10 / 42
覚醒?
しおりを挟む
―――朝。
俺の気分は今にも胃に穴が開きそうなほど暗く沈んでいる。悩みが多すぎて。
結局一睡もできずに朝食を食べるため食堂へやってきたのだが
「ハイネだけまた居ないな。どうしたんだ?」
席についてるのは、ジンとリアの二人。
俺も椅子に座り、食事が運ばれてくるのを待つ。我が家では、必ず食事は家族全員でと決まっている。だが、ハイネの姿が見当たらない。昨晩の夕食にも顔を出さなかった。
「お父さんが、ハイネお兄ちゃんを追い出すとか言ったから、顔を出しづらいんでしょ!」
リアがそう発言する。不満を示すためか俺にそっぽを向むけると、リアのおさげ髪がブンブンと揺れた。
「そう怒るな。あれは仕方のないことだったんだ。許せ」
「いいやっ、発言を撤回するまで絶対に許さないからね。いい? ハイネお兄ちゃんは将来リアと結婚するのっ。幸せな家庭を築くんだから、一生家を出ていく日はありませんーっだ!」
「お前な……もう十五だろ。兄弟で結婚だなんて、いつまで子供みたいなこと言ってるんだ」
非現実的な発言をするリアは、俺にとって初めての娘ということもあり、存分に甘やかせて育てた記憶がある。
ハイネも似たような気持ちだったのか、初めての妹で親子そろって、蝶よ花よと可愛がった結果、とんでもないブラコンが爆誕してしまった。
「家族とか兄弟とか関係ないし、愛はどんな障害でも乗り越えるものだし」
「はあ、勘弁してくれよ。ジンも何か言ってくれ。リアは俺のいうことにまるで耳を貸さない」
「ふうん」
ジンが考え込むように、あごに手を添える。ジンは今年で二十歳になる我が家の頼れる長男。
身長も既に俺を追い抜き、手足も長くモデル体型の美男子。いずれ領主の立場を引き継ぐジンには、他の兄弟よりも厳しく育ててきた。自頭も良く、今では仕事関連について色々相談に乗ってもらっている。
「父上の言う通りだ。もう子供ではない。そろそろ分別のある行動を心がけるべきだ」
「おお分かってくれるか。兄弟でなんてやはり間違っている」
「ええ、血縁者同士で子供を産むのリスクが高すぎる。だから結婚するにしても軽いスキンシップに程度に留めた方が良いかもしれませんね」
「いや、ジン、お前さあ、そういうことじゃなくてな……はあ」
そうだった。コイツも兄弟に対しては激アマだった。
つまり、相談するだけ無駄。普段は真面目で良い奴なんだが、なぜかハイネやリアのことになると、視野が究極に狭くなるのが珠に瑕だ。ハイネもちょっと変だし、我が家でまともなのは俺くらいか。
「それはそうと、ハイネが食堂に現れないのは、単純に殴られ過ぎて口の中が痛いからごはん食べれないそうですよ」
とジンが教えてくれる。
「ええ!? お父さんまた、殴ったの!? しっんじらんない! リアが看病してあげないと」
「それには及ばない。セレンが付きっきりで面倒をみてくれてる」
「なんだ。それならよかったわ。セレンがいるなら安心ね。お父さんが近くにいたら、ハイネお兄ちゃんの身がもたないもの」
いや、むしろハイネをそこまで痛めつけたのはセレンの方だぞ。俺は途中で怖くなって止めたのに。
「けれど、ハイネも父上にしぼられて随分と心を入れ替えたらしい。今は一分一秒を無駄にするのが惜しいと言って、厳しい鍛錬を己に課していたよ」
「なにっ!? それは本当か!」
ジンの言葉で、俺は椅子から立ち上がる。
「ええ、『ついに目が覚めた』と言ってました」
「おお!」
なんたることだ!
ついに目覚めたか! もしハイネが勇者にならなかったら、この先どうなるのか不安で仕方なかったが、息子は己の使命に気が付いたようだ。
結局、親が子を思い通りにするのは土台無理な話だったということ。自然と子供は親の背中を追い抜いて成長していくらしい。
なんか急に一日がバラ色に見えてきたぞ。
「それで、ハイネは今どこにいる!? 道場か? それとも修練場か? 頑張っているなら、一言ぐらい声をかけてあげないとな。食事も忘れる程熱中してるなら、差し入れも必要か!」
パンパンと手を叩く
「マーヤはいるか!? 料理長に豪華な馳走を用意させよ!」
「落ち着いてください父上。ハイネは道場にも修練場にもおりません」
「なに、それではどこに? まさか滝行でもしてのるか?」
「そんなまさか。普通に資料室ですよ」
「し、資料室? なぜそのような奇怪な場所に。室内で剣など振り回しては危ないだろ」
「わっはっは、父上こそ奇妙なことをいいますな。なぜハイネが剣を持つ前提なので?」
「それはお前が、ハイネが戦士として『目覚めた』と言ったからであろう!」
「とんだ早とちりだ。いいですか、ハイネが言ってたのは戦士に『目覚めた』のではなく……文官としてですよ」
「はあああああああ!?」
「父上にどうすれば認めて貰えるか悩んだ末にだした答えみたいですよ。わっはっは流石は我が弟、無属性と宣告された翌日に立直れるとは素晴らしい……って父上どこにいくのです!?」
「あの馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は全速力で資料室に駆け出していた。
俺の気分は今にも胃に穴が開きそうなほど暗く沈んでいる。悩みが多すぎて。
結局一睡もできずに朝食を食べるため食堂へやってきたのだが
「ハイネだけまた居ないな。どうしたんだ?」
席についてるのは、ジンとリアの二人。
俺も椅子に座り、食事が運ばれてくるのを待つ。我が家では、必ず食事は家族全員でと決まっている。だが、ハイネの姿が見当たらない。昨晩の夕食にも顔を出さなかった。
「お父さんが、ハイネお兄ちゃんを追い出すとか言ったから、顔を出しづらいんでしょ!」
リアがそう発言する。不満を示すためか俺にそっぽを向むけると、リアのおさげ髪がブンブンと揺れた。
「そう怒るな。あれは仕方のないことだったんだ。許せ」
「いいやっ、発言を撤回するまで絶対に許さないからね。いい? ハイネお兄ちゃんは将来リアと結婚するのっ。幸せな家庭を築くんだから、一生家を出ていく日はありませんーっだ!」
「お前な……もう十五だろ。兄弟で結婚だなんて、いつまで子供みたいなこと言ってるんだ」
非現実的な発言をするリアは、俺にとって初めての娘ということもあり、存分に甘やかせて育てた記憶がある。
ハイネも似たような気持ちだったのか、初めての妹で親子そろって、蝶よ花よと可愛がった結果、とんでもないブラコンが爆誕してしまった。
「家族とか兄弟とか関係ないし、愛はどんな障害でも乗り越えるものだし」
「はあ、勘弁してくれよ。ジンも何か言ってくれ。リアは俺のいうことにまるで耳を貸さない」
「ふうん」
ジンが考え込むように、あごに手を添える。ジンは今年で二十歳になる我が家の頼れる長男。
身長も既に俺を追い抜き、手足も長くモデル体型の美男子。いずれ領主の立場を引き継ぐジンには、他の兄弟よりも厳しく育ててきた。自頭も良く、今では仕事関連について色々相談に乗ってもらっている。
「父上の言う通りだ。もう子供ではない。そろそろ分別のある行動を心がけるべきだ」
「おお分かってくれるか。兄弟でなんてやはり間違っている」
「ええ、血縁者同士で子供を産むのリスクが高すぎる。だから結婚するにしても軽いスキンシップに程度に留めた方が良いかもしれませんね」
「いや、ジン、お前さあ、そういうことじゃなくてな……はあ」
そうだった。コイツも兄弟に対しては激アマだった。
つまり、相談するだけ無駄。普段は真面目で良い奴なんだが、なぜかハイネやリアのことになると、視野が究極に狭くなるのが珠に瑕だ。ハイネもちょっと変だし、我が家でまともなのは俺くらいか。
「それはそうと、ハイネが食堂に現れないのは、単純に殴られ過ぎて口の中が痛いからごはん食べれないそうですよ」
とジンが教えてくれる。
「ええ!? お父さんまた、殴ったの!? しっんじらんない! リアが看病してあげないと」
「それには及ばない。セレンが付きっきりで面倒をみてくれてる」
「なんだ。それならよかったわ。セレンがいるなら安心ね。お父さんが近くにいたら、ハイネお兄ちゃんの身がもたないもの」
いや、むしろハイネをそこまで痛めつけたのはセレンの方だぞ。俺は途中で怖くなって止めたのに。
「けれど、ハイネも父上にしぼられて随分と心を入れ替えたらしい。今は一分一秒を無駄にするのが惜しいと言って、厳しい鍛錬を己に課していたよ」
「なにっ!? それは本当か!」
ジンの言葉で、俺は椅子から立ち上がる。
「ええ、『ついに目が覚めた』と言ってました」
「おお!」
なんたることだ!
ついに目覚めたか! もしハイネが勇者にならなかったら、この先どうなるのか不安で仕方なかったが、息子は己の使命に気が付いたようだ。
結局、親が子を思い通りにするのは土台無理な話だったということ。自然と子供は親の背中を追い抜いて成長していくらしい。
なんか急に一日がバラ色に見えてきたぞ。
「それで、ハイネは今どこにいる!? 道場か? それとも修練場か? 頑張っているなら、一言ぐらい声をかけてあげないとな。食事も忘れる程熱中してるなら、差し入れも必要か!」
パンパンと手を叩く
「マーヤはいるか!? 料理長に豪華な馳走を用意させよ!」
「落ち着いてください父上。ハイネは道場にも修練場にもおりません」
「なに、それではどこに? まさか滝行でもしてのるか?」
「そんなまさか。普通に資料室ですよ」
「し、資料室? なぜそのような奇怪な場所に。室内で剣など振り回しては危ないだろ」
「わっはっは、父上こそ奇妙なことをいいますな。なぜハイネが剣を持つ前提なので?」
「それはお前が、ハイネが戦士として『目覚めた』と言ったからであろう!」
「とんだ早とちりだ。いいですか、ハイネが言ってたのは戦士に『目覚めた』のではなく……文官としてですよ」
「はあああああああ!?」
「父上にどうすれば認めて貰えるか悩んだ末にだした答えみたいですよ。わっはっは流石は我が弟、無属性と宣告された翌日に立直れるとは素晴らしい……って父上どこにいくのです!?」
「あの馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は全速力で資料室に駆け出していた。
118
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!
人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。
魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」
どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。
人生は楽しまないと勿体ない!!
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる