自分より弱い立場の者を男だろうと気にせずに食っちまうモノなんだよ♪」
「えぇ~っと…、今のコレって、そう言うネタの延長線上にある感じ?」
「さてどうだろう?領主の御子息のジエン坊ちゃんは寝てるみたいだから、安心できるモノが欲しかっただけかな?」
「…、そして、今の話は、言ってみたくなっただけって事だな……。」
「否定はしないw蘊蓄うんちく話せる時って少ないからね♪でも、シャンマオは、自分の知らない事を知る事が好きだろ?戦場ネタ、今度話してあげるから、今日はこのままジエン坊ちゃんに添い寝しててやってくれないか?」
「今日は、都合悪いんだけど…っつか、理由は知ってんだろ?今回は勘弁してくれないか?」
「知ってる。けど、頼むよw生理痛の薬調合しとくし、その位置の血の汚れはココなら日常茶飯事だwその為の宦官用の着替えも常備してあるし、幾らでも誤魔化せるから安心して良いよ♪」
「うぅ~わ、微妙に嬉しくない安心感だなw」
「そもそも、その状態から抜け出すのは無理だと思うよw」
こうして、ジエンと朝を迎える事になったシャンマオは、この時に意地でも、ジエンの腕の中から抜け出さなかった事を後悔するのである。

 就寝中に身動ぎする度、息が詰まる程に抱き締められたシャンマオは悪態を吐く事を繰り返し、朝方には、眠ると言うより、気絶に近く、意識を手放していた。
その事により、何時も通りの時間、シャンマオより先に目覚めたジエンは…、自分の下で意識無く少し苦しげな表情で眠るシャンマオを発見して(何処にも行かないでくれたんだ)と喜び…、[苦しそうだから]と、キッチリと締まった高い襟の服のボタンを胸元まで外して寛げ…、ドコカラトモナク微かに漂う血の臭いを気にし、(包帯?怪我でもしているのか?)と、目に入ったさらしの存在を気にして、[怪我してて、傷が開いたりとかしていたら大変]っと、シャンマオの上着を半ば脱がし…、強く縛られた晒の下からでも隆起する胸に動揺しつつ、興味津々、ドキドキしながら晒を勝手に緩めて声を上げる……。
「女だ!」
「っ?!…ジエン坊ちゃん?寝てる相手、襲っちゃ駄目ですよw」
そろそろ、起こそうか?と、様子を見に来て、その現場を目撃してしまったジルイは、少し困った様子で声を上げ「取り敢えず、シャンマオの上から降りて、胸元を隠す様に毛布掛けてから、こっちに移動して来ませんか?」と言った。
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