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第1章 性愛神の淫紋

第4話 職場復帰?(★)

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 二週間後。
 啓二は職場――堕落境域捜査第一課に復帰していた。職場復帰して一週間は経つが、体調は万全だ。

 入院中、淫紋についてはひととおり調べた。
 淫紋にもさまざまな目的や作用があることがわかった。主たる作用は、催淫と性機能の強化だ。
 だが今のところ、いやらしい気分になったことはない。性機能は試していないが、入院先の病院からは「体に異常なし」と言われている。

(なにが性愛神の淫紋だ。なにも起こらないじゃないか)

 性愛神だのなんだのと言われたが、結局はただの刺青なのだろう。服を着ていれば一切わからない。
 退院してから、ヴェローナ医院には行っていない。必要性を感じなかった。

「鳴神ぃ、このあいだの件だが……」

 同僚の佐藤が、事件資料の確認に来る。啓二が内偵していたのとは、また別の事件だ。啓二も普通に対応する。
 その時――。

「ん……?」

 ムズリ、と下腹部にかゆみのようなものが走る。
 啓二は無意識に、服の上から下腹部を押さえた。淫紋のあるあたりだ。

「ん……」

 ムズ、ムズ、とむずがゆいような不思議な感覚が、沸き起こってくる。
 同時に、顔が熱くなってくる。頬に血が上り、赤らむ。

「……どうした?」
「いや……なんでもない」

 佐藤が尋ねる。
 啓二は平静を保とうとする。だが熱が収まらない。やがて顔の熱は全身に広がってくる。下腹部がぽかぽかと温まってくる。

「すまん、ちょっとトイレに……」

 啓二は慌てて、ひとりで廊下に出る。
 体が熱い。顔、首筋、胸、そして腹。熱くてたまらない。

「はぁ……はぁ……」

 息が上がってくる。歩くと、振動が体に加わって、ムズムズする感覚が強まってくる。

「やば……っ、なんだ、これ……!?」

 トイレに到着する。幸い、誰もいない。個室に入る。
 個室の中で立ったまま、息を整えようとする。体中のムズムズは一向に収まらない。熱で頭がぼうっとしてくる。

「うわ……なんだ……?」

 啓二は気づいた。勃起している。自身が、苦しげにスラックスを押し上げ、主張している。
 思わず、啓二は股間を手で押さえようとした。

「んぐ……ッ!?」

 手が触れた瞬間、強い快感が脳を叩く。思わず声を上げかけたが、耐える。

「な、ぁ……!?」

 啓二は震える手で、スラックスのチャックを下ろした。下着をも押し上げて、陰茎が隆々とそそり立っている。
 啓二は釘付けになり、右手でそっと陰茎を握ってしまう。

「ん、ぅ……ッ!?」

 快感が、また脳をかき混ぜる。背を反らしてしまう。

(ま、まずい、まずいマズイまずい!)

 啓二のうっすらと残った理性が、警鐘をガンガンと鳴らす。これ以上刺激したら、間違いなく絶頂してしまう。職場のトイレでそれはまずい。

(手を離せ……手を離せ、手を離せ、俺!)

 啓二は指から力を抜こうとする。だが、指が震えてしまう。中指の先が、裏筋を刺激した。

「ん~~~~~~~~~~ッ!!」

 啓二は反射的に、左手に噛み付いた。声を押し殺す。
 同時に、精を放ってしまう。白く濁った体液が、便器に飛んだ。

(やばい、やばいやばいやばいやばい!!)

 快感が収まらない。勃起が収まらない。
 啓二は助けを呼ぼうとして、ためらった。
 この状態を、警察の誰かに見られるのか? 勃起した性器を握り、快楽に押しつぶされそうな状態の自分を? あり得ない。待っているのは、社会的な死だ。

(なにか……なにかなにかなにか)

 焦った啓二のスラックスから、スマートフォンが落ちる。啓二はズルズルと体をかがめ、スマートフォンを拾う。

(誰か、誰か……!)

 震える手で、スマートフォンを起動する。電話帳を探す。

(あ……)

 電話帳リストの最初に、彩雲・ソッド・紅市の電話番号が表示された。最近追加した連絡先だ。あの名刺から、一応写しておいたのだ。
 啓二はなんとか画面をタップする。数回の呼び出し音のあと、通話が始まる。

『はい、彩雲です』

 落ち着いた男の声が応えた。間違いない。ソッドの声だ。

「お、俺です、鳴神啓二、です」

 たどたどしく名乗る。
 さすがに異常に気づいたか、ソッドの声が鋭くなる。

『鳴神さん? ……いまどちらに?』
「け、警察署の、三階はしのトイレに……!」

 体が熱い。息をしているだけで、気持ちよくなってくる。

「はぁ、はぁ、ぅ、ぐ、たすけ、たすけて……!」
『わかりました、すぐ伺います。気を強く持ってください』

 通話が切れる。
 啓二はスマートフォンを再び落とした。
 体中が気持ちいい。何も考えられない。目の前がチカチカと白く明滅する。声を上げそうになる。左腕に強く噛み付く。痛みは感じない。
 気持ちいい。ひらすらに気持ちがいい。

「う、ぐ…………!!」

 そのまま、啓二は意識を手放した。
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