嘘ではなく秘め事

mitokami

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007 [不思議な御話]

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 色々あって、内側からプッシュ式で鍵が閉められる扉を開けて校舎を出る。
「鍵の開けっぱなしは、見回りが来た時に不味いから鍵を掛けて閉めるけど、忘れ物は無いか?」と、ゴロちゃんが皆に確認する。
正直、用務員の人も先生も…(サボり癖付いてるから、見回ったりしないと思うんだけどな)何て思いながらも私は「大丈夫!問題無い!」と答えていた……。皆も同意し、ゴロちゃんがドアノブのボタンを押して扉を閉める。

 そして、目の前に広がるのは、向かって右から、庭園と2車線作れそうな舗装された道路、雑木林を囲む常緑樹の生垣。今、目指しているのは生垣の内側に有る池なのだが…、鬱蒼とし、通り抜ける事を拒む生垣の向こう…、街灯の設置されていない筈の池を望む形で建てられた茶室の方からの明るい光が、池の水面にも反射して揺れているのが見えた……。
「さっき見た時は電気、点いてなかったのに…」
シン君が残念そうに呟く。
私は、そこに居そうな[心当たりのある人物]を思い浮かべ、誰かさん達がまだ居るであろう教室の方向に目を向けてから、雑木林の唯一の出入り口のある方向へと走り始めた。

「ちょっと待て!何処行くつもりだ?」
「茶室だけど?」
ゴロちゃんに呼び止められ、私は笑顔で答える。
「ソレは不味くないか?」と兄弟で茶室に行く事を賛成しかねるのであろう、サンちゃんにも腕を掴まれ制止されるが「いや、大丈夫でしょ?アイツが他にも手を出してなきゃ、多分、茶室に居るのは私のクラスメイトだろうし…、品行方正な彼女と一緒なら、[部活の片付けです。]とか[保護者に迎えに来て貰うのにココで待ってるんです。]とか色々、言い訳を偽造して本物にしてくれる筈だから…、こっちに迎え入れて貰って、利用させて貰わなきゃ損でしょ?」と、私の予測では、岡田さんが誰かさんを待って居るのであろうと思われる茶室へと向かった。

 途切れた生垣。そこからは、アスファルトの熱気から解放される芝生の大地。そこで私は、昼間同様に移り変わる空気を感じながら、足早に入り口を通り抜け、茶室の前に辿り着いた。
正面から風が吹いた。嫌な臭いのする風に一気にテンションが下がる。立ち止まる私、茶室の電気は点いていない。
だが、私は茶室からの電気の明かりを見ながら走って来たのである。此処の電気は、消すと…徐々に光量を落として行く様な、気の効いたタイプの電気では無かった筈だ……。
(さっきまで目にしていた電気は何処からのだ?)
私は戸惑い、茶室の全体像を見る為に一歩後ろに下がる。
下がると、何にも無い筈の場所で想定外にトンっと、私の肩に温かいモノが触れた。皆が歩いてくる足音は遠い。誰もまだ、私に追い付いてはいない筈なのに、誰かの腕が、私の背中を包み込む様に触れてきて、私を支える様に抱き寄せてきた。

 私は息を飲む、一気に冷や汗が吹き出していた。
「大丈夫か?お前…」
耳元で囁かれた声は…アキのモノだった……。一気に私は脱力して、その場で座り込みそうになる。
「ビックリしたぁ~…アキかよ…マジで無いわぁ~…、追い付いて来たなら来たで、黙って無いで声掛けてくれよ……。」
私はアキの腕の力を借りて、体制を立て直し、他のメンバーが来るのを待つ事にした。

 小さな光が、茶室の前に有る池の上を楽しげに舞っている。私とアキがいる場所にも幾つかの光が漂って来ていた。
私は光をしっかり見ない方向で光から身を引き(虫よ!近付くな!!私に近付いてくれるなよ!!)と心の中で叫ぶ。密かに私には、余裕が無かった。
「カラサキ、ちょっとホント…大丈夫か?涙目になってるぞ……。」
アキに目尻の涙を指摘された私は正直に「気にするな、虫がちょとばかり苦手なだけだ」と、コレ以上心配されるのが嫌で、珍しく本当の事を告げた。
「虫って…アレ?」
アキが漂う光を指し、私は「蛍」と虫の名前すら言いたくなくて、ソレを肯定するように頷いた。

 アキの方に体を向けると、街灯に照らされた男女2人の姿が見えた。ゴロちゃんとユリちゃんだった。何故かその[ゴロちゃんとユリちゃん]がこっちを見て、驚いた顔をしている様に見える。私は不思議に思い。自分とアキの周囲を見回し、自分達の後ろも確認をした。振り返ると茶室の傍から、こちらに向かって手を振る人影が見える。
私は驚きながら、目を凝らし…、雑木林の外から照らされる街灯の明かりと、漂う光を頼りに相手を確認しようとする……。シルエット的に見て、相手は女生徒である事は確かだった。長いストレートヘアには見覚えが有った。
こちらに向かって[シロ]とだけ、顔が見えない相手が口にした短い言葉、私は不思議に思いながらも、相手が誰だか予測できた。

 漂う光が彼女の顔を一瞬、照らし出した。
私は相手が誰だか確証を持ち「姫w」と、彼女の事を呼んで嬉しくなって、駆け寄ろうとした。
アキが何故だか、私の前に立ちはだかる。
「大丈夫だよ、相手は知り合いだからw」と言って私が、アキを押し退け行こうとしていると…、ユリちゃんが不思議な事を言い…、走り寄ってきたゴロちゃんが、私の後ろから腰を抱え込み持ち上げて、同じ様な事を言った……。

 ユリちゃんは普段、見せた事の無い形相で「シロちゃん駄目!アレは絶対に珠姫先輩じゃない!」と言っている。
ゴロちゃんの方も「アレは、珠ちゃんじゃない!珠姉である筈が無いんだ!!」と自分にも言い聞かせている様な口調で私に言った。
私は抵抗する事無く、ゴロちゃんの肩に担がれ宙吊りにされたまま…、ユリちゃんと同じで、私と違う同人誌サークルに所属し、私と同じジャンルの[レイヤー仲間]だった[姫]にしか見えない、茶室の前に佇む制服姿の女性を見る。

 確信してからは何処からどう見ても、私には彼女が[姫]にしか見えない。
姫は苦笑しながら光を手で捕まえ、指に這わせて光と戯れている。私の全身に鳥肌が立った。
(うわぁ~…虫と遊んでるぅ~……。今の姫に近付けと言われても近付けませんなw)
私はゴロちゃんのされるがままになって姫を見ていた。

そこへ、サンちゃんと東条、シン君が、ゴロちゃんとユリちゃんの後を追って、歩いてやって来た。後から来たサンちゃんが私達に「何の遊びしてんのさ」と言い。
「あれ?アキ!お前どうやってこっち来たよ?急に居なくなるから捜したんだぞ?こっち来るのに何処か抜け道でもあるのか?有るなら教えろよ」と不思議な事を言う。

(アキは私の後を追って、そのまま付いて来た訳じゃなかったのか?)
私は不思議に思い、答えを求めてアキの方を見た。アキは、私に向かって微笑み掛けて来ている。
「何か…さっきから、訳の分からない事ばっかりだ」と溜息混じりに私が言うと…、「ソレは俺もそう思うよ…俺には屋上から蛍なんて見えなかったし…、茶室に電気が点いてるって言ってたけど、そうは思えなかったし…、今は、他にも誰かいるみたいな会話してるのが聞こえて来たけど[ヒメ]だか[タマキ]だか知らないけど…この7人以外、何処に誰が居るんだよ?」と東条が溜息混じりに零してくれた。

 シン君が「え?でも、蛍…、今、飛んでるじゃないですかw」と言うと、東条は「何処に?」と言う。
茶室の前に居る人物の表情の事は、見えないし分からないが…、東条とアキ以外のメンバーが、驚きの表情を見せ…ユリちゃんとサンちゃん、シン君が手近な光に手を伸ばす……。
因みに私は、ソレが今、自分の肩に止まった事に気が付いてはいたのだが、それが虫かどうかを自分で見る事も出来ず、自分で掃う事も出来ず、カタカタと震えていた。

 ゴロちゃんが私を地面に降ろし、よろける私を支えたまま、私の肩の上に有るモノを手に取って確認して、慌てた様に無言で投げ捨てる。
(普段、虫を飼っていて、可愛がってるゴロちゃんが、そんな事するなんて変だ!)
私は気になり「蛍じゃなかったのか?」と訊いてみた。
「虫で無かったのは確かだ」と、ゴロちゃんが答えたので私は精神的に立ち直り「もう大丈夫だから」と言って、目の前に飛んできた光を両手でパフッと捕まえてみて、手の中に有る存在を指の隙間から確認してみる。

 ユリちゃんとシン君が意味不明な悲鳴を上げたり、動揺して投げ捨てたりしている中で私は、光を片手に移し、キュッと握り…柔らかく湿ってて冷たい、何だか良く分からない光るモノを逆の手の指で摘まみ更に観察する……。
「オタマジャクシみたくに、丸に紐が繋がってるこれは何だろう?何の生き物かな?」とゴロちゃんの方に向かって言うと「シロウ…お前の[怖い]の基準を教えてくれ……。」と逆に訊ねられてしまった。
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