上 下
23 / 30

ドムトム領 山岳地帯

しおりを挟む
ドムトム領の山岳地帯に、俺達は訪れていた。
現在、周囲に人はいないのでピーちゃんも一緒だ。
ここに来るまでの道のりも、ピーちゃんの背中にのってショートカットしてきた。すごく便利だ。ほんとに、出会った時に殺さないでよかったと、つくづく思うよ。

(主よ、ハイキングは気持ちがいいなあガハハハ)

のっしのっしと、邪魔な木を倒しながらピーちゃんが歩く。

(おいおい、あまり木を倒すなよ。環境破壊はよくないぞ)

(わかった! 気を付けて歩こうぞ)

注意すると、上機嫌かつ従順に従うレッドドラゴン。完全に野生の心を失っている。こいつにはプライドとかないんだろうか? すると、隣を歩いていたリリアが不満そうに口を開く。

「ねえ、結局クラーケン探しにここまできちゃったけど本当によかったの? アイコさんには諦めるって言ったのに・・・・・・」

「だ、だいじょうぶだよ。お、おれはつねに1000手さきをよんでこうどうしてるからね。とっさのいいわけも考えてある」

そう、アイコにはああ言ったが、あきらめの悪い俺は忠告を破り山岳地帯にやってきた。約束を破ったのが悪かったのか、終始リリアが厳しい視線を向けてくる。やりづらいったらありゃしない。

そりゃーね、俺もアイコの夢の話を聞かされた後では、八本足のヌルウネ君を殺そうとまでは思わないよ?

でもさー・・・・・・俺はやっぱ諦めきれないっ

だって、イカロス爺さんの話を覚えてるか?
外はカリカリで中はフワフワの食べ物なんて・・・・・・聞いたこともないっ!

どんな味で、どんな触感がするのか、想像できる?
いんや無理だね。こちとら、伊達に貧乏貴族してない。食卓に並ぶのは痩せて骨ばった川魚と、かったいパンだよっ!?

外はカチカチ、中もカチカチだぁ。
石じゃないんだから。そんな物ばかり食べさせるのは愛する家族に忍びない。

いいじゃん。
足8本もあるんだからさ、少しくらい。
なにも3本とは言わない。たったの1本でいいっ。
最悪、一本なら引っこ抜いてもアイコは気づかないって。どんくさそうだったし。

・・・・・・と、声をだいにして叫びたかったが、流石にそれは出来なかった。これ以上リリアに嫌われても大変だからね。

だから、もちろんリリア用の言い訳も用意してある。

「いいかリリア。おれはヌルウネ君をたおしにきたのではないのだよ」

「じゃあなに?」

「リリアとピーちゃんの修行だよ。ヤマにはつよいモンスターがたくさんいるみたいだからね。いいれんしゅうになるとおもって」

そうこう言ってる内に、目の前に大きな熊のモンスターが現れた。
背中から炎が吹き上げている。
あれは、冒険者が噂していたバーニングベアというやつか?

ちょうどよさそうな相手だ。
俺はリリアに向かって言う。

「とりあえず、あれとたたかってみてよ」

リリアは、バーニングベアをジロジロ観察して

「・・・・・・わかった。やってみる!」

と急にやる気を出す。

すると

(主! さすがにアレはリリアには無理だ。死んでしまうぞ)

とピーちゃんが大騒ぎする。

「だいじょうぶ、かいふく魔法かけながら戦わせるから。だからリリアも気にせずつっこんでいきな」

俺が軽い感じでいうと、リリアは「うん」とうなずき、持ってきた脇差を構える。ちなみに、これはジョーカーから譲り受けた刀だ。いまの俺には大きすぎるからリリアに、旅の間だけ貸し与えている。

バーニングベアに向かっていくリリアを、ピーちゃんはオロオロしながら見守っている。

(あ、悪魔だ。悪魔がここにるぞぉ。普通幼馴染にそんなことする奴おる!? 主、はやく辞めさせるのだ!)

うるさいなぁ。
だって、こうでもしないと人間が人外のように強くなる方法ないじゃん。

「あ、そうだ。あの魔力のコントロールもわすれずにね。さいしょはできないと思うから、リリアにはせんとう中、おれの圧縮した魔力をわたしつづけるから頑張ってコントロールしてみて。失敗したら魔力暴走でからだが、ばくはつするから気を付けるように」

「あい」

魔力って不安定で意外とあぶないんだよね。
俺も初めて自分の魔力を確認した時、大量の魔力垂れ流しにした記憶がある。あれ、俺だから出来たけど、普通の人があんなことしたら、多分周囲一帯弾け飛んでたと思う。

まあ、リリアなら俺のサポートもあるし、センスも高そうだからいけるっしょ。

「あ、ぴーちゃんは邪魔だから、てきとうにえものさがしてたたかってきて。魔法も魔力コントロールできるまで禁止ね」

(なんか我だけ扱い雑くない?)

そういって、ピーちゃんは一人で寂しそうに飛び立っていった。



「ハア、ハア、ハア・・・・・・うっ」

ボロボロのリリアが、その場でうずくまる。

周囲の木々はほとんどなぎ倒されており、その中心には息絶えたバーニングベアが横たわっている。結局、一匹たおすのに6時間以上かかってしまった。とっくに日は落ちて、夜になっている。

倒すまでに、リリアは何度もバーニングベアの攻撃を受けて大きな怪我を負った。
その度に、俺が治してやったわけだが・・・・・・

倒れたリリアに近づく。息をするのも苦しそうだ。
少しでも楽になればと、背中をなでてやる。

「いつでもやめていい。べつにリリアが強くなくたって、俺はさいきょうだから、困らないし、リリアがこまったら、あの夜の日みたいにすぐにかけつける」

呼吸も絶え絶えなリリアだが、力強く首を横に振る。

「わたしのほうがお姉さんだから・・・・・・」

そう言って、リリアは力尽きて眠ってしまった。

俺はリリアを担ぎ、安全そうな場所に移動する。

お姉さんだから・・・・・・
その後につづく言葉は一体なんだろうか。

お姉さんだから俺を守る?
お姉さんだから諦めない?

答えはわからない。
ただ、どちらもリリアなら言いそうだなと思った。

生まれた時から最強だった俺には、自分の身体を痛めつけてまで強くなろうとするリリアの気持ちを、本当の意味で理解してあげることは難しいのかもしれない。それでも、リリアが修業をしたいと望む限りは、幼馴染として最後まで全力で付き合うつもりだ。
そういう約束だしね。





その後、俺は一人で修業していたピーちゃんと合流して一緒に眠りについた。


―――翌朝。

「君たち! 子供がこんな場所でなにしてるんだ!」

偶然通りかかった2人組の冒険者の声で目が覚めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる

まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。 そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...