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41 総力戦②

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「くおらぁッ!! 我を見捨てて行くとはいい度胸しておるな!」

 猿ぐつわと解かれたマルは開口一番、唾を飛ばしながら俺に罵倒を浴びせる。

「こっちだって片目を撃たれて死にかけてたんだ。お前の面倒まで見てられるか」
「うっ……まあ我は寛大だから今回は大目に見てやろう。あ、あんまりそれを見せるな」

 抉られて空洞になった眼窩を開いて見せると、マルは顔を青くしてあっさりと引き下がった。
 相変わらずドラゴンの癖に気の小さい奴だ。

「それにしてもお前ら、我を仲間の元に返すというそもそもの目的を忘れてはおらんだろうな! ここに来てからというもの、お前たちからは我に対する敬意というものが感じられ……」

 ベシャッ――。
 早口でまくしたてる言葉を遮り、黒い影が背後から飛びかかりマルを押し倒した。

「うぎゅッ」

 うつ伏せに転倒したマルは文字通り、潰れたような声を上げる。

 グルルルルル――。
 黒い影はマルにのしかかったまま、俺に向かって低くうなる。
 狼……いや、これはヘルハウンドという狼の姿をしたモンスターだ。

「ギャウッ!」

 ヘルハウンドは短く吠えると、マルを踏み台にして俺の首筋に向かって飛びかかってくる。
 しかし片目とはいえ、そんな攻撃にやられる俺ではない。

「フッ!」

 紙一重でヘルハウンドの爪を避けると、すれ違いざまに胴体を両断する。
 二つに分かれた狼の体は血だまりを作りながら地面に落ちた。

「今さらこんな単純な攻撃で来るとはな、魔王軍も人手不足か……ん?」

 ピッ……ピッ……ピッ……。
 斬り飛ばしたヘルハウンドの上半身から奇妙な音が聞こえる。
 近づいてよく見ると、その音はヘルハウンドに巻き付けられた首輪から発しているようだった。
 首輪に結びつけられたペンダントのような物が、規則正しい音に合わせて赤く点滅している。

【爆発物です。退避してください】
「なに!?」

 ピ――――。
 一瞬長い音が聞こえたのと同時に俺はマルを掴み、その場から飛び退いた。

 ドォォンッ――!!

「うおぉッ!」

 反応するのが間に合ったおかげで爆風からは逃れられたものの、その余波で後方にジャンプした俺の体は宙に浮かぶ。
 吹っ飛びながらも周囲を見ると、後続のヘルハウンドが何匹もこちらに向かってくるのが見えた。
 その全てが同じような首輪を下げている。

「気をつけろ戦士殿! こいつら首に爆弾を下げている! 遠距離から攻撃するんだ!」

 馬を走らせ、魔法を撃ちながらフィノが声をかけてくる。
 遠距離からといってもショットガンはアダムに分解されてしまった。
 俺の今持っている武器は剣一本だけだ。

「マル! とりあえず隠れてろ! 苦情は落ち着いたら聞いてやる!」
「ぬぅ~、一体いつになったら落ち着くのだここは……」

 ブツクサ言いながら物陰に隠れるマルを確認してから、ヘルハウンドの群れに向き直る。
 さて、どうするか……

「“シルフ・ストリーム”!!」

 ゴオォッ――!
 突然、俺の目の前に竜巻が発生し、まとめて巻き上げられたヘルハウンドが空中で爆発する。

「脳筋戦士ちゃんは引っ込んでなさいよ!」

 詠唱の聞こえた方を見ると、エレトリアが勢いに任せて魔法を連発している。

「調子に乗ってたらまたすぐにバテるぞ」

 エレトリアは派手好きな性格もあって、強力で広範囲な魔法ばかり使いたがる。というよりも、そもそも地味な魔法は勉強したことがないらしい。
 もちろんそれは類まれなる才能があるからこそ出来ることだが、それでも大魔法は消耗が激しく、長期戦になると魔力切れを起こしやすい。

「彼女もまたジョンと一緒に戦えて嬉しいんだよ」

 別の場所で応戦していたリュートが駆けつけ、俺に声をかける。

「ジョンを置いていくと話した時、エレトリアにはずいぶんと反対されたからね。説得するのに苦労したよ」
「あいつが? 意外だな――」

 ゴゥッ!
 竜巻に吹き飛ばされたヘルハウンドが俺たちの正面に飛んでくる。
 リュートと俺がとっさに屈んでそれを回避すると、背後で爆発が起こった。

「おいエレトリア! 気をつけろ!」
「あらごめんなさい。ボ~っと突っ立ってるから石像かと思ったわ」
「ハハ、余計なことは言わない方が良さそうだね。僕はあっち側を援護してくるよ。ジョンも気をつけてくれ」

 そう言うとリュートは苦戦している他の部隊に向かって行った。
 ……何しに来たんだあいつは。



 戦況はリュートたちの働きにより徐々に好転していた。
 俺は遠距離から攻撃できないため爆弾を抱えたヘルハウンドにはなかなか手を出せないでいたが、これなら出る幕もなさそうだ。

 そう思っていた矢先に、背後から殺気を感じた。

 ヒュンッ――
 不意に振り下ろされたそれを、俺は前方に転がって回避する。

「誰だ!?」

 その問いに答えはなかったが、振り向いた先には俺の背丈の二倍はある大柄な人型の魔物が立っていた。
 人間の白骨死体が剣を持ち歩行している、要はスケルトンだ。
 だがその姿は、何人分かの骨を継ぎ足して組み立て直したかのように大きくなっており、四本ある腕にはそれぞれ剣が握られていた。
 スケルトンの中でもウォーロードと呼ばれる上級種だ。

「こいつ、どこから現れた?」
【最初からこの戦場にいましたが、あなたの失った左目の死角を移動して近づいて来たようです】

 死角を狙ったり気配を消したりする知能はあるのか、それともアダムの奴がそうさせているのか。
 どちらにしろ、こいつなら接近戦で倒しても爆発の心配はなさそうだ。
 それに魔大陸に来てからというもの、飛び道具の相手をさせられてばかりで飽き飽きしていたところだ。
 
「フッ、面白い。剣で俺に挑むとは、なかなか骨のある奴じゃないか」
【それはジョークですか?】
「やかましい」
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