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カッコよく守ると宣言したものの、現状ではミアちゃんを救う方法なんて一つも思い浮かばなかい。

魔法はおろか、魔力の存在すら感知できない最弱の男、それが僕だ。
魔法で火をつけられれば瞬く間に燃えてしまうし、冒険者の鍛えられた拳で殴られれば、頭蓋骨が爆発する自信がある。

前の世界の価値観なら当たり前の事でも、こと凶悪の異世界の常識からすると、僕は妙に燃えやすくて、柔らかい軟弱な成人男性に早変わりしてしまう。
神がいるなら呪たくなるほど、僕はこの世界に適応していない、よそ者だ。
一般人に毛が生えたモブだって、僕にとっては、まごう事なき強敵。

ましてや、犯罪に手を染めて闇に生きている目の前の二人が、その辺の雑魚より弱い訳がなかった。

戦ったところで勝ち目はないが、逃げる脚力もないので、悲しいが、僕がミアちゃんに出来る事は精々肉壁となって僅かでも未来に命を繋いであげるくらいだ。
それでも、小さな子供の命を助けられる可能性が少しでもあるなら、奇跡を信じて運命のテーブルに自分の命をベッドするのがハードボイルドな探偵という奴さ。

僕はいつ魔法が飛んできても良いようにミアちゃんをギュっと抱きしめて、攻撃に備える。

「貴方、人質を盾にするなんて男としてのプライドはないの!?」

僕を見て、エミリアと呼ばれていた女が、非難する目で睨みつけてくるが、言っている意味がわからない。
人を何度も犯罪者呼ばわりしやがって、僕はただこの子をお前達の攻撃から守っているだけだぞ!?

「まるで僕がミアちゃんに毒を飲ませて攫おうとしてる誘拐犯みたいに言うなっ!」

自分達がやった事を、よりにもよって正義の味方である僕に擦り付けようとするとは怒りが湧いてくるぞ!?

 「そのまんまでしょっ!? くっ、駄目だこの人頭が壊れてるわ。フローラ、まずはミアを奪うわよ?」

「ああ、いっちょ俺等の研究成果をみせてやろうぜ」


「・・・・そうね、試運転には丁度いいわ」

「お前は詠唱に入れ。その間の隙は俺がカバーする」

「任せたわ。まだ未完成の術だから相当時間が掛かるからよろしくお願い」

と言うと、青髪の女フローラが腰につけていた二本の短剣を構えて、エミリアを背にして庇うように立った。

僕は二人のやりとりに、平気な顔を繕ってはいるが、内心ヤバイっ、このままでは本当に戦闘が始まってしまうぞ死ぬっ死ぬっ死ぬぅぅ、と焦りに焦っていた。

とりあえず適当に話かけて、二人を何とか落ち着かせようと、名探偵の明晰な頭脳で話題を探す・・



が、キャンディー狂のレズショタと共通の話題なんて、いくら探しても思い浮かばなかった。というか、もしある人がいたら、その人は完全に犯罪者のそれだ。


僕は頭の中が真っ白になり、苦し紛れにふっ、と笑ってしまった。

すると、二人が笑い声に反応してきた。

「ないが可笑しいんだテメエ」

「・・・・いや、なに。隙があろうとなかろうと僕には関係ないからつい笑ってしまってね」

僕までの境地に達すると、不意をつこうが、不意をつかまいが同じだ。前から襲おうと、例え、いきなり後ろから襲いかかっても結果は等しく同じだ。間違いなく僕の死で終わる。

だと言うのに彼女達はどう受け取ったのか、何故か額に青筋をうかべて怒りはじめてしまった。

「ずいぶんと、自信があるんだな。仮にもAクラス冒険者パーティー『死の宣告者』を前に余裕じゃないか」


「そりゃ・・・僕からしたらDクラスでもAクラスでもかわらないからね?」

僕にしてみれば階級の差なんて些事だ。

冒険者しているだけで、尻尾巻いて逃げる恐怖の対象だ。

というか、君達冒険者だったのね。しかも『死の宣告者』って最近どこかで聞いたことがある気がする。

うーん、思い出せないな。とりあず彼女達を見て、僕から言えるのは冒険者はやっぱり僕とは合わないという事くらい。

「ちっ・・・Sクラスじゃなきゃ相手にならないってか。ずいぶんとでかい口だな。ならお望み通り全力で相手してやんよ」

「・・・えっ? いやいや・・あれ?」

僕は会話でリラックスさせて戦闘を回避させようとしていた筈なのに、何故か相手の全力を引き出してしまった。

ちょっと、世間話しただけでブチ切れるとか、おかしいだろ。短気すぎる。逆に火に油を注いでしまうとか聞いてない。

このままではマズいと、僕は諦めずにもう一度、諭すように優しく声をかける。

「戦いなんて下らないよ。ねぇもうやめにしないか?」

「下らないだと!?」

「そうさ、戦う前から結果が見えているじゃないか(僕が死ぬ)」

「・・・確かにテメエが本当にSクラスなら俺等に勝ち目はないが、どうもそうには見えねぇ」

「まあ、僕はSクラスではないからね・・・」


と、僕が言うとフローラは目をカっと見開いて初めて動揺を見せる。

「まさか・・・テメェっ、SSクラス冒険者って言いたいのかっ!!? ちっ、それならDクラスもAクラスも変わらねぇ分けだぜ。 いいだろう、その言葉が本当か試してやるっ」

もう嫌いこの人。まったく会話にならないんだが?

僕は探偵だって言ってんだろ。これだから脳まで筋肉で出来ている冒険者は嫌いなんだ。

なぜ底辺の僕が、そんな伝説的に強そうな人になるのだろうか。

一流の戦士は相手のたたずまいを見ただけで、ある程度の力量を見極めるじゃないのかよ。

はっはっは、さては君、二流だなっ? と心の中で冗談を飛ばすけど、もうフローラは短剣で僕に突撃する姿勢をとっていた。

僕は、ヤバイっと脊髄反射でミアちゃんを抱きしめる。

すると、「ちっ」と舌打ちが聞えて、フローラが止まった。

どうやら頭に血がのぼりすぎて、ミアちゃんの存在を一瞬忘れかけていたらしい。

おそらく彼女達は僕を殺した後に、たっぷりミアちゃんを楽しんでから殺すつもりなんだろ。

レズショタの性癖に救われるなんて世も末だな。
興奮するフローラに、後ろからエミリアが声をかける。


「落ち着きなさいフローラ。あんな奴がSクラスなわけないでしょ」

「・・・それも、そうだな。挑発されてキレちまったぜ」

勝手にキレてた癖になんて言い草だよっ!?
僕はこれっぽっちも挑発なんてしてないぞ!

普通に会話してたら君がキレただけなのに・・・
僕がハアと溜息をこぼすと、フローラがまたブチキレそうな目で僕をにらむ。

「フローラ、貴方の悪い所よ。常に冷静になりなさい」

「ちっ、分かってるよ。 それより術は完成したのかよ」

「ええ、あとは最後の一句で終わりだわ」


エミリアが、僕を見て微笑む。

「とんだ自信家ね。魔術師相手に長文詠唱が終わるまで会話して待つなんて・・」

「まあ、なんなら最後まで会話していたいけどね」

「ふふ、面白い冗談を言うじゃない。気に入ったわ、貴方を殺した後、実験にその体を使ってあげるわ。さあ、お遊びはここまでよ、これで私の魔術は完成する『奈落に眠る魂よ、その力をいま、仮初の肉体に宿し権限せよ、降霊術フェイク死者蘇生リサシテイション!!!』」


詠唱が終わると同時に、エミリアが地面に手をつけると、そこに幾何学模様の魔法陣が出現した。そして、魔法陣の中から、ズブズブと黒い棺が現れる。

何が起こっているのか理解できずに、ただ見守っていると、誰も触っていないのに棺の蓋が内側から開けられて、中から魔術師の恰好をしたゾンビがでてきた。

「ふふふ、これこそが私達の研究の成果、不可能と言われた死者蘇生よ!!!」

幻と言われた禁忌の魔法を前に、僕は茫然と現れたそれを見つめて思った。

・・・・・・死者蘇生・・・・・いや、ゾンビってもう死んでるよね?
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