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 これは、エリニュエス・ヒュドールが前世の記憶を思い出す5歳よりも、もっと前、ヒュドール家の家令ハウス・スチュワードが[セヴァスモス・ヒーメロス]では無かった頃の御話。

 雷属性の者が国民を統一する国[ブロンテー]では、主要貴族に子が生まれたら申請を出し、その翌年の社交界シーズン中に一度は、昼に行われる行事に参加して国王様に生まれた子を紹介すると言う行事が存在していた。
エリニュエスも例外無く1歳の頃、前の国王陛下と謁見する機会があったと言う。

 この頃のエリニュエスは、兄のエフティヒアの事も大好きで、でも一番の御気に入りは前国王陛下の側近中の側近だった頃の[セヴァスモス・ヒーメロス]。
この時、すでに白髪で白い御髭の老紳士だったらしい彼を何かの拍子に「ちゃん」と呼ぶ様に成り、何時いつしか引き離されると「ちゃん!ちゃん!!」と泣いたとか言ううわさが存在する程に、エリニュエスのセヴァスモス好きは当時、王宮内にて大変有名な事だったらしい。

 何故なぜに、その様な噂が立つ程に、前国王陛下の側近中の側近と接点があったのか?と言うと、ヒュドール侯爵家は水の魔法使いの家系。両親共に腕の良い水魔法の使い手で、特に母親は氷魔法にも精通していた事から、結婚してからも暫く、夏場の王宮の涼を一手に引き受け、セヴァスモスの指示で氷を提供して回るアルバイトをしていたからなのだそうだ。

 それは現在の国王が即位するまで、その名残で夏場、頻繁に子連れで王妃の住む後宮にバイトへ行っていた事に繋がる。
前国王陛下の側近中の側近は、元々王妃が婚姻する前に従えていた幼馴染み兼世話係の一人で、前国王とも幼馴染み、夫婦関係良好で仲の良い二人の間をセヴァスモスが頻繁に往復していた事から、余計にそう成ったと言えるだろう。

 そして、エリニュエスとエフティヒアを連れて、母親が最後に王妃の居る王宮へとアルバイトに行ったのは、現在の国王が即位する直前のとある夏の日。
「ちゃん」から「せばちゃん」、色々悩んだ様子で「せばっちゃん」を経て、当時3歳のエリニュエスは、セヴァスモスの事を自分が「エリーちゃん」と呼ばれるからか?「せばっしゃん」と呼んで、ぽてぽて必死で追い掛け、よちよち付いて回っていたと当時の王宮職員達は周囲に笑いながら語っていたそうだ。

 その様な楽し気な日々が続いていた日の最終日。エリニュエスの髪と目が、一時的に銀色に変化し、後宮の森を雪と氷で閉ざしてしまった日に何かがあったらしい。理由や詳細は不明。
エリニュエスの髪と目が銀色から元の黒髪黒目に戻ったのは翌朝。その時にはエリニュエスに、その間の記憶は欠片も残っていなかった御様子だ。それに関係ありそうな御話。現在の国王が即位前に、何かしらの事件をもみ消したとか等の噂があり信憑性は、それ成りに高くあったが証拠が無く、話が聞けず。
丁度その頃、セヴァスモス・ヒーメロスは、現在の国王との折り合いが合わない事を理由に王宮を強制解雇。

 事件後、エリニュエスの事をとても心配する家族・親戚は、エリニュエスの「せばっしゃんとこ、あしょびいくのぉ~!」と言う我が儘を発端に、解雇後のセヴァスモスを捜し出して「エリニュエスの為に暫く、我が家に遊びに来てはくれまいか?」と頼みに行った。のだが…それを足掛かりにされ「給料は余り出せませんよ」と言われつつもセヴァスモスは、ヒュドール家へと押し掛け就職する事に成ったとか…噂は色々……。

 その頃のヒュドール侯爵家は、高位な爵位と広大な領地はあれど貧乏貴族だったのだが、セヴァスモスが当時、ヒュドール侯爵家に存在しなかった家令ハウス・スチュワードに勝手に就任して以降、エリニュエスに本の読み聞かせをしながら領地を経済的に急成長させ、読んで貰った内容を覚えてしまい常に新しい物を求めるエリニュエスへの本の読み聞かせをする為に、半年後には王宮レベルの図書室を所有する大豪邸に住める程の財を成していたと言う事実は、この異世界であっても、ある意味で凄い御話であろう。

 原作である筈のゲームの設定では…、ヒュドール家の財を成したのは嫁の氷魔法…、詰まりは、貴族でありながら王室御用達の氷屋さんと言う財源で見栄を張る家柄だった筈なのに…、何が如何して、こう成ったのか?理由…、若しくは、一番最初の要因は…、既にその時にはエリニュエスが異世界転生した個体で、前世で持ってた謎の固定観念[執事=セバスチャン]と言うイメージから、セヴァスと呼ばれていたセヴァスモスの名前を[セバスチャン]と勘違い…、秘書官と言う仕事柄も執事っぽい感じだった事から子供らしいテンションで「セバスチャン?マジでセバスチャンやの?」的な感じで大ウケ…、そのブームが会話が成立せずに長続きしてしまった結果…、エリニュエスのユニークスキル[脳内学習記録辞典]の特殊効果に寄る[学習能力]にセヴァスモスが気付いて、学ばせる事が楽しくなり…、セヴァスモスがエリニュエスの学習環境整えました…と言うのが真相だったりするのだが…今と成っては如何でも良い事だろう……。

 これは、自分の幼少期の思い出話を周囲から語られたエリニュエスが「せばっしゃん?それって…」と色々考えて連想し、「当時、まだ記憶あらへん筈やのに」と、ちょっぴり頬を染め、口をつぐむに至ると言う小ネタに成る程度の御話だ。
そして、セヴァスモスには「エリス御嬢様に苦労させられた事等、殆どございません…、あるとしたら幼少期に、私の名前に何故か[ちゃん]やら[さん]と言う敬称を…舌っ足らずに[せばっちゃん]とか[せばっしゃん]と言う風に混ぜて覚えられてしまいまして…、それを取って頂く事に時間が掛かった事くらいでしょうか?」と楽し気に周囲に話され、エリニュエスは「師匠…、もう、私のちっちゃい頃のネタで楽しむのは勘弁して遣って下さいよぉ~」と色々な意味で恥ずかしがると言うのが、事ある事にあって、ある意味で師匠と弟子の鉄板ネタと成ったと言う御話なのであった。
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