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第1章 性愛神の淫紋
第2話 みしるし、淫らなるもの
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「――淫紋屋と呼ばれております」
ソッドの自己紹介に、啓二は目を丸くする。
にっこり笑ったソッドに、課長は椅子を勧める。ソッドは椅子に座って、話し始める。
「淫紋屋、というと怪しい商売とお思いでしょう。ですが、当社は境域の掟に従う、正規の淫紋屋でございます」
ここ――堕落境域は、法外の土地だ。日本の中にあって、日本の法律が事実上通用しない。その代わり、「掟」と呼ばれる決まりがある。掟を守ることで、境域の人々は一見平和な日常生活を送っている。
「きちんと税金も納めておりますし、反社会的勢力とは付き合いません。普通の会社さんとなんら変わりないと思っております」
「はぁ……」
啓二は曖昧な返事をする。
「それで、ソッド……さんは、なんの目的で病院に?」
「もちろん、淫紋の鑑定を依頼されまして」
「淫紋の鑑定?」
「はい。失礼いたします、鳴神さん」
ソッドは一礼して、啓二の入院着の紐を解いた。浴衣のような入院着の前が開く。中は当然、下着以外は裸だ。
「これです」
「な……っ!?」
啓二は、自分の下腹部を見て、目を見張った。
鍛えられ、筋肉の割れた下腹部だ。そこに紋章が刻まれている。
紋章は、漆黒の線で描かれている。ハートに似た模様をベースに、唐草模様を思わせるうねった線と、文字のような細かい模様が組み合わされている。
「な、なんですか、この刺青!」
「これが淫紋です」
ソッドの言葉に、啓二は思わず意識が遠くなる。
課長も頬を赤らめて、複雑な表情をしている。
ソッドだけが冷静だ。淫紋を見つめ、鑑定する。
「ふむ、ふむ……」
ソッドの指が、啓二の腹を撫でる。ひんやりとした長い指だ。
啓二は思わず「んっ」と声を漏らした。
「ああ、失礼」
「い、いえ……。その、淫紋は、マフィアの連中が?」
心当たりといえば、天堂ファミリーのことだ。彼らに捕まり、媚薬を注射された。そのあとはよく覚えていないが、おそらく性的に暴行されて、淫紋を刻まれたのだろうか。
啓二は暗い気持ちになる。
「いえ、この複雑なラインは……マフィアごときに扱えるものではありません」
ソッドは即座に否定した。啓二の淫紋に顔を近づける。匂いを嗅ぐ。
「ふむ……」
「ちょ……! ソッドさん……!」
啓二はさすがに赤面し、身をよじる。暗い気持ちも吹き飛ぶくらい、恥ずかしい。
ソッドは気にする様子もなく、啓二の腹部を両手で押さえている。月色の髪が、啓二の肌を撫でる。
啓二はくすぐったさに背筋が震えるのを感じた。
「なるほど……。失礼しました」
しばらく淫紋を観察し、ソッドは顔を離す。
「五色の魔法染料を、〇.一ミリの狂いもなく塗り重ね、黒色の線を描いてあります。繊細にして大胆、こんなことができるのは……」
「できるのは?」
課長が尋ねる。
ソッドが、大真面目に言い放つ。
「性愛神だけです」
ソッドの自己紹介に、啓二は目を丸くする。
にっこり笑ったソッドに、課長は椅子を勧める。ソッドは椅子に座って、話し始める。
「淫紋屋、というと怪しい商売とお思いでしょう。ですが、当社は境域の掟に従う、正規の淫紋屋でございます」
ここ――堕落境域は、法外の土地だ。日本の中にあって、日本の法律が事実上通用しない。その代わり、「掟」と呼ばれる決まりがある。掟を守ることで、境域の人々は一見平和な日常生活を送っている。
「きちんと税金も納めておりますし、反社会的勢力とは付き合いません。普通の会社さんとなんら変わりないと思っております」
「はぁ……」
啓二は曖昧な返事をする。
「それで、ソッド……さんは、なんの目的で病院に?」
「もちろん、淫紋の鑑定を依頼されまして」
「淫紋の鑑定?」
「はい。失礼いたします、鳴神さん」
ソッドは一礼して、啓二の入院着の紐を解いた。浴衣のような入院着の前が開く。中は当然、下着以外は裸だ。
「これです」
「な……っ!?」
啓二は、自分の下腹部を見て、目を見張った。
鍛えられ、筋肉の割れた下腹部だ。そこに紋章が刻まれている。
紋章は、漆黒の線で描かれている。ハートに似た模様をベースに、唐草模様を思わせるうねった線と、文字のような細かい模様が組み合わされている。
「な、なんですか、この刺青!」
「これが淫紋です」
ソッドの言葉に、啓二は思わず意識が遠くなる。
課長も頬を赤らめて、複雑な表情をしている。
ソッドだけが冷静だ。淫紋を見つめ、鑑定する。
「ふむ、ふむ……」
ソッドの指が、啓二の腹を撫でる。ひんやりとした長い指だ。
啓二は思わず「んっ」と声を漏らした。
「ああ、失礼」
「い、いえ……。その、淫紋は、マフィアの連中が?」
心当たりといえば、天堂ファミリーのことだ。彼らに捕まり、媚薬を注射された。そのあとはよく覚えていないが、おそらく性的に暴行されて、淫紋を刻まれたのだろうか。
啓二は暗い気持ちになる。
「いえ、この複雑なラインは……マフィアごときに扱えるものではありません」
ソッドは即座に否定した。啓二の淫紋に顔を近づける。匂いを嗅ぐ。
「ふむ……」
「ちょ……! ソッドさん……!」
啓二はさすがに赤面し、身をよじる。暗い気持ちも吹き飛ぶくらい、恥ずかしい。
ソッドは気にする様子もなく、啓二の腹部を両手で押さえている。月色の髪が、啓二の肌を撫でる。
啓二はくすぐったさに背筋が震えるのを感じた。
「なるほど……。失礼しました」
しばらく淫紋を観察し、ソッドは顔を離す。
「五色の魔法染料を、〇.一ミリの狂いもなく塗り重ね、黒色の線を描いてあります。繊細にして大胆、こんなことができるのは……」
「できるのは?」
課長が尋ねる。
ソッドが、大真面目に言い放つ。
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