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 言っている事の意味が分からずに僕は混乱する。
魔力? 桁違い? 何言ってんだコイツら。
僕にそんな魔力あるわけないだろ。あったらこれまで苦労してないよ。
そもそも、魔法どころか僕には魔力を感じる力さえない。

これまでも、誰かがアイツの魔力は凄げぇなとか言っていたら、隣で適当にあわせて、ふっそうだな、だがまだ甘いっ! とそれとなーく誤魔化してきた僕だぞっ!?
一体何をいってるんだか。

「くっ、まさかここまで化け物だったなんて!」

「やべぇぞ、エミリアもう一度だっ!」

「ええ、死者よ焼き払え!!!」

命令されたゾンビが立ち上がり、またファイアーボールを撃ってくる。
僕は今度の今度こそ、終わったと目を瞑って死を覚悟したが、やっぱり何も起きなかった。

そよ風すらこない。

えっ、本当に君たち何してるの??

「だめっ、魔力差が激しすぎて消滅してしまうわっ!」

「くそっ、まさかテメェ本当にssクラスの冒険者だったのかっ!?」

「あ、いや探偵ですけど?」

「馬鹿言うんじゃねぇ!! 探偵ごときがそんなに強くてたまるかっ!」

と、慌ててふためくフローラが僕を罵倒してきたけど、むしろ怒鳴りたいのは僕の方だ。何度も言うけど僕は探偵だから。ハードボイルドな名探偵、マーロさんだ。
何回言わすの? 脳筋すぎん?

それと、全国の探偵に謝れっ! 自分で言うのも恥ずかしいが、世界広しと言えど、ここまで弱い探偵は僕くらいだっ!
僕が探偵を馬鹿にされて、無言で怒っていると、諦めの悪いエミリアがもう一度魔法を命令する。

「もしかしたら炎耐性が高いのかもしれないわ! ならこれでどう? 死者よ岩石で敵を撃ち滅ぼせ!!」

さっきからやたら働かされている忙しいゾンビは、無抵抗の僕に向かって大きな岩石を投擲してきた。ヒーー、今度こそ死ぬかっ!? と目を瞑ったが、やはりなにも起きない。
 
「駄目だっ、また消滅しやがった!!?」

「なんなのよ、一体っ」

顔面を殴られる時に反射的に目を瞑るのと一緒で、魔法が飛んで来る時、怖くて目を閉じているから僕には何が起きているのか全く分からない。だが、二人の言葉を聞いて僕はピンときた。

魔法が消滅?

ははん、さてはこのゾンビ魔力切れだな。
最初の威嚇の一撃で魔力を全部使い果たして、もう僕に魔法を飛ばすだけの力がないのだっ!でなければ魔力の皆無な僕が強力な魔法をレジストして無効化できる訳がない。

きっと、まだエミリアの蘇生魔術は未完成でエラーが起きているのだ。
そうとも知らずに彼女達は勘違いして僕にビビっている。
ぷぷぷ、なんという奇跡! なんという主人公力っ!
いま僕は幸福の女神に愛されているぞぉ。

そうと分かれば話は早い。


僕はこれまでのビビりモードを脱ぎ捨てて、一瞬で意味深系、最強主人公ムーブにはいる。

「ふっ、これが強さか、虚しいものだな。もう終わりにしようか」


僕が腹の底から気合いを入れて、出来る限りの眼光で二人を睨みつけると、彼女ら反応が劇的に変わり、ヒッと悲鳴をあげてプルプルと身を寄せあって固まった。
その反応を見るのが面白くて、僕はついイタズラをしてしまいたくなる。

「どうした、かかってこないのか? 僕はまだ三千もの魔術の内、一つも披露してないんだが?」

「さ、三千だとっ!?」

「ありえないわっ! いくらssクラスの冒険者とはいえそんな数を・・・でもこの魔力量ならあり得るのっ!?」

あからさまに怯える態度に僕は笑い堪えるので必死だった。
ぷー、これが強者というやつか。なんて罪深いのだ。

本当は三千の内の一つどころか、ゼロの内のゼロで完全に手の内を全て晒してしまっている訳だが、面白いくらいに引っ掛かってくれる。

馬鹿めっ、力に溺れて頭脳を磨かないからこうなるのさ。探偵を馬鹿にした罰だっ!

「さぁ、はやくその少女を返してもらう。さすれば命まではとらないでおこう」

「くっ・・・いくら脅されても、この子は渡さないわっ!」

「そうだっ、身内を売るわけにはいかねぇ!」

「・・なん・・だと・・」

・・・・・マジかよ・・・いや、ありえないだろ。
僕は二人の覚悟に若干引いてしまった。
ヤバすぎだろ。なにこいつら。

命の危険が迫ってるのに、それでも渡さないとかレズショタの王かな? 根性すわりすぎだろぉ! その情熱をもっと世間の為に活かせよ!
しかも青髪のフローラとかいうやつは、勝手に身内呼ばわりしている。

妄想力ならまぎれもなくssクラスだ。

ミアちゃんが可哀想すぎる。こんなクズどもの味方にされるなんて。
しかし、彼女達の情熱はまぎれもなく本物だ。
無理矢理取ろうとしたら、抵抗されて実は僕が弱いとばれてしまう。

どうしたものかと考えていると、フローラが僕の隙をついて祭壇に向かって一直線に走り出した。
なんだ? と僕が視線で追いかけていくと、フローラが祭壇の中央で立ち止まり、ニヤリと笑った。その光景に僕は肝を冷やした。

「ふふふ、さっきから気になっていたが、この堂々と寝ているコイツ、お前の味方だろう?」

なんと、フローラが爆睡中のギガンテス君の顔面に足を置いてしまった!
僕は全身から冷や汗を流して、慌てて否定する。

「え、えーー!? 全然知らない人! だれそれ!? ピュ~、ピュ~、ピゅ~~」

誤魔化す為に口笛を吹こうとしたが、唇が震えてうまく吹けなかった。

「ふふ、面白いくらい動揺しているなぁ。こいつの命が惜しくなければさっさと、その魔力をしまって、ファイアーボールで焼かれなっ!」

「わ、わかったから、とりあえずギガンテス君から離れてっ!」

とりあえず僕は最悪の事態を避けるため、全力で頭を振るが、どうしたら良いのか分からない。この世で一番難しいことは、無いものを失くせと言われることだ。
宇宙人を殺せと言ってるのと同じで、存在すらあやふやな物をどうしろというのだ。
現実にあるものならまだ可能性は残されているが、相手が勝手に勘違いしているだけで、生憎、僕には魔力なんて無いのだからしまいようがない。

ロジックからして破綻している。
けど興奮したフローラは錯乱しているらしい。
僕が何もしていないとみるやいなや、短剣でギガンテス君の首に刃を添えて叫ぶ。

「さっさとしろ! 俺は本気だぞ、やらないなら5秒毎にこいつを切り刻んでやる」

「ちょまってくれ!!! それはまずい、絶対まずいぞっ」

「だったらはやくしろ」

「君の為にも言っているんだっ、そいつを無理矢理起こしたらとんでもないことになるぞっ!?」

「5・・・4・・・3・・」

僕は聞く耳を持たないフローラに、もう止まらないと見切りをつけて、急いでミアちゃんを回収するために走りだした。幸い、僕にビビっていたエミリアは案外あっさりとミアちゃんを手放した為、どうにかなった。

けれど、フローラのカウントはとまらずに、事態は最悪の方向に向かっていた・・・

「1・・・・0・・まず一撃目っ!」

フローラは思い切りナイフを振り下ろした・・・が、ギガンテス君の体に当たると、キーーーンと金属にぶつかったような高い音をだして、ナイフが根元から折れてしまった。

「へ?」

ギガンテス君の固さに驚いて固まるフローラ。
僕は逃げろと言いたかったが、何がおこったんだと考えている様子でフローラはその場にとどまっている。
そして数瞬後、フローラはまるで瞬間移動したかのように祭壇から姿を消して、壁に激突した。

端からみていたエミリアも何が起こったのか理解できていないようで、呆然とフローラが衝突した壁をみている
だが、僕は経験上から何が起こったのかを知っていた・・・・・・・・・・・・そう、ギガンテス君が殴ったのだ。目にもとまらぬ速さでそばにいたフローラを・・・
僕の考えを裏付けするようにムクっとギガンテス君が起きあがった。

ただいつもと様子が違う。
あの呑気にダルそうにしているいつものギガンテス君はそこにはいない。
鋭い眼光でギラギラと周囲を見渡して、頭には普段生えていない立派な角が二本ニョキニョキと伸びてきている。
完全に魔大陸で出会った頃の、あの狂乱の破壊神と恐れられていたギガンテス君に戻っていた。

「だぁれだぁぁ! 俺様の眠りを妨げたクソはぁぁ!!」

怒りの咆哮が、祭壇に響き渡る・・・・・
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