ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風

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討ち入り、悪は滅する過激派のパパ

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ドタバタという激しい足音がそこかしこから聞こえ、その振動で壁に立て掛けていたランプが揺れる。

ディズモンは焦っていた。
ヴァリアンツ領にあるアジトで明日行われる儀式の準備をしていたら、息を切らした部下がノックもせずに部屋に乗り込んできたのだ。

「ヴァリアンツ軍が我らを討ち取るために挙兵しております」

その者は、ディズモンが偵察でヴァリンツ家を見張らせていた男だった。

その一声で、アジト内はハチの巣をつついた大騒ぎとなり、全員が慌ただしく戦闘準備を始めている。

意味が分からん……と、ディズモンは頭を抱える。
絶対になにかの間違いである。

こちらを裏切れば、どうなるか、あの脳筋ルドルフでも理解できる筈だった。
こちらのバックには魔人がついている。宣戦布告をするれば伝説の存在である魔人と戦うことになるし、なにより権力者の悲願である『永遠の命』に手が届かなくなる。

いくら馬鹿でもそんなことはしない。
つまり、この挙兵には何か狙いがあるに違いなかった。

「はっ、そうか。分かったぞ。あやつめ、我を脅して立場をあげるつもりか」

ディズモンは、同じ爵位とはいえ、ルドルフのことを辺境の田舎貴族と馬鹿にしている。だから、組織内の明確な立場を教えてやるために、分かりやすくヴァリアンツが下であると伝令を通して示した。

魔人と繋がりを持つこちらの方が、圧倒的に有利であるからこその、強気な行動だったが失敗だったようだ。

そのまま立場を分からせて、言いくるめるつもりだったが、噂以上に、ヴァリアンツは貴族の誇りとやらに煩いらしい。

「仕方ない、話をつけるか。今回はあちらが上手だったということで納得しよう。おい、お前達、戦闘準備を終えたらアジト前で待機しておけ。先に攻撃をするなよ? 私がルドルフと交渉する」

待機していた50人の兵士がぞろぞろとアジトから出ていく。
全員が領内では腕利きの猛者達だから、たとえ戦っても負ける気はしない。

しかし、無駄に兵力を減らす意味もない。
相手もどうせ、本気で戦うつもりはない。脅して、より有利な条件を引き出そうとしているだけだ。

「ふん、面倒だがいいだろう、ルドルフ・ヴァリアンツ。ここから先は舌戦といこうじゃないか。田舎貴族が、この私にどれだけ通用するか、見ものだな。ふっふっふ」






俺の愛馬が全力疾走で駆ける。
振り返れば、我が軍の騎馬隊が、歩兵達が、鬼の形相で全力疾走している。

士気が最高潮に達した兵たちに、俺は叫ぶ。

「敵は民の命を命とも思わぬ蛮族ッ! 見つけ次第ぶっ殺すことを許可する!」

「うおおおお! 久しぶりの戦争だぁ!」

「畑にディズモン共の血を撒いて肥料にしてやるぜぇ」

まるで世紀末のようにヒャッハーと声をあげる精鋭達。
頼もしい奴等だぜ。

目的地であるアジトの前に近づくと、ディズモン家の兵士が待ち受けていた。
兵士達が並ぶ真ん中には、腰に剣を携えたディズモン伯爵が堂々と立っているではないか。


「いやはや、ヴァリアンツ候、参ったよ。まさかこのような強引な一手にでるとはね」

余裕綽々とディズモン伯爵がゆっくり語りはじめる。
俺は馬の脇腹を踵で叩き、さらに速度を上げていく。

「組織内では明確な差があるとはいえ、王国内での我らの立場は同格だ。そのよしみで、候の相談にのってやろうじゃないか」

距離はまだある。
我が愛馬は韋駄天のごとき、疾風迅雷しっぷうじんらいの速さで駆け抜ける。右手で剣の柄を掴み、抜刀の構えをとる。

ぐんぐんと彼我の距離が埋まっていくと、途端にディズモン伯爵は、武器も構えないまま額に汗を流して狼狽えだす。戦場で丸腰とはいい度胸じゃないか。

「お、おい! 話を聞いているのか貴様ッ! なぜ馬を止めない、なぜ加速をする!? 剣を構えようとするな!」

それに応えるように、俺は鞘から漆黒の黒刀を引き抜いた。
夜空に浮かぶ満月の光で、破滅の剣ブレイクソードの刀身がきらめく。

「なにをするつもりだ!? 言葉を発せルドルフ・ヴァリアンツ! 脅しはもう理解した! 話し合いの時間であろう!?」

話し合いだと?
なにを馬鹿げたことを抜かしているのか。
すでにここは戦場であり、貴様の墓場だというのに。

「問答無用ぉぉぉぉ!」

バチバチと雷撃が飛び散り、刀身に纏わりつく。
渾身の一撃に、騎馬の突進力を上乗せして、破滅の剣ブレイクソードを振り下ろす!

「ディズモン伯爵おさがり下さい!」

「ぐっ!?」

刃がぶつかる寸前で、護衛らしき人物がディズモン伯爵を弾き飛ばす。その結果、破滅の剣ブレイクソードは護衛の兜に突き刺さり、そのままフルプレートを一刀両断にした。

雷撃の肉を焼く焦げ臭いが漂う。

「ちっ、外したか!」

一発で決めようと思ったのに!

「ああ、貴様は頭がおかしいのか!? 話し合いもなしで斬りかかるなどと!」

「悪党と交わす言葉などない! 全軍突撃ー!」


その言葉を合図に、猪突猛進の血に飢えたヴァリアンツ軍が、ディズモン軍を飲み込んだ。

戦闘が始まった。



(なぜだ? ルドルフは交渉をしにきたのではないのか!?)

鎧同士がぶつかる衝撃音が響く。剣を打ち合う音がいたるところから聞こえ、赤い炎、青い水、眩しく閃光する雷、魔法の光が戦場を駆け巡る。

「あ、ありえない! どうなっている!?」

先ほどまで静寂が支配していた夜の気配は、ヴァリアンツ軍の怒号によって一変していた。

降って湧いた恐怖に、ディズモンは後ずさる。

百歩、いや一万歩譲ったとして、戦いになるのは分かったが(全然分からないが)、普通話し合いくらいするだろ!

ディズモンはその場で地団駄を踏み、己を殺そうとした馬上のルドルフを睨みつける。

「この辺境の田舎貴族がッ! こんなことをして組織は黙っておらんぞ、立場を理解しているのか!?」

周囲を見渡せば、領内から連れてきた精鋭達が、ヴァリアンツ軍の一卒兵如きに、一太刀で斬り伏せられていく。

しかも、ヴァリアンツの兵は、怪我を負った負傷兵ですらも、一切怯むことなく次の獲物を探して、笑顔でディズモン軍に突撃している。

狂っている!

ヴァリアンツ兵がここまで強いとは聞いていないぞ!
なんだこの馬鹿げた戦闘力は!?

「立場を理解していないのは、貴様だディズモン!」

邪魔な護衛を切り伏せたルドルフが騎馬から降りて、ディズモンの前に立ちはだかる。

「我が領土で好き勝手暴れて生きて帰れると思うたか?」


ルドルフが一目惚れするような美しい漆黒の剣を構える。

「一騎打ちだ、剣を抜けいッ。腐っても貴族と言うならば、最後に貴族の一分をみせてみよ!」


―――剣戟の火花が散った

何合ほど、斬り結んだろうか。
ディズモンは迫りくるルドルフを振り払う為に、剣で応戦した。水の魔力を使い、全力で立ち向かうが、鬼気迫るルドルフにあっという間に追い詰められてしまう。

「ぐっ、ご、護衛は何をしている!?」

辺りを見渡しても、何故か周囲に味方はいない。

「父上の一騎打ちの邪魔をさせるなッ! 全力で抑え込め!」

ルドルフの息子ジンが指揮をとり、巧みに騎馬隊を操ってディズモン軍が一騎打ちに介入できないように、兵士を端へ端へと追いやっていく。

「ふざけるなぁぁぁ! 当主同士での一騎打ちなど馬鹿げておるわ!」

それは、普段腹芸を得意とする、ディズモンの渾身の心の叫びであった。

「エスカル! ゲンム! サリーネ! どこにいる!? 私を助けろ!」

最も腕が立ち、信頼のおける部下の名を呼ぶ。

―――しかし

ドカンと爆炎が響き、巨大な火柱が立ち上がる。

「おめーが、総大将か!? 中々やるじゃねーか、団長永久欠番の俺様が相手してやる!」

「くっそ、俺が総大将の訳ねーだろこの馬鹿ぁぁぁ!」

エスカルが赤髪の兵士一人に止められて苦戦している。

その反対では、晴天の夜空だというのに、一部だけ土砂ぶりの雨がふりそそいでいる。青髪の気の強そうな女がサリーネに剣の切っ先向けて見下ろす。

「雨宿りでもしてるつもりか、防戦一方でつまらんぞ」

「ちっ、化け物め!」

雨、一粒一粒が矢のように鋭利となり襲いかかる。サリーネは雨粒を剣で弾くので精一杯だった。

この調子では、ゲンムもどこかで足止めされていることだろう。

(我が最強の部下が……
我が自慢の軍隊が……
まるでゴミのようにあしらわれている)

追い詰めらたディズモンは、忌々しそうにルドルフに言葉を吐く。

「ちっ、こうなったらやむを得ん」

そう言って、ディズモンは懐から赤い液体が入った瓶を取り出した。
それをルドルフが恨みがましく睨みつける。まるでこれが何かを知っているように。



「ふふふ、副作用が恐ろしくて使えなかったが、死ぬよりはマシだろう。お前は道を間違った、ルドルフ・ヴァリアンツ! これが、伝説に伝わる魔人の力ッ!」

ディズモンが瓶の中身を飲み干すと、唐突に身体に変化が起きる。
全身の肌が血のように赤黒く染まる。
獣のくぐもった唸るような声をあげて、ディズモンの身体は二メートルを越す巨体に膨れ上がり、全身に血管が浮かぶ筋骨隆々の男に変身した。
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