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覚醒?
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―――朝。
俺の気分は今にも胃に穴が開きそうなほど暗く沈んでいる。悩みが多すぎて。
結局一睡もできずに朝食を食べるため食堂へやってきたのだが
「ハイネだけまた居ないな。どうしたんだ?」
席についてるのは、ジンとリアの二人。
俺も椅子に座り、食事が運ばれてくるのを待つ。我が家では、必ず食事は家族全員でと決まっている。だが、ハイネの姿が見当たらない。昨晩の夕食にも顔を出さなかった。
「お父さんが、ハイネお兄ちゃんを追い出すとか言ったから、顔を出しづらいんでしょ!」
リアがそう発言する。不満を示すためか俺にそっぽを向むけると、リアのおさげ髪がブンブンと揺れた。
「そう怒るな。あれは仕方のないことだったんだ。許せ」
「いいやっ、発言を撤回するまで絶対に許さないからね。いい? ハイネお兄ちゃんは将来リアと結婚するのっ。幸せな家庭を築くんだから、一生家を出ていく日はありませんーっだ!」
「お前な……もう十五だろ。兄弟で結婚だなんて、いつまで子供みたいなこと言ってるんだ」
非現実的な発言をするリアは、俺にとって初めての娘ということもあり、存分に甘やかせて育てた記憶がある。
ハイネも似たような気持ちだったのか、初めての妹で親子そろって、蝶よ花よと可愛がった結果、とんでもないブラコンが爆誕してしまった。
「家族とか兄弟とか関係ないし、愛はどんな障害でも乗り越えるものだし」
「はあ、勘弁してくれよ。ジンも何か言ってくれ。リアは俺のいうことにまるで耳を貸さない」
「ふうん」
ジンが考え込むように、あごに手を添える。ジンは今年で二十歳になる我が家の頼れる長男。
身長も既に俺を追い抜き、手足も長くモデル体型の美男子。いずれ領主の立場を引き継ぐジンには、他の兄弟よりも厳しく育ててきた。自頭も良く、今では仕事関連について色々相談に乗ってもらっている。
「父上の言う通りだ。もう子供ではない。そろそろ分別のある行動を心がけるべきだ」
「おお分かってくれるか。兄弟でなんてやはり間違っている」
「ええ、血縁者同士で子供を産むのリスクが高すぎる。だから結婚するにしても軽いスキンシップに程度に留めた方が良いかもしれませんね」
「いや、ジン、お前さあ、そういうことじゃなくてな……はあ」
そうだった。コイツも兄弟に対しては激アマだった。
つまり、相談するだけ無駄。普段は真面目で良い奴なんだが、なぜかハイネやリアのことになると、視野が究極に狭くなるのが珠に瑕だ。ハイネもちょっと変だし、我が家でまともなのは俺くらいか。
「それはそうと、ハイネが食堂に現れないのは、単純に殴られ過ぎて口の中が痛いからごはん食べれないそうですよ」
とジンが教えてくれる。
「ええ!? お父さんまた、殴ったの!? しっんじらんない! リアが看病してあげないと」
「それには及ばない。セレンが付きっきりで面倒をみてくれてる」
「なんだ。それならよかったわ。セレンがいるなら安心ね。お父さんが近くにいたら、ハイネお兄ちゃんの身がもたないもの」
いや、むしろハイネをそこまで痛めつけたのはセレンの方だぞ。俺は途中で怖くなって止めたのに。
「けれど、ハイネも父上にしぼられて随分と心を入れ替えたらしい。今は一分一秒を無駄にするのが惜しいと言って、厳しい鍛錬を己に課していたよ」
「なにっ!? それは本当か!」
ジンの言葉で、俺は椅子から立ち上がる。
「ええ、『ついに目が覚めた』と言ってました」
「おお!」
なんたることだ!
ついに目覚めたか! もしハイネが勇者にならなかったら、この先どうなるのか不安で仕方なかったが、息子は己の使命に気が付いたようだ。
結局、親が子を思い通りにするのは土台無理な話だったということ。自然と子供は親の背中を追い抜いて成長していくらしい。
なんか急に一日がバラ色に見えてきたぞ。
「それで、ハイネは今どこにいる!? 道場か? それとも修練場か? 頑張っているなら、一言ぐらい声をかけてあげないとな。食事も忘れる程熱中してるなら、差し入れも必要か!」
パンパンと手を叩く
「マーヤはいるか!? 料理長に豪華な馳走を用意させよ!」
「落ち着いてください父上。ハイネは道場にも修練場にもおりません」
「なに、それではどこに? まさか滝行でもしてのるか?」
「そんなまさか。普通に資料室ですよ」
「し、資料室? なぜそのような奇怪な場所に。室内で剣など振り回しては危ないだろ」
「わっはっは、父上こそ奇妙なことをいいますな。なぜハイネが剣を持つ前提なので?」
「それはお前が、ハイネが戦士として『目覚めた』と言ったからであろう!」
「とんだ早とちりだ。いいですか、ハイネが言ってたのは戦士に『目覚めた』のではなく……文官としてですよ」
「はあああああああ!?」
「父上にどうすれば認めて貰えるか悩んだ末にだした答えみたいですよ。わっはっは流石は我が弟、無属性と宣告された翌日に立直れるとは素晴らしい……って父上どこにいくのです!?」
「あの馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は全速力で資料室に駆け出していた。
俺の気分は今にも胃に穴が開きそうなほど暗く沈んでいる。悩みが多すぎて。
結局一睡もできずに朝食を食べるため食堂へやってきたのだが
「ハイネだけまた居ないな。どうしたんだ?」
席についてるのは、ジンとリアの二人。
俺も椅子に座り、食事が運ばれてくるのを待つ。我が家では、必ず食事は家族全員でと決まっている。だが、ハイネの姿が見当たらない。昨晩の夕食にも顔を出さなかった。
「お父さんが、ハイネお兄ちゃんを追い出すとか言ったから、顔を出しづらいんでしょ!」
リアがそう発言する。不満を示すためか俺にそっぽを向むけると、リアのおさげ髪がブンブンと揺れた。
「そう怒るな。あれは仕方のないことだったんだ。許せ」
「いいやっ、発言を撤回するまで絶対に許さないからね。いい? ハイネお兄ちゃんは将来リアと結婚するのっ。幸せな家庭を築くんだから、一生家を出ていく日はありませんーっだ!」
「お前な……もう十五だろ。兄弟で結婚だなんて、いつまで子供みたいなこと言ってるんだ」
非現実的な発言をするリアは、俺にとって初めての娘ということもあり、存分に甘やかせて育てた記憶がある。
ハイネも似たような気持ちだったのか、初めての妹で親子そろって、蝶よ花よと可愛がった結果、とんでもないブラコンが爆誕してしまった。
「家族とか兄弟とか関係ないし、愛はどんな障害でも乗り越えるものだし」
「はあ、勘弁してくれよ。ジンも何か言ってくれ。リアは俺のいうことにまるで耳を貸さない」
「ふうん」
ジンが考え込むように、あごに手を添える。ジンは今年で二十歳になる我が家の頼れる長男。
身長も既に俺を追い抜き、手足も長くモデル体型の美男子。いずれ領主の立場を引き継ぐジンには、他の兄弟よりも厳しく育ててきた。自頭も良く、今では仕事関連について色々相談に乗ってもらっている。
「父上の言う通りだ。もう子供ではない。そろそろ分別のある行動を心がけるべきだ」
「おお分かってくれるか。兄弟でなんてやはり間違っている」
「ええ、血縁者同士で子供を産むのリスクが高すぎる。だから結婚するにしても軽いスキンシップに程度に留めた方が良いかもしれませんね」
「いや、ジン、お前さあ、そういうことじゃなくてな……はあ」
そうだった。コイツも兄弟に対しては激アマだった。
つまり、相談するだけ無駄。普段は真面目で良い奴なんだが、なぜかハイネやリアのことになると、視野が究極に狭くなるのが珠に瑕だ。ハイネもちょっと変だし、我が家でまともなのは俺くらいか。
「それはそうと、ハイネが食堂に現れないのは、単純に殴られ過ぎて口の中が痛いからごはん食べれないそうですよ」
とジンが教えてくれる。
「ええ!? お父さんまた、殴ったの!? しっんじらんない! リアが看病してあげないと」
「それには及ばない。セレンが付きっきりで面倒をみてくれてる」
「なんだ。それならよかったわ。セレンがいるなら安心ね。お父さんが近くにいたら、ハイネお兄ちゃんの身がもたないもの」
いや、むしろハイネをそこまで痛めつけたのはセレンの方だぞ。俺は途中で怖くなって止めたのに。
「けれど、ハイネも父上にしぼられて随分と心を入れ替えたらしい。今は一分一秒を無駄にするのが惜しいと言って、厳しい鍛錬を己に課していたよ」
「なにっ!? それは本当か!」
ジンの言葉で、俺は椅子から立ち上がる。
「ええ、『ついに目が覚めた』と言ってました」
「おお!」
なんたることだ!
ついに目覚めたか! もしハイネが勇者にならなかったら、この先どうなるのか不安で仕方なかったが、息子は己の使命に気が付いたようだ。
結局、親が子を思い通りにするのは土台無理な話だったということ。自然と子供は親の背中を追い抜いて成長していくらしい。
なんか急に一日がバラ色に見えてきたぞ。
「それで、ハイネは今どこにいる!? 道場か? それとも修練場か? 頑張っているなら、一言ぐらい声をかけてあげないとな。食事も忘れる程熱中してるなら、差し入れも必要か!」
パンパンと手を叩く
「マーヤはいるか!? 料理長に豪華な馳走を用意させよ!」
「落ち着いてください父上。ハイネは道場にも修練場にもおりません」
「なに、それではどこに? まさか滝行でもしてのるか?」
「そんなまさか。普通に資料室ですよ」
「し、資料室? なぜそのような奇怪な場所に。室内で剣など振り回しては危ないだろ」
「わっはっは、父上こそ奇妙なことをいいますな。なぜハイネが剣を持つ前提なので?」
「それはお前が、ハイネが戦士として『目覚めた』と言ったからであろう!」
「とんだ早とちりだ。いいですか、ハイネが言ってたのは戦士に『目覚めた』のではなく……文官としてですよ」
「はあああああああ!?」
「父上にどうすれば認めて貰えるか悩んだ末にだした答えみたいですよ。わっはっは流石は我が弟、無属性と宣告された翌日に立直れるとは素晴らしい……って父上どこにいくのです!?」
「あの馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は全速力で資料室に駆け出していた。
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