嘘ではなく秘め事

mitokami

文字の大きさ
上 下
1 / 12

001[日常と闖入者ではなく珍入者]

しおりを挟む
 正門を抜けると、校舎までの無駄に長い道が続き…、道の片面は、特に運動部も活躍していないのに、やたらと広い運動場があり…それと道を挟んで対面して…庭園・温室・使用時ですら緑色の水を湛える古びたプールが並ぶ……。
その道を抜け、やっとの事で辿り着いた古い本館校舎の隣には、鬱蒼とした雑木林。林の中には茶室と、縁が何処だかわからない大きい池がある。
古い校舎の後ろには、専門科目の高価な機材が設置された新しい校舎。その校舎の道を挟んだ隣には、また庭園…庭園の奥には…、使用用途の分からない、地下に埋め込まれている大きな貯水槽の四角く小さな口……。
そこに対面する濃い匂いの堆肥を管理する場所。そして、その奥は畑…雑木林の後ろを囲む広大な畑…、更に、学校の敷地を貫く様に通る大きな道路の下には…、集中豪雨で水没する事のある地下道があって、そこを越えれば、畑が広大に広がる場所と、果樹園と畑が広がる場所がある。

 此処は、とある都道府県の経営する。比較的、偏差値が低い。専門科目のある専門高等学校。

 私は、私自身の成績から考えて…「学校の偏差値が低い?何それ?美味しいじゃない!」と言える様な…、遊び呆けて学業を疎かにしても、自己保身が保てる学校…、我欲に対して忠実に学生生活を送っても、簡単に卒業できる学校に通っている……。

 私は、制服のラフさ&私服風へのアレンジし易さ、校則があって無い様な、破っても酷くなければ御咎め無しの御気軽な校風。親からの束縛を緩める通学時間と、遠くまで行ける定期券の魅力。それに伴う、アルバイトのし易さ、序に、その周辺に存在するちょっと有名な劇団の劇場を目当てに私利私欲を心に秘め、コノ学校を選び。
髪を注意されない程度に軽く染めて…、ピアスホールを複数開けて…、でも、学校に行っている時間は基本、地味目に…、その他の時間は、TPOに従って自由に…、女性らしく、大人を意識して、制服のブレザーの下にワンピース…、時にドレスシャツ…、スカーフとチェーンベルトにヒールの高いパンプスを合わせてみたり……。
時には、男らしく、ブレザーにチェックのシャツとデザイン性の高いネクタイ。スラックスと革靴を合わせてみたり。相手と、相手に対する自分の都合に合わせて自分の色を変え、擬態して、面白可笑しく学生生活を送っていた。

 擬態を変えれば、周囲の人間も対応も切り替わり視点も切り替わる。人目を引かない私の容貌は、他人様に強く印象に残らず。同じ学校の同じ学年の生徒にですら、制服の[プリーツスカート]を制服の[ズボン]に穿き替えていても、誰にも違和感を感じて貰えず。そのまま受け入れて貰えている。
だから女子トークは勿論、ヤロー共の下ネタトークにも参加でき、親友は作れなかったけど、広く浅く居場所は存在していた。

 まぁ~寧ろ、面倒事に巻き込まれたくないから…、通常、強制的に慣れ合わなければならない自分の所属しているクラスに2つ程ある派閥に干渉されない程度に…、何時も近付き難い雰囲気を醸し出し…、必要以上に他人様と、深く関わらない事にしているのだけれどって、事は置いておいて…そんな感じで日常を送っている、とある日の事……。

 2階の窓辺にある自分の席で本を読みながら一人寛いでいると「あ…ギンちゃんだ!」と、周囲の注目を集める様な大きな声で…、入学した科が違う接点の少ない男友達が、窓の外…渡り廊下の窓から女子モードの私に声を掛けて来る……。
「今日、茶道やってる娘等が抹茶飲ましてくれるって…一緒行く?」
私の動揺を余所に彼はとっても楽しげだった。

 私はその相手に対してずっと、男モード対応してきたので少し戸惑い。断れば、相手が教室まで押しかけて来そうな勢いなので、取敢えず…、相手に合わせて、話し掛け辛い様に正していた姿勢を崩し、髪を掻き上げ[此処から君の話を聴く]と、言う意思表示として体をソチラ側に向け…、でも、一応…、[夏服だし、暑くて上着を着ていないし]と、言う問題もあって、嘘を吐くつもりはないが、気付かれない様に胸を隠す為の裏工作をする事にした。
私は窓枠に腕を乗せ胸の近くで手を重ねて、その手の甲の上に顎を乗せた。普段、教室では普段見せない[だらけて崩した面倒臭そうな態度]ではあるが「それ、今からぁ~?」と、返してみる。
「いや、今日の放課後!」と、彼に即答され、私は嬉しそうに「じゃ、行く!食堂で待ち合わせな!」と、御迎えに来られては面倒と、待ち合わせを勝手に決め、演技で眠そうな態度を取り、相手に欠伸をして見せて「んじゃ、放課後ぉ~」と、有無を言わさない様に笑顔で手を振った。

 私が違う学科の人間と話しているのをクラスメイトが見て、私がクラスで寡黙な演技を通している為に、私が[社交的ではない人間だ]と、そう信じていた数人が、私に対して不思議そうな顔を向けている。(美味しくない雰囲気だけど、これくらいなら、面倒事には成らないだろう)
私はそんな痛い視線を背中に受けながら、男友達を見送り、何事も無かったかの様に眼鏡を掛け直し、姿勢を正して前髪を少し手直しし、黒板に向かって正面を向き、鞄から出したスケジュール帳に目を通して、今日、特に用事が無かった事を確認した。

 その時、ちょっと私的に嫌な事に…、教室に、私に対する微妙な空気が流れていた……。背後から、数人の娘等が私に話し掛ける算段を立てている会話が聞こえて来る。(面倒だなぁ~)と、私は心の中で思った。(用事があるなら…訊きたい事があるのなら…、ウダウダ話し合ってないで、さっさと話し掛けて来れば良いのに…)私は悪態を吐きたいのを我慢して、こっそり深呼吸をする。

 暫くすると一瞬、教室が静まり返り、私が密かに[好きになれない]と、思っている派閥の娘等の中でも、比較的、用事のある時に私から話し掛ける事のある娘が代表して「ねぇ~唐杉カラスギさん、ギンちゃんってどっから出てきた名前?」とオロオロしながら私に話し掛けて来た。
私は内心、溜息を吐く、実質、私の名前[唐杉カラスギ マコト]と言う名前の中に[ギンちゃん]と呼ばれる要素は、多少無理して作らなきゃ無い。だが、しかし…何かしら答えなければ…、彼女等が引いてはくれないであろう……。私は当たり障りの無さそうな言葉を探した。
それで出た答えは「知らない…、どうも、私の呼び名らしいんだけど…、気が付いたらそう呼ばれてて、返事しなかったら怒って詰め寄って来るから…、あの人限定で、返事する事にしているだけだよw」
事実、裏も表も無く…これが真実だったりするので、それだけを答えておいた……。
そしてコレ以上、彼女等に突っ込んで訊いて来られても困るので、私は「ところでさ…次の授業って、何だっけ?」と質問して、会話の方向を螺旋曲げ、私から情報を提供しない事にした。

 体感時間が遅かれ早かれ、放課後は確実にやって来る。
前の休み時間に、バイト用に購入した胸を隠し平らに見せるコルセットを身に着け…、スッピンメイクに手を加えて、前髪と眼鏡の下に違う印象の、これまたスッピン風メイクを施し…、透明なピアスから、シルバーのピアスに付け替えていた私は…、ホームルームが終わり次第、教室で悪口を言われない為に牽制し合い、中々教室を出られない娘等を無視して、教室と同じく、2階に有る「女子専用のロッカールーム」へ行き…、その人気の無いロッカールームで、プリーツスカートから制服のズボンに穿き替える……。
眼鏡を外し、前髪に分け目を作りピアスが目立つ様に髪を纏めて靴を履き替え、バイトに行く時用の自分で、颯爽と1階に有る食堂へと向かう。

 向かった先の食堂は、エアコンが効いていてとても涼しい為、ホームルームに参加しなかった生徒を含めた複数の男子生徒達が、既に何組も屯していた。

 余談となるが…、とっても悲しい事に…、そこに居る、ちょっと派手目な男子生徒に紛れてしまえば…、女子力の低い私は、違和感無く意外と簡単にその場に溶け込み馴染んでしまうのだ……。
誰にでも気さくに突っ込みを入れるタイプの食堂のおばちゃんですら、顔見知りであるにも拘らず、私の「性別に関しての事のみ」何にも云わない。
真相は分からないけど私は、その事でおばちゃんに精神的に動揺を与えているかもしれないので、極力、おばちゃん達から離れた場所を陣取り、心地よい冷風を浴びながら、入道雲が浮かぶ綺麗な青い夏空を眺め、茶室に誘ってくれた友人が来るのを待つ事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

閲覧禁止

ホラー
”それ”を送られたら終わり。 呪われたそれにより次々と人間が殺されていく。それは何なのか、何のために――。 村木は知り合いの女子高生である相園が殺されたことから事件に巻き込まれる。彼女はある写真を送られたことで殺されたらしい。その事件を皮切りに、次々と写真を送られた人間が殺されることとなる。二人目の現場で写真を託された村木は、事件を解決することを決意する。

夜嵐

村井 彰
ホラー
修学旅行で訪れた沖縄の夜。しかし今晩は生憎の嵐だった。 吹き荒れる風に閉じ込められ、この様子では明日も到底思い出作りどころではないだろう。そんな淀んだ空気の中、不意に友人の一人が声をあげる。 「怪談話をしないか?」 唐突とも言える提案だったが、非日常の雰囲気に、あるいは退屈に後押しされて、友人達は誘われるように集まった。 そうして語られる、それぞれの奇妙な物語。それらが最後に呼び寄せるものは……

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

【連作ホラー】幻影回忌 ーTrilogy of GHOSTー

至堂文斗
ホラー
――其れは、人類の進化のため。 歴史の裏で暗躍する組織が、再び降霊術の物語を呼び覚ます。 魂魄の操作。悍ましき禁忌の実験は、崇高な目的の下に数多の犠牲を生み出し。 決して止まることなく、次なる生贄を求め続ける。 さあ、再び【魂魄】の物語を始めましょう。 たった一つの、望まれた終焉に向けて。 来場者の皆様、長らくお待たせいたしました。 これより幻影三部作、開幕いたします――。 【幻影綺館】 「ねえ、”まぼろしさん”って知ってる?」 鈴音町の外れに佇む、黒影館。そこに幽霊が出るという噂を聞きつけた鈴音学園ミステリ研究部の部長、安藤蘭は、メンバーを募り探検に向かおうと企画する。 その企画に巻き込まれる形で、彼女を含め七人が館に集まった。 疑いつつも、心のどこかで”まぼろしさん”の存在を願うメンバーに、悲劇は降りかからんとしていた――。 【幻影鏡界】 「――一角荘へ行ってみますか?」 黒影館で起きた凄惨な事件は、桜井令士や生き残った者たちに、大きな傷を残した。そしてレイジには、大切な目的も生まれた。 そんな事件より数週間後、束の間の平穏が終わりを告げる。鈴音学園の廊下にある掲示板に貼り出されていたポスター。 それは、かつてGHOSTによって悲劇がもたらされた因縁の地、鏡ヶ原への招待状だった。 【幻影回忌】 「私は、今度こそ創造主になってみせよう」 黒影館と鏡ヶ原、二つの場所で繰り広げられた凄惨な事件。 その黒幕である****は、恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。 ゴーレム計画と名付けられたそれは、世界のルールをも蹂躙するものに相違なかった。 事件の生き残りである桜井令士と蒼木時雨は、***の父親に連れられ、***の過去を知らされる。 そして、悲劇の連鎖を断つために、最後の戦いに挑む決意を固めるのだった。

令和百物語 ~妖怪小話~

はの
ホラー
今宵は新月。 部屋の灯りは消しまして、百本の蝋燭に火を灯し終えております。 魔よけのために、刀も一本。 さあさあ、役者もそろいましたし、始めましょうか令和四年の百物語。 ルールは簡単、順番に怪談を語りまして、語り終えたら蠟燭の火を一本吹き消します。 百本目の蝋燭の火が消えた時、何が起きるのかを供に見届けましょう。

黄泉小径 -ヨモツコミチ-

小曽根 委論(おぞね いろん)
ホラー
死後の世界に通ずると噂される、村はずれの細道……黄泉小径。立ち入れば帰って来れないとも言われる、その不気味な竹藪の道に、しかしながら足を踏み入れる者が時折現れる。この物語では、そんな者たちを時代ごとに紐解き、露わにしていく。

それが求めるモノ

八神 凪
ホラー
それは暑い日のお盆―― 家族とお墓参りに行ったその後、徐々におかしくなる母親。 異変はそれだけにとどまらず――

ツヨシ
ホラー
父は幼子の私を恐れていた。

処理中です...