量産型幸福販売所

しばまる

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好奇心

足の向く方へ

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俺の地元に近からず、遠からずのある都会。
都心と言えど一度見知らぬ路地に入ってしまうと抜け出すことは難しいだろう。
俺は電化製品を買いに土地勘もない都会に出向いた。

肩から流すような小さなカバンに、パーカーを羽織っているラフなスタイルで出向いたのも間違いだったのだろうか、ちょっとした好奇心でいろいろな店に入っては物色をしていた。
ようやくお目当ての大きな電化製品屋が顔を出し、そこに向かうべく俺は交差点をまっすぐ進もうと足を出した。
ふと、左目を掠める細く伸びた、ノスタルジックな雰囲気漂う路地。横断歩道を渡りきってはみたものの、俺の幼稚園児超えの好奇心は抑えられなかったらしい。180度体を回し先ほど見つけた路地に足を踏み入れてみる。
昼時、真上から指す温かいが暑苦しい、ねっとりとした日光に包まれながら人が二人ほどしか通れなさそうな細い路地を進んでみる。そこに何かがあるなんて確信はなかったが、なぜが突き出す足は止まらなかった。
突然、ビル風のような強い風が吹き付ける。左右の窓はガタガタと揺れ、今にも外れそうにうなる。思いもよらぬ強風に俺はぎゅっと目をつぶった。
再び目を開けたときよほど強く瞑っていたのか、目の前の光景がチカチカとまたたく。ただひとつだけ、逆光…いや、後光に近いような光を浴びながら路地に影を落とす、細長い置き看板。どこにも繋がっていないコンセントを、まるで興味を失った子犬の尻尾のように垂らしながら4つのキャスターで体を支えている小学生くらいの看板には、優しい赤色で
『量産型幸福販売所』
と書かれていた。もっぱら最初に「何だこれ。」と思うべきだったんだろうが、そのときは「どこにあるんだろう。」としか考えていなかった。
しかしその好奇心も一瞬で失せた。店構えがどう考えてもやって行けてそうになかったからだ。半分開きっぱなしのガラス戸に明かりもなさそうな暗い店内。昭和感が抜けないその姿に「もうたたんでしまっているのかな。」とまでも思ってしまった。
目を凝らして奥を覗こうとすると、何かが奥で揺らめいた。人影だった。いくつかはわからなかったが、ゆっくりとした動きはなぜか温まる。
ほっこりしていたがすぐに意識を取り戻し店のガラス戸に手をかけて小さな声で
「ごめんくださーい…」
と声をかけてみる。
数秒の静寂の後、パタパタと歩く音が聞こえ店の奥から優しそうな………
店に見合わない若い女性が出てきた。彼女はにこりと笑い第一印象と同じような、思ったとおりの優しい声で
「いらっしゃい」
返してくれた。
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