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最強の1歳児、冒険者ギルドでいびられる

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——それから月日は流れ。

 リリナとの出会いから1年が過ぎた。
俺はハイハイから二本足で堂々と歩けるようになり、声帯も成長して言葉を巧みに操るまで成長した。特に可愛さに関しては日々磨きがかかっており、自分でも恐ろしいと感じるほどだ。

 そんな俺だが、この1年間ずっと悩んでいることがある。
それは……

「クー、今日はなにして遊ぶ? ねえねえ、ねえってば」

 駄々っ子のようにしがみついて俺を揺さぶる幼女、リリナに四六時中付きまとわれていることだ。こいつ、あの日から一日も欠かさず、押しかけ女房のようにやってくる。絶対ちょっと、サイコが入ってるって。

 俺は家計を助けるために就職活動をしたいのに、どこにいてもコイツがいるせいで自由に行動ができない。

これまでリリナの目をどうにか掻い潜ろうとしてきたが、リリナの俺への愛着はすさまじく、もはや離れて行動するには無理があると、ようやく悟った。

 だから、作戦をかえることにした。もうリリナは常に一緒にいるものとして、積極的に懐柔していこう作戦だ。

「りりな」

「なにクー、また騎士ごっこする?」

「ちがう。きょうはね、いきたいところがあるの」

「ふーん、どこ?」

「ははうえと、ちちうえには内緒にしてくれる?」

「うん、いいよ。二人の秘密だね」

 俺はその言葉に頷き、周囲を窺い、誰もいないことを確認して言った。

「りりなと二人でパーティーを組んで、冒険者ぎるどにいこうとおもうけど、ついてくる?」

 俺は家計を助けるため、この幼女と二人でパーティーを組み、最強の冒険者になるつもりだ。

「ふーん、今度は冒険者ごっこね。わかった!」

冒険者ギルドの場所を知っているという、リリナに手をひかれて、ついていく。
リリナは三歳年上だからって、いつもお姉さん気取りだ。

「りりな、よく冒険者ぎるどの場所知っていたね」

「おじいちゃんが、趣味でたまに山でモンスター狩りするから知っているの」

 最強すぎん? リリナのジジイ。
趣味でモンスターって狩るものなの?
そういえばリリナも、騎士ごっこのとき妙に太刀筋がいい。あれは遺伝だったのか。

「ついたよ、ここが冒険者ギルドだよ」

「ふえー」

連れてこられた建物を見上げると、ボロくさい木製の建物だった。

ふふふ、ついにきたぜ。
やっと、就職活動ができる。ここまで長い道のりだった。

父上、母上、待っていて下さい。
いまあなたの息子がモンスター狩りをして、ひと稼ぎしてきます!

 意気揚々と今度は俺がリリナの手を引いて、扉を開けて中に入る。
すると、大勢の視線が俺達に一気に集中した。ギルドの中にはいかにも荒くれ者といった雰囲気の男女が沢山だ。むさ苦しい匂いが部屋に漂っている。

そして、なぜか全員が無言で、俺達をみていた。

あれぇ?
やけにしずかだなぁ、さっきまで扉ごしに笑い声やら雑談する声が聞こえていたのに……まぁ、いいか。

俺は奥の受付カウンターに座る、若い女の人のところまで歩いて声をかける。

「すみません」

「は、はいどうしたのかな僕? 遊びにきたの?」

「ち、ちがいます」

「じゃ、お母さんになにか頼まれたの? はじめてのお使いかな??」

「ちがいます!」

ナメるなよ。
はじめてのお使いなんて、伯爵のポークビッツを切り落とした時に、とうに終えとるわ。

「りりなと、ぱーてぃーを組んだので、冒険者登録をしにきました」

「あー、そう、新人さんね。じゃこちらの書類に記入を、って、えええええええええええぇぇぇぇ!!!??」


女は手に持っていた、書類とペンを落として叫び声をあけだ。

「びっくりした、冗談でしょ!?」

「じょうだんじゃないよ。ぼくたちは、さいきょーの冒険者になってモンスターを狩りにきたの」

「えー、年齢制限はないけど、いくらなんでもねぇ?」


受付の女が戸惑っている様子で固まっていると、さっきまで黙って見てた奴らが、突然大声をだして笑い始めた。

すると、男三人組が近づいてきて、ニヤニヤとした表情で話しかけてくる。

「はははは、こいつぁ最高だぁ。王国史上最弱のパーティーじゃねぇか」

「ちげぇーねえ! 笑わせてくれるぜ!」

「おい、冒険者なら俺たちの依頼うけてくれよ。そうだなぁ、毎朝俺様の尻の穴でも拭いてもらおうか?」

 ガハハハと男達は下品な笑い声をあげる。
俺はそのあまりにもふざけた態度に、プッチンときた。
生物として俺より遥かに劣る、劣等種ごときがなにいってんだ?
ポークビッツ切り落とすぞ!?


「ぼくたちは、さいきょーのぱーてぃーだ、馬鹿にするな!」

「はっはっは、怒ってるぜ、こいつ。お嬢ちゃんもこんな短気な奴より俺らと一緒の方がいいだろ?」

そう言って、ソイツはリリナを後ろから抱きかかえた。

「離して下さい。気持ち悪いです」

「つれないこと言うなよ。おじさんと楽しい、楽しい、あちょびをしましょーねっ」

「あーあ、終わったなこの子。こいつはガチもんのロリコンだぞ」

 リリナが嫌がって、汚い手を振払おうとするけれど、力で負けているせいで離れられない。その光景に俺は全身の血が沸き立つような感覚になった。このままでは、人目が多いのに理性が吹き飛びそうだ。

「お、おい返せ小僧!」

俺は近くのテーブルで、食事をしていたやつから、ステーキナイフを奪い取り、そいつ等に向ける。

「しにたくなければ、りりなを離して、許しをこえ劣等種ども」

「はぁ、何言ってんだコイツ? 死にたくなかったらそのナイフを下げな」


 慈悲で与えた助言を、小汚い男どもは笑って受け流す。
所詮馬鹿に言っても無駄か・・・ならその命をもって償わせてやる。

「死ね」

 俺は殺す気でステーキナイフ振り抜いた。
容赦はしない。魔力を込めた、必殺の威力だ。
間違いなく、男達は冒険者ギルドでその臭いからだを、真っ二つにされる——はずだった。


しかし……

『キイィィン!』と金属がぶつかりあう高い音が鳴ると、俺が振りぬいたナイフは、突然現れたオッサンの剣の鞘で遮られてしまった。

―――コイツ、俺のナイフを止めやがった。

俺は驚き、そのおっさんを見つめると、視線がぶつかり向こうが嬉しそうに笑った。

「お前達、その娘を離してやれ」

「なんだジジイ? みねぇ顔だな」

「通りすがりの冒険者さ。さぁ、早くその子を離せ。さもなくば私がお相手しよう」


オッサンが鞘から剣を引き抜いて威嚇すると、三人組はビビってリリナをおろした。

「りりな、大丈夫?」

「うん、臭かった」

おっさんの気迫にやられた男共は、わかりやすい虚勢を張って、何事もなかったように振舞う。

「ふん、まぁ俺達も遊びが過ぎたな。今日は引き上げるとするべ」
「んだんだ」
「さー仕事にいこか」

と、あっけなく三人組は去っていく。
本当なら地獄まで追っかけて殺してやるところだ。

だが、俺の興味はもうあんな雑魚どもから離れていた。
俺はステーキナイフを止めたおっさんの顔をもう一度みあげる。
人の良さそうな笑顔で、こちらを見つめていた。


俺も思わず笑顔がこぼれてしまう。

ふふふ、こいつ


───強いな。
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