嘘ではなく秘め事

mitokami

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010 [気付けば一大事]

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 一番最初に準備室に入ったのは、ユリちゃんだった。
(不用心だな、誰か隠れてたら…とか、思わないのか?)私の思いを余所に、ユリちゃんは最初から、誰もいない事を確信したかの様に躊躇なく、一人キョロキョロしながら部屋の中を歩き回り、窓の外の街灯の明かりだけを頼りに、何故か、棚に有るファイルの中身を見て回っている。
私はそちらを気にしつつ、この部屋が冷たい原因であろうエアコンの設定を見に、柱に固定設置されたエアコンの設定を表示するモニターの場所へと行った。
準備室に設置されていたエアコンの温度は16度設定で、タイマー機能と洗濯物を乾かす時用のドライ機能を使って運転している。この部屋は明らかに目的が有って、この状態で存在しているのであろう。
私は、この部屋担当の責任者が帰って来ない事を予測して、この状態の理由を捜して見る事にした。

 ゴロちゃんや他のメンバーは、自分達が勉強していない。自分達が専攻していない学科の教材を物珍しげに観察し、手に取り、弄ぶ様に弄りたおしている。
私は誰かが、硝子製の機材を壊したら、知らぬ存ぜぬで逃げ切る心積もりで、ソレを放置した。

何も無い。人のいない場所で、カシャンと甲高い音が聞こえてきた。「誰か、何か割った?」私の心臓が鼓動を大きくした。皆も驚き、一斉に音のした方向に目を向けるが…、薄暗い為に、そこで何が起きたのか分からなかった……。
私は無性に興味を引かれ、音がした場所へと行く。そこに有ったのは、硝子用のゴミ箱にしている大きなバケツだった。

(捨て方が悪くて、山になってるのが崩れたのか?)
私は何故か屈み込み、バケツの中を覗き込む。そこで薄闇の中、黒っぽく汚れた炭酸ナトリウムの瓶を見付ける。
私は何かに導かれる様に、空になった炭酸ナトリウムの瓶を拾い上げ、鉄分に臭いに気付いて、(誰かに気付かれたら、気付かれたで、逃げれん事も無いかw)と、準備室の電気を付けて、瓶に付いた汚れを確認した。

 誰かが他の何かに驚いたのか?電気が付いた事に驚いたのか?短い悲鳴を上げ、ガタンと大きな物音を立てる。私の行動に驚いたゴロちゃんが、慌てて私が電気を付けた手を掴み退けて、バンっと音を立てて電気を消す。
それから「おいコラ!誰かが気付いて此処にやってきたらどうする!」とゴロちゃんが低い脅す様な声色で、私に囁いていた。
私はゴロちゃんに掴まれた手をじぃ~と見て、ゴロちゃんが手を離したと同時に、その手を取って「血が付いてるみたいなんだけど、どう思う?」と瓶を手渡す。

 離れた場所でサンちゃんが、アキや東条に「電気が点いた時に自分の影が映ったのを見ただけじゃないか?」と言われつつ…震える声を出して…、「瓶詰めの中身が動いた」と言っていた。
ゴロちゃんは私に掴まれていない方の手で頭を掻き、舌打ちして溜息まで吐き「三音、直ぐ行ってやるからちょっと待っとけ」とサンちゃんに言い。
サンちゃんに対する困った様な優し気な表情で、私をちょっと萌えさせてから、鍵の束に付けたキーライトで、私が手渡した瓶の汚れを確認する。

「コレは何て言うか…ちょっとばかり新鮮だな……。」とベットリ付いた血液の手形を評価して、それを持ったまま、次にゴロちゃんは、サンちゃんの所へ向かって行く。
「何か良いなぁ~兄弟愛w」
私はちょっと腐った思考で、ゴロちゃんとサンちゃんを眺めていた。

 ゴロちゃんは、サンちゃんが「動いた」と言う。ホルマリン漬けの瓶を持ち、街灯の光に翳して見詰めている。私も見たくて、ゴロちゃんに寄り添い覗き込んだ。
「動かないね……。」
ゴロちゃんを挟んだ御隣で見ていたユリちゃんはガッカリした様子で、ゴロちゃんもガッカリした御様子だった。

瓶からは血とホルマリンの臭いがした様な気がした。
私は何故か浮かんだ一つの可能性に囚われ「ゴロちゃん、ビンをしっかり持っててね……。」と言ってから、ゴロちゃんが翳す瓶詰めの側面をカツゥ~ンと指で弾く。
そう、指で弾いたら…、私が思った通り…、中身が動いたのだ……。

 ユリちゃんが悲鳴を上げ、ゴロちゃんが驚きの余りに、瓶を手から滑らせて落とす。
私は冷静にその瓶を受け止めて、ビンに貼られたラベルを見る。
瓶の側面、下の方に白いシールが貼られていたのだが…暗くて読めない。
私は「ゴロちゃんさっき持ってたライト貸してって言うか、ラベル読みたいからライトで照らしてよw」と頼んだ。
ゴロちゃんは冷静過ぎる私に対して、驚きながら従ってくれ、私はゴロちゃんが照らしてくれたラベルに視線を落とす。

 ラベルの上には、標本の名前と今日の日付が小さく印字されていた。
私は瓶を揺らし、瓶の中身を覗き込んだ。今日の日付なだけあって、新鮮な色をしている。
(コレは誰から、何処で、取り出された標本なのだろうか?もしかして、この場所か?そうなってくると、あの時に耳にした喘ぎ声は、エロ的なモノで無くて……。)
私は、あの時、この場所に皆で来なかった事を後悔する事になった。
そうこう考えていると、そこに姫はいないのに、私の目には薄ぼやけた姫の姿が映し出されていた。姫は悲しげな表情で一つ棚を指し「総てを知った上で、一緒に行って欲しい場所があるの…」と言い残して消えてしまう。私は素直に部屋の壁に並んだ真中に有る棚のガラス戸に触れた。

 ユリちゃんが、壁設置されていたキーケースの鍵で、ゴロちゃんに戸棚の鍵を開けて貰い。
「此処だけ、鍵が無いな…」と話していたのを耳にしていたのだけど、私が姫の指示通りガラス戸に触れると鍵はかかっておらず、簡単に開ける事が出来た。
 施錠されている事を確認していたゴロちゃんが驚き、中を確認したがっていたユリちゃんが早速、私を差し置き棚の中を探る。私は何となく、それを黙って眺め、ユリちゃんが本やファイルを次々と引っ張り出していくのを(コレ…、誰が片付けるんだろうか?)何て思いながら立ち尽くしていた。

 サンちゃんがタイミングを計り「もう、気が済んだ?そろそろ片付けよっか?」とユリちゃんに言った時…、空中に現れた白くふやけた姫の手が、空になった棚の奥を指すのを見て…、私はその手に命じられるまま、棚の奥に触れ、上げ底の様な仕組みになっていた、棚の背板を外した。棚の奥から新たに、ファイルを納めた棚が姿を現す。
姫の指が背表紙の数字に触れ「この数字は年度の下二桁、私が消えた年からのを見て」と姫が言った様な気がした。

 ファイルの出現にユリちゃんが大喜びし、棚の背板を次々と外し、次から次へとファイルを引き出し中を見ては「無いなぁ~」と床に捨てて行く。私はまた、姫の白い手に従い一つのファイルに手を伸ばし、ユリちゃんが暴挙をし続ける場所から離れ、ゴロちゃんにライトを借りてファイルの中身を確認する。そこには見知った顔写真が幾つも存在していた。
[ユリちゃん]のは[Bitte]と[数字]、[姫]のは[数字]だけ、[岡田さん]のは[数字]だけのと[Bitte]と[数字]の、最後の方に[リカ]のがあって[数字]で、一番最後の方ページは見知らぬ誰かとなり、[Bitte]と[数字]に人が並ぶ。
そして、そのページ数が何枚もある人がいれば、1枚しかない人もいた。ページ事に貼られる写真の上に有る数字は、年度と学年と日付、時に学年が無く年齢と言う事もあるらしい。

 私がファイルを見ていると、東条とアキが後ろから覗きに来ていた。
「ドイツ語か…」と、アキがファイリングされた紙に書かれている文字を指でなぞり呟く。
「読めるのか?」と東条が言うと、アキは「読めはせん!読めないけど…何が書かれてるかは大凡で分かる。俺の家、古くからの医者な家系だからねw」と笑う。
「同居してる爺ちゃんが、カルテをドイツ語で書いてたから、目にする事が多くってさw」と言いながら、アキは私からファイルを奪い。
「照らしてくれよw」と、リカの写真のページを読んでいるみたいだった。
アキの表情が段々と強張って行く。私と東条が何が書かれているのかを尋ねたけど、アキは答えてくれなかった。

 その為か、姿を見せずに姫が背後から私に説明してくれる。その声は、私以外に聞こえていないのか?誰も気付かない様子だった。姫は「コレは秘密なんだけどw」と、ユリちゃんが探している物がコレだと言うのを教えてくれる。私は隠し棚の隅に残された黒い小さなデジカメを手に取り、こっそりポケットに入れたた。
私は…、悪戯を仕掛ける時や内緒話をする時の何時もの口調で話す姫が、姫のままである事を知って、少し嬉しく思い。姫がもう、仲良く一緒に遊んでいた頃の姫には戻らない事を理解して悲しくなった。
ソレとほぼ同時に、シン君が青い顔して私の腕に触れる。
「あの…シロ先輩?コレって……。」とファイルの方には視線を向けず。シン君には姫が見えていた様で、彼は姫の方に視線を向けていた。正直に言おう。私はこの現象について、説明する言葉を持っていない。だから私は、シン君の手に触れ「大丈夫、気にしないでくれw」と微笑んだ。シン君は暫く、私に対して姫が何か伝えたいのでは無いだろうか?的な事を言っていたが、私が下に投げ捨てられたファイルを拾い。中を確認しながら元の位置に戻していたら、シン君も同じ様に片付け始めた。

 それから少しして周囲を見回すと…、辛そうな表情のアキに対して、東条が訳が分からなくてアキを心配しアキを支えてくれている……。
室内を散らかしまくるユリちゃんには、彼氏のサンちゃんと、元彼でサンちゃんの兄なゴロちゃんが付いている。シン君は隠されていた棚のファイルの内容を理解しようと必死な御様子。
私は、この場から(私が1人居なくなっても、大丈夫そうだなw)と思い。姫が望んでいるので、部屋を出る。出てから、守る立場に有る筈だった者が、今、後片付けをしている場所へと黙って一人で行く事にした。
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