29 / 30
タコパ
しおりを挟む
「ははうえ~」
「あら、くーちゃんおかえりなさい」
久しぶりにマイホームに帰宅した俺は、母上に駆け寄りハグしてもらう。
初めての長旅で、身も心もすかっり疲れ果ててしまったよ。けれども、そんな疲労も愛する母上に抱きしめてもらえれば、全て吹き飛んでしまうのさ。
母上の胸に顔を突っ込んでいると、ゴツゴツとした手で頭をなでなでされれる。顔をあげると父上が、いぶし銀な笑顔で俺を見つめていた。
「おお、ルークよ! たった数日会っていなかっただけだが、まるで見違えるようだぞ。やっぱり男の子は成長が早いな」
「あなた、大袈裟よ」
親馬鹿っぷりを発揮する父上に、母上が突っ込みをいれる。これだよ、これ。この平和な家庭が好きだから、俺はこの数日頑張ってこれたのだ。
「それにしても、随分と大勢だな」
父上がそうつぶやき、家の入口に目を向ければ、そこにはリリア、アイコ、イカロス爺さんがいる。あ、陽炎の二人はここにはいない。あいつらは、ベルモンド領に到着した時に、街で下ろした。今後は、この街を拠点に冒険者活動を続けていくらしい。で、時間がある時に俺に修業をつけてもらいたいそうだ。まあ、アイツらは将来有望な冒険者っぽいから、この街で存分に活躍して、ベルモンド領の発展に貢献してもらいたい。
「イカロスさん、お久しぶりです」
父上とイカロス爺さんが握手を交わす。
二人はどうやら顔見知りみたいだ。小さな街だし、こんな目立つ爺さんは嫌でも目立つから、当たり前といえ当たり前か。
「領主よ、元気そうでなによりじゃ。いつも、うちの孫が世話になっているらしいのう」
「こちらこそリリアちゃんには助けてもらっています。ところで、本日は一体どんな御用で?」
「なに、聞いておらんのか? ほれルークや、説明してやれ」
ふふふ、ついにこの時がきたか。
俺はイカロス爺さんにそう言われて、胸を張り堂々と説明する。
「じつは! ははうえとちちうえには内緒で、サプライズパーティーの準備をしていたのです! 食材はおれと、リリアで集めました!」
「まあ!」
「それは凄いじゃないか!」
父上と母上が驚き感嘆の声をあげる。
くう~、気持ちいぃ。
俺はこの瞬間のために頑張ってきたと言っても過言ではない。早く両親の喜ぶ顔がみたんじゃ! さあ、パーティーをはじめようじゃないか。
俺は名残惜しいが母上の抱っこからおりて、準備を始めようとする。すると、アイコが杖でツンツンと俺をつついてくる。はやく両親に私を紹介しろとでもいいたげだ。ちっ、あわよくばこのままスルーして、現地解散という名目で別れを告げようとおもっていたのに。
「あ、あの母上。ここにいる黒髪の少女なんだけど」
「言われえてみれば見ない顔ね? はじめましてかしら」
母上がそういうと
「いやー初めまして! あなた様がルーク君のお母さまでしょうか!? なんと若くてお美しい。とても一児の母とは思えない。あ、申し遅れました私、モンスターテイマーのアイコと言います! ルーク君とは最近出会って、とても仲良くさせて頂いております! ああ、それにしても噂では聞いておりましたが、本当に綺麗で可憐な方ですねぇ~」
アイコは自分の話題が上がるのを待っていましたとばかり、大声で名乗りをあげる。コイツ、調子に乗りやがって。いくら点数稼ぎとはいえ、母上にそんな見え透いたおべっかが通用すると思ってんのか! ねえ母上?
「あら~、とても良い子じゃない。うふふ、綺麗だなんて・・・・・・クーちゃんは良い友達が沢山いるのね」
いや母上!?
違う、騙されないで。ソイツは、ただ我が家に寄生したいだけの害虫ですぞ!
「アイコ君といったか、テイマーとのことだが、どんなモンスターを使役してるのかね?」
家族を褒められて父上も嬉しそうにアイコの戯言に反応してしまう。それで調子づいたのかアイコが無駄にカッコいいポーズを決めて「よくぞ聞いてくれました!」と大見得を切る。
「なにを隠そう、私は超優秀なモンスターテイマーなのです! その証明として、いまこの場に最強のモンスターを召喚してみせましょう」
「おお、それは楽しみね」
「どんなの凄いのがでるのか」
アイコの自信に、父上と母上が期待するような視線を向ける。
でも、ちょっと待て。お前クラーケン以外に使役してるモンスターなんていたか? いくら点数稼ぎでも嘘は良くないぞ。
すると、アイコは指を口で加えて「ぴゅる~」と情けない口笛を奏でる。
お前まさか・・・・・・嫌な予感がして外に目を向けると
(ガハハハ、我ついに参上!)
巨大なレッドドラゴンのピーちゃんがソラを飛んでいた。
「このレッドドラゴンのピーちゃんこそ、私がテイムしてる最強のモンスターなのです!」
「「おおー!」」
アイコが決まったとばかりに、ふっと笑う。父上と母上は勇ましいドラゴンの様子に感嘆の声をあげて「素晴らしい!」と拍手で称える。
ただ、ちょっと待てい!
これは一体どういうことだ!?
(おい、ピーちゃん! なんでお前がアイコにテイムされてることになってるんだよ!)
(ゆ、許せ主ぃ。だって、こうでもしないと、我だけいつも仲間外れでさびしいんだもん)
(ふ・ざ・け・る・なっ! 寂しいんだもんじゃありません! お前これじゃ、両親が本当にアイコを有能だと勘違いして、家に置いちまうだろ)
(ええ、だって居候にするって約束では?)
(んなもん方便にきまってんだろ! アイツの無能っぷりをさらして徐々に追い出す俺の計画がぁ~)
(そ、そんな作戦、我知らなかったぞ!?)
テレパシーでこっそりピーちゃんと会話をしていた俺は、まんまとアイコの作戦にハマったと悟り頭を抱える。その間にも、アイコは家の両親と交渉を進めていたらしく・・・・・・
「ということで、しばらく私をこの家に置いてはくれないだろうか?」
「もちろん大歓迎よ。こんなに凄い人がいれば、我が家は安全ね」
「うむ、幼い子供もいるし、護衛にちょうどいいなっ、わっはっは!」
こうして、アイコの居候が正式に決まったのだった。
はあ、家族水入らずの俺の幸せな時間が・・・・・・・けど、決定したものは仕方がない。せいぜいこき使ってやるか。
終わったことをくよくよ後悔しても始まらないので、気持ちを切り替えて俺はタコパの用意を始めるのだった。
◇
「では、これよりタコパを始める!」
イカロス爺さんがそう宣言して、焚火の上に置いた鉄板に黄味がかった謎の液体を流し込んでいく。鉄板には等間隔で丸い凹が並んでいる。なんでも、たこ焼きをするのに必須のアイテムなんだとか。
「イカロスじいさん、よくすうじつでこれ用意できたね?」
素直に気になったので聞くと
「わっはっは、こんなの鉄板を親指で押し込めば楽勝でつくれるぞ」
イカロス爺さんは事も無げにそう言う。
いや、高位の冒険者でもそんな芸当できるとは思えないのだけど。このジジイ本当に人間かよ?
そうこうする内に、イカロス爺さんは次の食材を手に取る。
「そして、ここで我らが孫が仕入れてきた食材の出番じゃ! 一口大に切ったクラーケンの足を、鉄板の穴に一つずつ入れてじゃな」
ぽつ、ぽつ、とクラーケンの足を落としていく。さらに、事前に細かくカットしていた青ネギと、揚げ物のカスのようなものを全体に散らばせていく。
見たこともない料理に、全員が興味津々で鉄板を覗く。
すると、イカロス爺さんは長い櫛を取り出して、鉄板の穴へと差し込み、ごそごそと櫛を動かす。
「ゆくぞ!」
そう気合いを入れると、イカロス爺さんは器用に櫛を操り、なんと! 鉄板にの凹みに入っていた、生地をひっくり返してみせた。
「「「「おお~」」」
まるで神業のごとき手際に誰もが驚きを隠せない。
そして、ひっくり返した生地は、美しい茶色い焼き色。ジュウジュウ焼ける音と、次第に香ってくる香りに、俺はゴクリと唾を飲み込む。
一体どんな料理ができると言うのだ!
その後、イカロス爺さんは手際よく、全てのたこ焼きをひっくり返し、焼き終えた物から順に器へ盛り付けていく。
最後に、特性のソースとかいう、茶色い液体をかけて
「完成じゃ!」
と宣言する。
器の上には、丸くて可愛い、コロコロとした物体が並んでいる。こ、これがタコ焼きというやつなのか!
「本当は干した魚の削りなども加え風味をあげるのじゃが、内陸のこの地域ではこれが限界じゃな! さあ熱い内にすぐ食べるとよい」
俺は櫛をさして、たこ焼きを一つ持ち上げる。立ち上がる湯気にのって、あまいソースの香りが食欲を刺激する。これは期待大だ。もう我慢できないっ。
大きさ的に、小さな俺の口では、一口で入りきらないので、パクっとかぶりつく。
「はふはふはふ、あっふい!」
な、なんだこれ!?
熱くて全然味がわからない。
しかし、しばらく口の中に空気を送り込んで冷ましていくと、じんわりとソースの風味が広がっていき、生地の味と混ざり合う。
「う、うまいっ!」
素晴らしい!
外はカリとして中はフワフワだぁ。
これがタコ焼きなのか!?
中に入ってるクラーケンの足がいいアクセントになっている!
「うおおおお、旨いです! 最高です! もっと下さい!」
(我にはちと小さすぎるが、良い味付けじゃ!)
(おいしい)
アイコも、ピーちゃんも、リリアもパクパクと食べ進めていく。わかる、わかるぞ。これは食べる手が止まらなくなるよ。
でもあれ? アイコお前あんだけクラーケン愛について語ってたくせに、食べるのは平気なのかよ! 本当によくわからん奴だ。
そして、俺は一番楽しみにしていた、母上と父上の反応を見る。
「美味しいわね~。私こんな美味しい物はじめてたべたわ」
「うーん、たまらんな! 毎日食べたいくらいだ」
二人とも、タコ焼きを食べて、とても幸せそうな顔をしている。ああ、食材を用意するまでに色々と大変だったが頑張ってきてよかった。母上の笑顔のためなら、俺は何度でも頑張れる気がする!
安心してください母上!
不肖な息子ではありますが、もっと精進して、いつかこんな食事が当たり前に出来る家になるよう、お金をザックザック稼いで我が家の家計を助ける所存でございます!
こうして、俺の初めての親孝行は幕を閉じるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初めてお気に入り1000件いきました!
皆様ありがとうございます。(やったー!)
次回で、この章の最終話になります。
「あら、くーちゃんおかえりなさい」
久しぶりにマイホームに帰宅した俺は、母上に駆け寄りハグしてもらう。
初めての長旅で、身も心もすかっり疲れ果ててしまったよ。けれども、そんな疲労も愛する母上に抱きしめてもらえれば、全て吹き飛んでしまうのさ。
母上の胸に顔を突っ込んでいると、ゴツゴツとした手で頭をなでなでされれる。顔をあげると父上が、いぶし銀な笑顔で俺を見つめていた。
「おお、ルークよ! たった数日会っていなかっただけだが、まるで見違えるようだぞ。やっぱり男の子は成長が早いな」
「あなた、大袈裟よ」
親馬鹿っぷりを発揮する父上に、母上が突っ込みをいれる。これだよ、これ。この平和な家庭が好きだから、俺はこの数日頑張ってこれたのだ。
「それにしても、随分と大勢だな」
父上がそうつぶやき、家の入口に目を向ければ、そこにはリリア、アイコ、イカロス爺さんがいる。あ、陽炎の二人はここにはいない。あいつらは、ベルモンド領に到着した時に、街で下ろした。今後は、この街を拠点に冒険者活動を続けていくらしい。で、時間がある時に俺に修業をつけてもらいたいそうだ。まあ、アイツらは将来有望な冒険者っぽいから、この街で存分に活躍して、ベルモンド領の発展に貢献してもらいたい。
「イカロスさん、お久しぶりです」
父上とイカロス爺さんが握手を交わす。
二人はどうやら顔見知りみたいだ。小さな街だし、こんな目立つ爺さんは嫌でも目立つから、当たり前といえ当たり前か。
「領主よ、元気そうでなによりじゃ。いつも、うちの孫が世話になっているらしいのう」
「こちらこそリリアちゃんには助けてもらっています。ところで、本日は一体どんな御用で?」
「なに、聞いておらんのか? ほれルークや、説明してやれ」
ふふふ、ついにこの時がきたか。
俺はイカロス爺さんにそう言われて、胸を張り堂々と説明する。
「じつは! ははうえとちちうえには内緒で、サプライズパーティーの準備をしていたのです! 食材はおれと、リリアで集めました!」
「まあ!」
「それは凄いじゃないか!」
父上と母上が驚き感嘆の声をあげる。
くう~、気持ちいぃ。
俺はこの瞬間のために頑張ってきたと言っても過言ではない。早く両親の喜ぶ顔がみたんじゃ! さあ、パーティーをはじめようじゃないか。
俺は名残惜しいが母上の抱っこからおりて、準備を始めようとする。すると、アイコが杖でツンツンと俺をつついてくる。はやく両親に私を紹介しろとでもいいたげだ。ちっ、あわよくばこのままスルーして、現地解散という名目で別れを告げようとおもっていたのに。
「あ、あの母上。ここにいる黒髪の少女なんだけど」
「言われえてみれば見ない顔ね? はじめましてかしら」
母上がそういうと
「いやー初めまして! あなた様がルーク君のお母さまでしょうか!? なんと若くてお美しい。とても一児の母とは思えない。あ、申し遅れました私、モンスターテイマーのアイコと言います! ルーク君とは最近出会って、とても仲良くさせて頂いております! ああ、それにしても噂では聞いておりましたが、本当に綺麗で可憐な方ですねぇ~」
アイコは自分の話題が上がるのを待っていましたとばかり、大声で名乗りをあげる。コイツ、調子に乗りやがって。いくら点数稼ぎとはいえ、母上にそんな見え透いたおべっかが通用すると思ってんのか! ねえ母上?
「あら~、とても良い子じゃない。うふふ、綺麗だなんて・・・・・・クーちゃんは良い友達が沢山いるのね」
いや母上!?
違う、騙されないで。ソイツは、ただ我が家に寄生したいだけの害虫ですぞ!
「アイコ君といったか、テイマーとのことだが、どんなモンスターを使役してるのかね?」
家族を褒められて父上も嬉しそうにアイコの戯言に反応してしまう。それで調子づいたのかアイコが無駄にカッコいいポーズを決めて「よくぞ聞いてくれました!」と大見得を切る。
「なにを隠そう、私は超優秀なモンスターテイマーなのです! その証明として、いまこの場に最強のモンスターを召喚してみせましょう」
「おお、それは楽しみね」
「どんなの凄いのがでるのか」
アイコの自信に、父上と母上が期待するような視線を向ける。
でも、ちょっと待て。お前クラーケン以外に使役してるモンスターなんていたか? いくら点数稼ぎでも嘘は良くないぞ。
すると、アイコは指を口で加えて「ぴゅる~」と情けない口笛を奏でる。
お前まさか・・・・・・嫌な予感がして外に目を向けると
(ガハハハ、我ついに参上!)
巨大なレッドドラゴンのピーちゃんがソラを飛んでいた。
「このレッドドラゴンのピーちゃんこそ、私がテイムしてる最強のモンスターなのです!」
「「おおー!」」
アイコが決まったとばかりに、ふっと笑う。父上と母上は勇ましいドラゴンの様子に感嘆の声をあげて「素晴らしい!」と拍手で称える。
ただ、ちょっと待てい!
これは一体どういうことだ!?
(おい、ピーちゃん! なんでお前がアイコにテイムされてることになってるんだよ!)
(ゆ、許せ主ぃ。だって、こうでもしないと、我だけいつも仲間外れでさびしいんだもん)
(ふ・ざ・け・る・なっ! 寂しいんだもんじゃありません! お前これじゃ、両親が本当にアイコを有能だと勘違いして、家に置いちまうだろ)
(ええ、だって居候にするって約束では?)
(んなもん方便にきまってんだろ! アイツの無能っぷりをさらして徐々に追い出す俺の計画がぁ~)
(そ、そんな作戦、我知らなかったぞ!?)
テレパシーでこっそりピーちゃんと会話をしていた俺は、まんまとアイコの作戦にハマったと悟り頭を抱える。その間にも、アイコは家の両親と交渉を進めていたらしく・・・・・・
「ということで、しばらく私をこの家に置いてはくれないだろうか?」
「もちろん大歓迎よ。こんなに凄い人がいれば、我が家は安全ね」
「うむ、幼い子供もいるし、護衛にちょうどいいなっ、わっはっは!」
こうして、アイコの居候が正式に決まったのだった。
はあ、家族水入らずの俺の幸せな時間が・・・・・・・けど、決定したものは仕方がない。せいぜいこき使ってやるか。
終わったことをくよくよ後悔しても始まらないので、気持ちを切り替えて俺はタコパの用意を始めるのだった。
◇
「では、これよりタコパを始める!」
イカロス爺さんがそう宣言して、焚火の上に置いた鉄板に黄味がかった謎の液体を流し込んでいく。鉄板には等間隔で丸い凹が並んでいる。なんでも、たこ焼きをするのに必須のアイテムなんだとか。
「イカロスじいさん、よくすうじつでこれ用意できたね?」
素直に気になったので聞くと
「わっはっは、こんなの鉄板を親指で押し込めば楽勝でつくれるぞ」
イカロス爺さんは事も無げにそう言う。
いや、高位の冒険者でもそんな芸当できるとは思えないのだけど。このジジイ本当に人間かよ?
そうこうする内に、イカロス爺さんは次の食材を手に取る。
「そして、ここで我らが孫が仕入れてきた食材の出番じゃ! 一口大に切ったクラーケンの足を、鉄板の穴に一つずつ入れてじゃな」
ぽつ、ぽつ、とクラーケンの足を落としていく。さらに、事前に細かくカットしていた青ネギと、揚げ物のカスのようなものを全体に散らばせていく。
見たこともない料理に、全員が興味津々で鉄板を覗く。
すると、イカロス爺さんは長い櫛を取り出して、鉄板の穴へと差し込み、ごそごそと櫛を動かす。
「ゆくぞ!」
そう気合いを入れると、イカロス爺さんは器用に櫛を操り、なんと! 鉄板にの凹みに入っていた、生地をひっくり返してみせた。
「「「「おお~」」」
まるで神業のごとき手際に誰もが驚きを隠せない。
そして、ひっくり返した生地は、美しい茶色い焼き色。ジュウジュウ焼ける音と、次第に香ってくる香りに、俺はゴクリと唾を飲み込む。
一体どんな料理ができると言うのだ!
その後、イカロス爺さんは手際よく、全てのたこ焼きをひっくり返し、焼き終えた物から順に器へ盛り付けていく。
最後に、特性のソースとかいう、茶色い液体をかけて
「完成じゃ!」
と宣言する。
器の上には、丸くて可愛い、コロコロとした物体が並んでいる。こ、これがタコ焼きというやつなのか!
「本当は干した魚の削りなども加え風味をあげるのじゃが、内陸のこの地域ではこれが限界じゃな! さあ熱い内にすぐ食べるとよい」
俺は櫛をさして、たこ焼きを一つ持ち上げる。立ち上がる湯気にのって、あまいソースの香りが食欲を刺激する。これは期待大だ。もう我慢できないっ。
大きさ的に、小さな俺の口では、一口で入りきらないので、パクっとかぶりつく。
「はふはふはふ、あっふい!」
な、なんだこれ!?
熱くて全然味がわからない。
しかし、しばらく口の中に空気を送り込んで冷ましていくと、じんわりとソースの風味が広がっていき、生地の味と混ざり合う。
「う、うまいっ!」
素晴らしい!
外はカリとして中はフワフワだぁ。
これがタコ焼きなのか!?
中に入ってるクラーケンの足がいいアクセントになっている!
「うおおおお、旨いです! 最高です! もっと下さい!」
(我にはちと小さすぎるが、良い味付けじゃ!)
(おいしい)
アイコも、ピーちゃんも、リリアもパクパクと食べ進めていく。わかる、わかるぞ。これは食べる手が止まらなくなるよ。
でもあれ? アイコお前あんだけクラーケン愛について語ってたくせに、食べるのは平気なのかよ! 本当によくわからん奴だ。
そして、俺は一番楽しみにしていた、母上と父上の反応を見る。
「美味しいわね~。私こんな美味しい物はじめてたべたわ」
「うーん、たまらんな! 毎日食べたいくらいだ」
二人とも、タコ焼きを食べて、とても幸せそうな顔をしている。ああ、食材を用意するまでに色々と大変だったが頑張ってきてよかった。母上の笑顔のためなら、俺は何度でも頑張れる気がする!
安心してください母上!
不肖な息子ではありますが、もっと精進して、いつかこんな食事が当たり前に出来る家になるよう、お金をザックザック稼いで我が家の家計を助ける所存でございます!
こうして、俺の初めての親孝行は幕を閉じるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
初めてお気に入り1000件いきました!
皆様ありがとうございます。(やったー!)
次回で、この章の最終話になります。
31
お気に入りに追加
1,034
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる