没落貴族に転生したけどチート能力『無限魔力』で金をザックザック稼いで貧しい我が家の食卓を彩ろうと思います~

街風

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魔法少女アイコ

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突然会話に割り込んできた黒髪黒目の少女の名前はアイコというそうだ。
年齢は15歳。背は低く、それを誤魔化すように大きな三角帽子をかぶっている。

ギルドでのやり取りの後、俺達はアイコに連れられて、美味しいジュースが飲めるお店に来ていた。

「ほんっとに! 冒険者の人達は分かっていないんですっ、クラーケンの可愛さと尊さがっ!」

「はあ」

俺とリリアは、おススメされた果肉入りジュースをズルズルのみながら、会話に合わせて頷く。

「あのヌメっとして、にゅるにゅるなとこがいいのに、それをキモイだのウンコだの、品性の欠片もない! ね、君たちもそう思うよね!?」

アイコが机を叩き、俺達にそう問いかけてくる。
これは・・・・・・なんて答えるのが正解なのだろう。

ギルドからここまでのやりとりで、アイコが異常なまでのモンスター好きということは分かった。彼女が扱う魔法も使役魔法がメインだそうで、俗にいうモンスターテイマーというやつらしい。

なかでも、とびきりお気に入りなのがクラーケンで、それを馬鹿にされるのが我慢ならなかったとか。

まあ、人の趣味はそれぞれだから、口出しするつもりはないが圧をかけて同意を求めてくるのはやめて欲しい。見ろ、リリアなんて怯えてひたすら目を逸らしている。

「それに比べ君たちはとても素晴らしい感性を持ち合わせている! さあ、クラーケンの良さについて、もっと語り合おうじゃないか!」

キラキラ目を輝かせたアイコが、屈託のない眼差しで俺とリリアを見つめる。どうしよう・・・・・・この人、俺達がクラーケンをただの食材としか見てないと知ったらどんな反応をするだろうか。

気まずくなった俺は、テーブルの下でリリアを肘でつつき『リリアが説明して』と催促するが、リリアはジュースに夢中なフリをして、額に冷や汗を流しながら完全に無視。しつこく続けると、お返しとばかりにつま先で俺をツンツンしやがった。コイツ、普段からルークを守るのが私の役目とか言ってたくせに、都合の良い時だけスルーかよっ!


し、しかし!
しかしだ!
見方を変えればこれは逆にチャンスなのでは?
もはや狂人といって差し支えない領域にまで足を踏み込んでいるクラーケンマニアな彼女だ。居場所を知ってても変ではない。
ここは、おれの磨き上げた交渉術で聞き出してやろうじゃないか。

「実はおれたちクラーケンをみたことないんだ。アイコはどこにいるか知ってる?」

「もちろん! 本当は、これは誰にも喋っちゃいけないのですが、同好の士として特別に教えちゃいます!」

鼻息を荒くふかし、興奮した様子のアイコが言う。

「この街から山三つ離れた場所にクラーケンが一匹だけいるんですよ! よかったら今度見学にいきますか? 遠目でみる分には安全だよ?」

おお、早速聞きたかった情報が手に入ってしまった。
俺はなんと運の良い奴なんだ。
これで、予定より早く家に帰れる。若干ホームシック気味の俺にはこれ以上ない朗報だった。

「子供が歩いて行くには遠いけど案内してあげる! 実はね、私クラーケンをテイムするのがずっと夢だったの。だから、定期的にその場所に通ってるんだ」

そういってアイコが嬉しそうに笑う。

わお・・・・・・んー、なんだろ聞きたくなかったな。
俺達、これからソイツを殺して食べようとしてるんだけど大丈夫そ?
すごく気まずいんだが。
俺の直観が、これ以上この場にいたら、さらに地獄のような空気になるとささやいてくる。

ふっ、俺は強さだけではなく、危機管理能力も超一流だ。
食材に感情移入したら、美味しい物も美味しく食べれなくなる。
そうなる前にさっさと帰ろう。さあ、いますぐにっ!

「んんー、け、けんがくはやっぱいいや。俺達はおうちにかえるよ」

そう伝えると、さっきまで元気だったアイコががっくりと肩を落とす。

「・・・・・・そうですか」

「うん、おもしろいはなしがきけてよかった。ジュースごちそうさま」

そういって、俺は自分の身長より高い椅子から飛び降りて帰り支度を始める。
これ以上の情報収集は必要はない。

すると、リリアが俺の服を掴み、しょぼんとしてるアイコを指さしながら、小声でささやく。


「ねえいいの。あのおねえさんの夢だって・・・・・・」

ば、ばか。リリアこの野郎。
特大の爆弾を投げるんじゃない。
俺だって若干気まずいんだから。
夢なんて言われたら、食べれなくなるだろ!
あえてスルーした話をほじくりかえさないで。

「ほ、ほ、ほら。あし8本もはえてるっていうし、3本くらい抜いてもバレないんじゃない?」

「そういう問題かな?」

幼馴染の幼女が非難するような目で見つめてくる。

わ、わかったよ。
正直に話せばいいんでしょ。だからそんな怖い目をしないでくれよ・・・・・・・



「い、いまなんて?」

小さな声でアイコがそう言った。

「だ、だから、ほんとうは食べるもくてきでして」

さらに小さな声で俺はそう返した。

目の前にはプルプル怒りと悲しみで震えるアイコの姿。

周囲の目もはばからずに、アイコは店のテーブルを全力で叩く。

「信じられないっ! 君たちは私を騙したのね!」

「そんなつもりじゃなかったけど・・・・・・結果的にそうなったというか」

むしろ、そうならない様に早々に話を切り上げてたかったんだけど。
しかし、怒り狂ったアイコに俺の気持ちが伝わるはずもなく・・・・・・

「私がクラーケン好きなのは最初から知ってたじゃん! 私言ったよね? 絶対に言ったよね、ねえ、ねえ!?」

コイツっ、そんなに鬼の首をとったように責めたてなくてもいいだろ。
俺だって正直に話したんだから情状酌量の余地くらいあるはずだ。

「ほら、はやく答えてってば! どうなの!?」

「・・・・・・き、きおくにございません」

「はあ!? そんなクソ政治家みたいないいわけが通じるとおもってるのかー」

涙目の黒髪の魔法使いが、俺のキュートボディーを掴みゆさゆさ揺らしてくる。
ずっと黙っていたリリアが助けに入る。

「お姉さんごめんなさい。もうあきらめるから落ち着いて」

「り、りりあっ! なにいってるんだ。せっかく、こんな場所まできたのに!」

「クーは黙ってて」

異論はみとめない。
リリアはそんな態度で俺を叱りつける。

すると、アイコも少し落ち着いたのか、ようやく俺から手を離した。

「ハア、ハア、ハア、ごめんつい熱くなってしまった。でも、君たちが悪いんだからね。 あ、クラーケンあの子は私にとってすごく大切なものだから」

ずっと気になっていたが、アイコは何故そこまでクラーケンにこだわっているのだろう? あの子なんて、まるで自分の子供のように呼ぶじゃないか。

「テイムしたいきもちはわかるけど、しょせんモンスターだよね。アイコはどうしてクラーケンじゃないとだめなの?」

「そ・・・・・・それは」

アイコは口を閉じて言いよどむ。
それからしばらく間をあけて、言う。

クラーケンあの子と私は一心同体なの。君たちが想像する以上の事情がある。だから、いい? 今日知ったことを口外してクラーケンの居場所がバレるようなことがあれば・・・・・・たとえ子供だろうと私は君たち殺す」

もう喋ることはないとばかりに、アイコは荷物をもって店を出ていく。
律儀にジュース代の支払いだけはしてくれたようだ。

その後、俺達も店をでた。



それから数時間後。
冒険者ギルドにて、数名の冒険者がクラーケンの居場所を偶然発見したという報告が入るのだった。

もちろん、俺達はまだそのことを知らない。
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